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兄の意外な一面
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座る所がないと困っている聖女に再びポカンとしてしまう。
「リーザ、口が開きっぱなしだぞ」
笑いながら私の顎に指をあて、口を閉じさせたラフィ殿下が聖女へ向けて、不思議そうな顔をする。
「聖女殿の席など元からないが」
これに驚いたのは聖女自身だ。
「え?だって私、一緒に食事って」
「それに対して了承した覚えはありませんよ」
お兄様の極上の黒い笑顔。何故か、隣にいる友人の目がハートなのだけど。
「そんな。だってさっきの二人を追い出せばいいって……」
「はい?そんなこと一言も言っておりませんよ。ねえ、レディたち」
話をふられた友人たちの声が揃った。
「ええ、言っておりませんでした」
お兄様って案外たらしだったんだ。新たなお兄様を知ってしまった。軽く一人でショックを受ける私。そんな私を置いて、話は進んで行く。
「私は、彼らとここに来たのでは?と聞いただけです。だってそうでしょう。あんなに楽しそうに彼らと腕を組んで来たはずなのに。いきなりこちらに食事をしようなどと正気とは思えなかったので」
「そんな……酷いです」
泣きそうな顔の聖女に、ラフィ殿下も容赦がない。
「酷いと言うが、聖女殿があの男たちを追い出したのは酷くはないのか?あれの方が余程酷い事だと思うが」
流石にそこは聖女も反論できなかったらしい。泣きながらこの場を去って行こうとした。
「聖女殿」
ラフィ殿下に止められて聖女がとても嬉しそうな顔で振り向く。
「聖女の力はいつ目覚めるんだ?」
今度こそ、泣きながら聖女は去って行った。
「お兄様って、たらしですのね」
「たらし?」
訳がわからないと首を傾げるお兄様。その横にいる二人からはハートがポコポコと湧き出している。
「一瞬にして、私の友人たちをたらし込みましたね」
「え?そんなことしていないよ」
真面目な顔して否定するなんて。
「無自覚のたらしですのね。質が悪いですわ」
「無自覚って、何の事?リーザ、怒ってる?」
「いいえ、呆れているだけです」
言われたお兄様はちょっと泣きそうになっていた。
このやり取りにご機嫌なのはラフィ殿下。
「くくっ。リーザにまで言われたな。ざまあみろ」
そんな上機嫌のラフィ殿下に向かって、ルーチェとオスクリタが鳴き出した。
「ニヤー」「ニャー」
「ん?なんだ」
「甘いもの食わせろ、だそうです」
私が通訳してやると
「チェーザレに頼めばいいだろう」
二匹は聞く耳を持たない。完全にラフィ殿下にロックオンだ。
ニャーニャーと鳴きながら、殿下の肩に上った。そして、殿下の耳元でニャーニャー抗議をする。
「わかった、わかったよ」
観念した殿下はそのまま二匹を肩に乗せて、買いに向かった。
カフェにいた生徒たちは、そのほのぼのとした光景に笑い、先程の聖女の件などなかったかのような穏やかな空気になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バイアルド殿下が王城に戻っていたので、身軽になった私は図書室に向かおうと廊下を歩いていた。
すると、泣きながら走ってきた偽聖女が、私の胸へ飛び込んできた。ぞわっと鳥肌が立ったが、流石に泣いている女性を突き飛ばす訳にはいかない。
「どうしたのです?」
言葉に感情は乗せず聞いた。
「ジュスト様。私、私……」
そう言って私を上目遣いでみる偽聖女。おいおい、一つも涙なんか流れていないじゃないか。あほらしくなって、偽聖女を剥がす。
「ジュスト様!」
剥がされたことを講義するかのように睨んでくるが、泣いていないのであれば当然だ。
「それで?一体どうしたんです?」
話を振ると、瞳がキラッと光った気がした。怖い。
「聞いてください。ラファエロ様とチェーザレ様が酷いんです」
カフェでの話を話し出す偽聖女。所々、話が噛み合わないのは自分の都合の悪い部分を端折ってるからだろう。
「うーん。あなたの話だけではイマイチ把握できませんね。ラファエロ殿下とチェーザレ様にもお話を伺いませんと。それと一部始終見ていたらしいエリーザ様達にも」
極力、穏やかにそう言えば、偽聖女は焦る素振りを見せた。
「いや、あの、わざわざまた話を蒸し返さなくても……」
「え?だって酷いと思ったのでしょう?で、あれば是非に真偽を確かめて抗議をするべきではありませんか?それを望んでいたのでは?」
「え?いや、えっと、そこまでは……」
しどろもどろになっている。
「では何故私に訴えてきたのですか?そもそもその一緒にいたという男性たちは何をしていたのですか?あなたを守るべきだったのではありませんか?まずはその二人に抗議をすべきですね。名前をお教えいただければ、きちんと話してきますよ」
わからないなりにもなんとなく想像で言ってみる。多分、その二人は偽聖女に邪険に扱われたのだろう。
「あ、あの……その。も、もう大丈夫です。なんでもないです」
案の定、焦った偽聖女は逃げるように去って行った。
「図書室に行く時間、なくなってしまったな」
残念だが気分はいい。カフェでの真相は、黙っていても噂として知れ渡るだろう。私は教室へ戻ろうと踵を返した。
「リーザ、口が開きっぱなしだぞ」
笑いながら私の顎に指をあて、口を閉じさせたラフィ殿下が聖女へ向けて、不思議そうな顔をする。
「聖女殿の席など元からないが」
これに驚いたのは聖女自身だ。
「え?だって私、一緒に食事って」
「それに対して了承した覚えはありませんよ」
お兄様の極上の黒い笑顔。何故か、隣にいる友人の目がハートなのだけど。
「そんな。だってさっきの二人を追い出せばいいって……」
「はい?そんなこと一言も言っておりませんよ。ねえ、レディたち」
話をふられた友人たちの声が揃った。
「ええ、言っておりませんでした」
お兄様って案外たらしだったんだ。新たなお兄様を知ってしまった。軽く一人でショックを受ける私。そんな私を置いて、話は進んで行く。
「私は、彼らとここに来たのでは?と聞いただけです。だってそうでしょう。あんなに楽しそうに彼らと腕を組んで来たはずなのに。いきなりこちらに食事をしようなどと正気とは思えなかったので」
「そんな……酷いです」
泣きそうな顔の聖女に、ラフィ殿下も容赦がない。
「酷いと言うが、聖女殿があの男たちを追い出したのは酷くはないのか?あれの方が余程酷い事だと思うが」
流石にそこは聖女も反論できなかったらしい。泣きながらこの場を去って行こうとした。
「聖女殿」
ラフィ殿下に止められて聖女がとても嬉しそうな顔で振り向く。
「聖女の力はいつ目覚めるんだ?」
今度こそ、泣きながら聖女は去って行った。
「お兄様って、たらしですのね」
「たらし?」
訳がわからないと首を傾げるお兄様。その横にいる二人からはハートがポコポコと湧き出している。
「一瞬にして、私の友人たちをたらし込みましたね」
「え?そんなことしていないよ」
真面目な顔して否定するなんて。
「無自覚のたらしですのね。質が悪いですわ」
「無自覚って、何の事?リーザ、怒ってる?」
「いいえ、呆れているだけです」
言われたお兄様はちょっと泣きそうになっていた。
このやり取りにご機嫌なのはラフィ殿下。
「くくっ。リーザにまで言われたな。ざまあみろ」
そんな上機嫌のラフィ殿下に向かって、ルーチェとオスクリタが鳴き出した。
「ニヤー」「ニャー」
「ん?なんだ」
「甘いもの食わせろ、だそうです」
私が通訳してやると
「チェーザレに頼めばいいだろう」
二匹は聞く耳を持たない。完全にラフィ殿下にロックオンだ。
ニャーニャーと鳴きながら、殿下の肩に上った。そして、殿下の耳元でニャーニャー抗議をする。
「わかった、わかったよ」
観念した殿下はそのまま二匹を肩に乗せて、買いに向かった。
カフェにいた生徒たちは、そのほのぼのとした光景に笑い、先程の聖女の件などなかったかのような穏やかな空気になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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すると、泣きながら走ってきた偽聖女が、私の胸へ飛び込んできた。ぞわっと鳥肌が立ったが、流石に泣いている女性を突き飛ばす訳にはいかない。
「どうしたのです?」
言葉に感情は乗せず聞いた。
「ジュスト様。私、私……」
そう言って私を上目遣いでみる偽聖女。おいおい、一つも涙なんか流れていないじゃないか。あほらしくなって、偽聖女を剥がす。
「ジュスト様!」
剥がされたことを講義するかのように睨んでくるが、泣いていないのであれば当然だ。
「それで?一体どうしたんです?」
話を振ると、瞳がキラッと光った気がした。怖い。
「聞いてください。ラファエロ様とチェーザレ様が酷いんです」
カフェでの話を話し出す偽聖女。所々、話が噛み合わないのは自分の都合の悪い部分を端折ってるからだろう。
「うーん。あなたの話だけではイマイチ把握できませんね。ラファエロ殿下とチェーザレ様にもお話を伺いませんと。それと一部始終見ていたらしいエリーザ様達にも」
極力、穏やかにそう言えば、偽聖女は焦る素振りを見せた。
「いや、あの、わざわざまた話を蒸し返さなくても……」
「え?だって酷いと思ったのでしょう?で、あれば是非に真偽を確かめて抗議をするべきではありませんか?それを望んでいたのでは?」
「え?いや、えっと、そこまでは……」
しどろもどろになっている。
「では何故私に訴えてきたのですか?そもそもその一緒にいたという男性たちは何をしていたのですか?あなたを守るべきだったのではありませんか?まずはその二人に抗議をすべきですね。名前をお教えいただければ、きちんと話してきますよ」
わからないなりにもなんとなく想像で言ってみる。多分、その二人は偽聖女に邪険に扱われたのだろう。
「あ、あの……その。も、もう大丈夫です。なんでもないです」
案の定、焦った偽聖女は逃げるように去って行った。
「図書室に行く時間、なくなってしまったな」
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