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襲撃

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 細い三日月では照らしきれない薄暗い路地の酒場。
真っ黒いマントにフードを被った小柄の人物が、酒場の裏手の扉を開ける。
「ねえ、依頼したいことがあるのだけど」
そのフードの人物が、入ってすぐのカウンターにいる男に声をかける。

「待て。先客がいる。話はその後だ」
言ってるうちに奥の扉が開いた。同じように黒いマントに深々とフードを被った人物が二人。靴音を響かせながら小柄の人物の横を通り過ぎた。

「ガハハ、今日は大忙しだなあ」
そう言って、小柄の人物を奥に案内する。
「金はちゃんとあるんだろうな」
「ええ、あるわ。だから前みたいにやってしまって。って言っても前を覚えてるわけないか」

「前っちゅうのがなんなのかは知らねえが、金さえ積めばやってやるぜ」
「ふふ、お金ならあるわ。彼等から贈られた物を換金したのがたんまりね」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「はああぁ、本当ならオリヴィエーロ家で、リーザと仲良く食事をするはずだったのに」
山盛りの書類を捌きながら文句を言う。
「仕方ないでしょ。陛下が食あたりで倒れてしまったんですから。私だってリーザと一緒に過ごしたかったのに」
チェザーレも落胆ぶりが顔に出ている。

「これ、今夜中に終わるのか?」
「終わらせるんです。例え、城中が寝静まろうが、ラフィは起きてやるんです」


「はあ、少し休憩しましょうか?」
山盛りだった書類が大分なくなった頃、チェーザレが提案してくれた。
「よし、茶にしよう」

「もう、皆寝ているでしょうから、私が準備してくるので、ラフィ殿下は寛いでいてくださって結構ですよ」
そう言って、チェーザレは静かに部屋を出て行った。

「はあ、マジで疲れた」
立ち上がって固まった筋肉を動かすように肩や腕を回す。

 ふと、風の動きを感じた。俺以外部屋にいないはずなのに。
「誰だ!?」
瞬間、数人の黒づくめの男たちが部屋になだれ込んできた。ざっと7,8人といったところか。
「……これだけか?」
人数の少なさにがっかりした。

何を言われたのか理解できなかったのか、一瞬動きが止まった男たちが再び俺を取り囲む。
「死んでもらう」
真ん中にいた男が俺に向かって言ったが
「この人数では死ねないぞ。俺を見くびり過ぎじゃないか?」

「は?何を言っている」
男は思わず俺に聞いてきた。暗殺しようとしている人物と言葉を交わすなんてアホだろ。
「だから、俺を殺すにはこれでは圧倒的に少ないと言っている」
「は?恐ろし過ぎて、頭がおかしくなったのか?こっちは8人いるんだぞ」
「少ないな」
こいつらは魔力もろくにない。暗器だけだ。

「チェーザレ!お前の出る幕はないみたいだぞ」
ガチャリと扉を開けたチェーザレ。焦げている人間を二人ほど引きずっている。
「えええ、私これだけですか?つまりませんね」
チェーザレが引きずってるものを見て、男が慌てた。

「まさか!?見張りか」
「そうですよ。それにしても……弱すぎません?これなら魔物の方がまだやりがいがあります」
男たちが強張った。

「俺も一気にやるから、巻き添え食らいたくなかったらそこで見てろ」
「はいはい。ではここで高みの見物でもしていますよ」

「よし、チェーザレも大人しくさせた事だし、始めるとするか」

そこからは一瞬。男たちの持っていたナイフを消滅させる。闇の力だ。いきなり手元から武器という武器が消えた男たちは焦ったように、自分の身体中を探している。

「あるわけないだろう。俺が消した」
そして、指を鳴らして炎を生んだ。炎はまるで生きているかのようにうねりながら男たちにまとわりついた。
「うわっ!熱い!やめろ、やめてくれ!」
熱さにのたうち回る男たち。

「依頼主を吐いたらやめてやる」
「わかった!言う。言うから、頼むからやめてくれ!」
「よし、言質は取った」
再び指を鳴らし、炎を消した。

「うう」
男達は足と腕に火傷を負っているので、もう何もすることが出来ない。

「まあ、とりあえず今夜は牢で大人しくしてろ。火傷は明日、ちゃんとこちらの要望に応えられたら、俺の天使に特別に治させてやろう」
「ちょっと、まだラフィの天使ではないと言っているでしょう」
「おまえ、こんな時にまで茶々入れてくるな」
「納得できないものは仕方ありません」

「ホント、おまえいい加減に妹離れしろよ」
「しませんよ、一生」
「一生、俺たちの邪魔をする気か?」
「勿論です」

「は?おまえ、そんなんで、自分の嫁もらえるのか?」
「別に結婚なんぞしなくてもいいですし」
「家はどうするんだよ?」
「リーザの子供に譲ります」

「俺の子供でもあるんだが?」
「まだ、ラフィと結婚するかわからないではないですか?」
「リーザは俺の婚約者だ!」
「まだ候補、のくせに」

不毛な会話でエキサイトしてきた時
「頼みますからもう牢屋にぶち込んでください」
焼けた身体を震わせながら、男達が泣いて頼んできたのだった。
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