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来訪者
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ノヴェリアーナ公爵家の前に、壮麗な馬車が停まった。中から出て来たのは銀の髪にエメラルドの瞳を持った威厳のある紳士だった。次に降りて来たのは金の髪に、紳士と同じエメラルドの瞳を持った美しい男性だった。
「騎士たちの配置は整ったか?」
「はい、すぐにでも乗り込めます」
「無事であるといいが……」
「そうですね……」
二人の男性は数人の騎士を伴って、ノヴェリアーナ公爵家の玄関の扉を叩く。扉を開けたのは家令らしき男だった。訪問して来た相手に驚き過ぎて固まっている。
「邪魔するぞ」
紳士がそう言った時だった。
「もうすぐ社交シーズンが終わると言うのに。なんであんたにだけ求婚の手紙が来るのよ!」
そんな金切り声が聞こえたと思ったら、そのすぐ後にビシリと何かを打つ音がした。
「そうやって痛みに耐えて……なんでもないって顔がムカつくのよ!!」
再びビシリという音を聞いた金の髪の男性が走り出す。
居間らしき部屋の扉を、金の髪の男性が壊すほどの勢いで開ける。中には鞭を振りかざしている女性と、蹲るようにしている女性がいた。ソファにはカップを手に見学しているかのように座っている女性もいる。奥には数人の使用人。半分以上は、その光景にニヤニヤと笑っていた。
「何をしている!?」
低く威圧するような声色で叫ぶ男性。鞭を振り上げた女性が、彼の姿を見てその体勢のまま固まった。
固まったのは鞭を持った女性だけではなかった。その場にいた全ての人間が、まるで時でも止まったかのように動かなかった。最初に動いたのはソファでカップを持った女性だった。
「王、太子殿下?」
持っていたカップを床に落とす。鞭を持った女性も口だけが動いた。
「何、故……?」
そのすぐ後ろからは金の髪の男性の威圧を上回る、地面が揺らぐほどの威圧を発する男性が立っていた。
「これはどういう事だ?」
足元がビリビリと痺れるように感じる程の声。
「国王、陛、下」
息継ぎさえ忘れたように、切れ切れに言葉を発する女性の顔色が真っ青になる。
「その二人を取り押さえろ」
静かなのに恐ろしい声。騎士たちは即座に反応し、二人の女性を後ろ手に縛り上げた。突然の事になすが儘になる二人。あまりの大物の登場に、頭が追い付いていけていないようだった。
「アリアンナ?」
この国の王であり、亡きノヴェリアーナ公爵の兄である人物が、先程の威圧が嘘のように優しい声でアリアンナを呼んだ。
アリアンナの肩がピクリとする。
「アリアンナ」
もう一度呼んだ国王は、アリアンナの前に膝を着いた。しかし、国王は息を飲む。
数年前まで、アリアンナの父親であるダヴィデ・ノヴェリアーナ公爵と共に、城に訪れては天使のような笑みを見せていたアリアンナ。しかし今の彼女は、まるで生気を感じられない。この国の至宝と言われた美しい真っ青な瞳には、何も映し出されていないかのようだった。
堪らない気持ちになり、アリアンナを抱きしめた国王。
「アリアンナ、アンナ。すまなかった。私が病に倒れていた間に……こんな……アンナ。すまない」
アンナと呼ばれたアリアンナに、少しだけ生気が戻る。
「お父様?じゃないわ……誰?」
「アンナ……名付け親である私を忘れてしまったのかい?もうダニエレ伯父様とは呼んでくれないのかい?」
「ダ、ニエレ、伯父様?」
「そうだよ、アンナ。遅くなってすまない。迎えに来たよ」
「迎え、に?」
「ああ、城へ行こう」
「お、城に?素、敵ね」
そう言ったアリアンナは、そのまま意識をなくしてしまった。
国王は縛り上げられた二人、アリアンナの義母であるシドニアと義姉であるヴェリアを睨みつける。
「貴様たち。よくも私の可愛い姪を傷つけてくれたな。絶対に許さん。それに……」
「騎士たちの配置は整ったか?」
「はい、すぐにでも乗り込めます」
「無事であるといいが……」
「そうですね……」
二人の男性は数人の騎士を伴って、ノヴェリアーナ公爵家の玄関の扉を叩く。扉を開けたのは家令らしき男だった。訪問して来た相手に驚き過ぎて固まっている。
「邪魔するぞ」
紳士がそう言った時だった。
「もうすぐ社交シーズンが終わると言うのに。なんであんたにだけ求婚の手紙が来るのよ!」
そんな金切り声が聞こえたと思ったら、そのすぐ後にビシリと何かを打つ音がした。
「そうやって痛みに耐えて……なんでもないって顔がムカつくのよ!!」
再びビシリという音を聞いた金の髪の男性が走り出す。
居間らしき部屋の扉を、金の髪の男性が壊すほどの勢いで開ける。中には鞭を振りかざしている女性と、蹲るようにしている女性がいた。ソファにはカップを手に見学しているかのように座っている女性もいる。奥には数人の使用人。半分以上は、その光景にニヤニヤと笑っていた。
「何をしている!?」
低く威圧するような声色で叫ぶ男性。鞭を振り上げた女性が、彼の姿を見てその体勢のまま固まった。
固まったのは鞭を持った女性だけではなかった。その場にいた全ての人間が、まるで時でも止まったかのように動かなかった。最初に動いたのはソファでカップを持った女性だった。
「王、太子殿下?」
持っていたカップを床に落とす。鞭を持った女性も口だけが動いた。
「何、故……?」
そのすぐ後ろからは金の髪の男性の威圧を上回る、地面が揺らぐほどの威圧を発する男性が立っていた。
「これはどういう事だ?」
足元がビリビリと痺れるように感じる程の声。
「国王、陛、下」
息継ぎさえ忘れたように、切れ切れに言葉を発する女性の顔色が真っ青になる。
「その二人を取り押さえろ」
静かなのに恐ろしい声。騎士たちは即座に反応し、二人の女性を後ろ手に縛り上げた。突然の事になすが儘になる二人。あまりの大物の登場に、頭が追い付いていけていないようだった。
「アリアンナ?」
この国の王であり、亡きノヴェリアーナ公爵の兄である人物が、先程の威圧が嘘のように優しい声でアリアンナを呼んだ。
アリアンナの肩がピクリとする。
「アリアンナ」
もう一度呼んだ国王は、アリアンナの前に膝を着いた。しかし、国王は息を飲む。
数年前まで、アリアンナの父親であるダヴィデ・ノヴェリアーナ公爵と共に、城に訪れては天使のような笑みを見せていたアリアンナ。しかし今の彼女は、まるで生気を感じられない。この国の至宝と言われた美しい真っ青な瞳には、何も映し出されていないかのようだった。
堪らない気持ちになり、アリアンナを抱きしめた国王。
「アリアンナ、アンナ。すまなかった。私が病に倒れていた間に……こんな……アンナ。すまない」
アンナと呼ばれたアリアンナに、少しだけ生気が戻る。
「お父様?じゃないわ……誰?」
「アンナ……名付け親である私を忘れてしまったのかい?もうダニエレ伯父様とは呼んでくれないのかい?」
「ダ、ニエレ、伯父様?」
「そうだよ、アンナ。遅くなってすまない。迎えに来たよ」
「迎え、に?」
「ああ、城へ行こう」
「お、城に?素、敵ね」
そう言ったアリアンナは、そのまま意識をなくしてしまった。
国王は縛り上げられた二人、アリアンナの義母であるシドニアと義姉であるヴェリアを睨みつける。
「貴様たち。よくも私の可愛い姪を傷つけてくれたな。絶対に許さん。それに……」
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