笑い方を忘れた令嬢

Blue

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竜騎士

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 道が出来た向こうには背の高い人物が立っていた。アイスブルーの髪は涼やかな印象だが、無表情のせいか冷たそうに見える。その男性が着ているのは紺色の騎士服だった。騎士服を着ている騎士たちはたくさん目にしていたが、紺色の騎士服は初めて見る色だった。それに、何よりも印象的なのは彼の瞳だった。
『銀の瞳……』
光が当たっている訳でもないのに、輝いているように見える銀色に、アリアンナは釘付けになる。

「アリアンナ様ですね?」
見た目に比例するように抑揚のない話し方をする男性を、真っ直ぐ見つめながらアリアンナは頷いた。
「はい」
すると、つかつかと大股で近づきアリアンナの前に立つ。

「私はジルヴァーノ・ロクシードと申します。王太子殿下から要請されて、貴方様をお守りする為に参りました」
「守る、ためですか?」
何からと疑問に思ったアリアンナより、先にジルヴァーノと名乗った男性が答える。

「この状況から、守るように。そう言われました」
ジルヴァーノは徐にアリアンナの手を取る。そのまま手を引き、彼女を囲っていた男性たちの輪から連れ出した。大きくて熱いくらいの熱量の手に、何故か安心感を覚えるアリアンナ。

無言のまま、手だけをしっかりと握って歩く彼を斜め後ろから見る。ニコリともしない無愛想な男性なのに、アリアンナは不思議と優しい人だと感じた。

彼が連れて来てくれたのは、王妃とドメニカのいる場所だった。
「ああ、ジルヴァーノ。アリアンナを救ってくれてありがとう」
王妃が礼を言うと、騎士の礼を取ったジルヴァードは「いえ」と一言だけ言って去って行った。

去って行くジルヴァーノの背を目で追っていると、王妃がふわりとアリアンナを抱きしめた。
「ごめんなさい、アンナ。まさかあんなにたくさんの殿方たちに囲まれてしまうなんて……怖かったでしょう」

「いえ、あの方が助けて下さったから大丈夫よ」
ジルヴァーノに手を握られた途端、アリアンナの恐怖心は霧散していた。

「私が蹴散らしに行くつもりだったのに」
ドメニカが悔しそうにするのを、横目で見ながら王妃はアリアンナの頭を撫でた。
「ドメニカが止めに入ったら、間違いなくケガ人が出てしまうわ。ジルヴァーノで正解よ」

「お母様、あの方はどちらに所属していらっしゃるの?騎士服を着てはいたけれど、紺色というのは初めて見たわ」
疑問に思っていた事を王妃に問うと、王妃は笑って答えてくれた。

「確かにそうね。紺色の騎士は数が少ないから。あの色はね、竜騎士よ」
「竜騎士?」
「そう。竜に乗る事を認められた者たちだけしかなれない騎士。それが竜騎士なの。王国でも13人程しかいないわ。彼はその竜騎士をまとめ上げる団長よ」

竜騎士になっているという13人を見た事がない為何とも言えないが、ジルヴァーノはどう見ても王太子より少し年下に見えた。そんな若い男性が団長である事にアリアンナは驚く。
「優秀なのでしょうね。あの若さで団長を任されるなんて」
感嘆の声を上げると、ドメニカが答える。

「ジルヴァーノは元々は騎士団にいてね。私の部下だったのよ。公爵家の嫡男のくせに前線に立つのが好きでね。実際、あの子は強かった。そんなあの子が竜騎士になったきっかけは、魔物の定期討伐に行っている最中だったわ」

魔物という害獣が存在するこの世界では、定期的に魔物を討伐する事が決まっている。普段は人間の住んでいる場に現われる事はない。だが、一定数以上魔物の数が増えると、餌や縄張りを求めて村や町を襲うようになってしまうのだ。

そうならないように、定期的に魔物を討伐する。王都や力のある領主がいる街では騎士団が、それ以外ではギルドが討伐を担っている。

「ジルヴァーノが前線で戦っていると、何か小さいモノが魔物に取り囲まれているのを見つけてね。助けてみると竜の子供だったの。それが、彼の乗っている竜よ」
「……見てみたい」
アリアンナは無意識に呟いた。

「ふふふ、そうね。今度ジョエルに頼んで連れて行ってもらうといいわ」
呟きがしっかり聞こえた王妃は、そう提案した。

「本当に!?いいの?嬉しい」
表情は変わらなくても興奮しているのがわかった母と伯母は、キラキラと輝いている青い瞳を見て微笑んだ。
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