上 下
30 / 40

神獣に敵なし

しおりを挟む
 私の言葉にまたもや、お頭がキョトンとする。だからそれは相当に気持ち悪いですって。

「嬢ちゃんよお、これからおまえはどんな目に遭うか分かっているのか?」
呆れたように言うお頭。世間知らずだとでも思っているのだろう。
「わかっておりますよ。まずはここにいる男達に凌辱されるのでしょう。そして本依頼である殺人。私を殺してこの林のどこかにでも埋めるおつもりでしょ」

貴族と相対するようににこやかな笑みを作って言ってやった。
「それがわかってて、なんで笑ってんだ?」
ちょっと不気味に思ったらしいお頭。後ろにいる男数人も顔が引きついている。

ルーチェとオスクリタを床に降ろしてやる。そして、再び笑顔で言った。
「だって、そうなるつもりが更々ないからですわ」

 言い終わるのと同時に、魔力を膨らませる。まずはこの部屋から誰も出られないようにしなければ。闇の力でこの家を覆うように結界を作る。
「よし。はい、これでどなたもこの建物からは出られませんわ」

「は?なに言ってんだ」
私を連れて来た男が、バカにしたように階下に降りた。扉をガチャガチャする。しかし扉はびくともしない。
「バカな」
窓へと手をかけるが、ガタガタいうだけで全く開かない。

「だったらこうしてやる!」
おもむろにイスを持ち上げて、窓に向かって思い切り投げた。イスは、窓にぶつかって落ちる。窓は何もなかったようにびくともしていなかった。
「お頭!本当に出られねえ!」
軽くパニックになっている男の後頭部を殴るお頭。

「落ち着け。例え出れなくなったとしても所詮魔法だ。この嬢ちゃんをぶっ殺せばすぐに解ける」
「そ、そ、そうか。だったらもう早く殺っちまおうぜ」
まだ、完全には落ち着いていないようだ。

「バカか?こんな上玉、一度も抱かずに殺すなんて勿体ないだろう。きっと生娘だろうしな」
お頭の余裕を感じ取ったのか、他の男達もお頭の意見に賛成したかのように嫌な顔で笑っている。

「ふふ、魔法をあまり知らない皆さんは、意外と肝が据わっているようですね」
魔法の凄さを知らない人というのは、大抵こういう反応をする。
「何を言うか。嬢ちゃんも随分と肝が据わってるぜ。その余裕の顔が恐怖と痛みと快感で歪んでいく様を見るのはきっと、ものすごく楽しいだろうよ」
お頭はどうやら変態さんのようだ。

「私があなた達に捕まるとでも?あなた達が私に捕まえられるのに?」
そう言った私の横には、大きな美しい金と黒の豹がいる。

「なっ!?なんだそいつらは。いつの間に出てきやがった?」
「いつの間にとは?最初からずっと私と一緒におりましたが?」
コテンと首を傾げて見せる。
「いる訳がないだろう!嬢ちゃんが連れてたのは小っせい猫……だったはず」

「そうです、正解ですわ。ですが、猫の姿は仮の姿なんですの。こちらが本当の姿。とっても美しいでしょう」
二匹を背中を優しく撫でる。二匹は応えるように、私の肩に顔を擦り付けた。
「さあ、始めましょう。果たしてこの子達に勝てますか?」

「お、怖気づくな!所詮は獣。銃でやれ!」
お頭が咄嗟にしてはいい判断をする。ナイフではリーチで負けてしまいますものね。でもね、獣は獣でも、ただの獣ではないのですよ。自分に光の結界を張る。
「さ、これで私にはあなた達以外、誰も触れる事は出来ないわ。だからルーチェとオスクリタは暴れちゃってもいいわよ」

『わあい』
『よし』
「殺してはダメよ。どんな罪になろうとも、きちんと自身で償う事が出来る程度にはしておいてね」

向かっていったあの子達に、今のセリフが果たして聞こえたか……少し不安ではあるが、馬車の中で殺すなとは言ったので大丈夫だろう、多分。

「ダメだ!銃すら避けやがる」
「うわあ!いてえ。俺の足に玉当てやがったのは誰だ!?」
「ぐっ、爪が」
「お頭ダメだ。銃じゃ流れ弾が味方に当たっちまう」

大きくはない建物の中で銃を使えばそうなるだろう。ましてや神獣相手に、銃など効くはずもない。
気が付けば、男達は二匹にまとめられ詰め寄られていた。

「へっ、この時を待っていたぜ!!」
他の男達が戦意喪失してる中、お頭だけは諦めていなかった。
「この距離なら流石に外さねえ」
2丁の銃口を、ルーチェとオスクリタに向ける。

「死ねえ!」
言ったお頭の手には銃がなかった。
「え?あれ?」
両手を交互に見て、自分の周りを見て、それより少し遠くを見た時、それを見つけた。
「なんで?」

「作戦は悪くなかったのですけれどね。とっくにこの子達に弾かれましたわ。策士策に溺れるというやつですね。何も言わずに実行すれば少しは違ったかも?まあそれでも無理ですけれど。この子達にそんな武器は効きませんので」
私はお頭の傍まで行った。

「では、皆さま拘束させていただきます。闇の力の拘束ですので注意してください。暴れれば暴れるだけ拘束がきつくなりますので」
闇の力で全員まとめて縛り上げる。
「バカだろ。皆いっぺんになんて縛れるわけがねえ」
そう言ってお頭が隙間を作ろうともがいた。勿論、拘束がグッと強くなる。
「ガッ、いってえ。どうして?こんなに緩々なのに」

「魔法ですから。絶対に解けませんよ」
私の言葉に全員が絶句。

「ふふふ。よし、捕まえたっと」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!

金峯蓮華
恋愛
 愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。  夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。  なのに私は夫に殺された。  神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。  子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。  あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。  またこんな人生なら生きる意味がないものね。  時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。 ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。  この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。  おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。  ご都合主義の緩いお話です。  よろしくお願いします。

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

【完結】妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた〜お姉様の選んだ人が欲しい?分かりました、後悔しても遅いですよ

冬月光輝
恋愛
ファウスト侯爵家の長女であるイリアには、姉のものを何でも欲しがり、奪っていく妹のローザがいた。 それでも両親は妹のローザの方を可愛がり、イリアには「姉なのだから我慢しなさい」と反論を許さない。 妹の欲しがりは増長して、遂にはイリアの婚約者を奪おうとした上で破談に追いやってしまう。 「だって、お姉様の選んだ人なら間違いないでしょう? 譲ってくれても良いじゃないですか」 大事な縁談が壊れたにも関わらず、悪びれない妹に頭を抱えていた頃、傲慢でモラハラ気質が原因で何人もの婚約者を精神的に追い詰めて破談に導いたという、この国の第二王子ダミアンがイリアに見惚れて求婚をする。 「ローザが私のモノを何でも欲しがるのならいっそのこと――」 イリアは、あることを思いついてダミアンと婚約することを決意した。 「毒を以て毒を制す」――この物語はそんなお話。

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

処理中です...