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聖女入学

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「聞きました?聖女の神託を受けたという男爵令嬢が1年に編入なさるんですって」
「それは凄いですわね。聖女様が同学年になるなんて自慢してしまおうかしら?」
「どのクラスにいらっしゃるのかしら?」
「それは聖女様なんだから、このクラスでしょ」

周りの話題は聖女一色だ。
『神は、神託は勿論、力も与えていないって』
『じゃあなんで聖女って言ってるんだ?』
「さあ、一体どういうことかしらね」

ほどなくして先生が教室にやって来た。
「あら?聖女様は?」
クラスが少しざわつく。

「ああっと、もう皆噂を聞いているみたいだねえ。確かに聖女だと神託を受けたご令嬢が編入してきた。だがなんというか……編入試験の成績が驚く結果だったんだ。聖女はCクラスにいる」
シンッという音が聞こえるくらい静かになった教室。

宰相の息子のジュスト・プロスペーレ様が手をあげた。
「ん?ジュスト君、なにか質問かい?」
「はい。あの、聖女であれば学力はともかく、魔力はとても高いのではないのですか?」
普通に考えればジュスト様の言うように、魔力が高いはずだろう。実際、前はこのクラスだったのだし。

「それがなあ、光魔法は確かに持っていたんだけど、擦り傷を治せる程度だ。まあ、聖女の力はこれからなのかもしれない。なんせもう何百年と聖女はいなかったから、何がどうなるかわからないんだ」

皆がガッカリしているのが手に取るようにわかる。期待をしていただけにという事だろう。
「ま、そう言う事だから、このクラスは何も変わらずこれからも頑張っていこう!」
先生がテンション高めに腕まで上げた。
「ニャー!!」
二匹が後に続いたことで、皆も笑いながら二匹に続いたのだった。

「なんだかガッカリでしたわね」
「本当に。でも、これから力が強くなるかもしれないみたいだし、気長に待つしかないのでは」
「そうですわねえ。それにしても一体どんな方でしょうね。お姿だけでも見てみたいですわ」
ランチの為に令嬢方とカフェに来ている。
すると、数人のグループが賑やかしくやって来た。

「ねえ、あれってそうなのでは?」
一人の令嬢がグループへ視線をやる。その中に、ピンク色のフワフワな髪の令嬢がいた。
「……なんというか、目がチカチカするお色ですわね」
パチパチと目を瞬かせる令嬢たち。

 そこへ、そのすぐ後ろからバイアルド殿下とジュスト様が入ってきた。

聖女のいるグループの面々は、バイアルド殿下のためにと急いで道を開けた。しかし、聖女は立ったまま動かない。
「おまえは、もしかして今日入ってきたとかいう聖女か?」
バイアルド殿下が声を掛けた。

「はい。聖女の神託を受けました、ビビアナ・ソリダーノと申します」
聖女はにこやかに挨拶をした。
「私はこの国の第二王子のバイアルド・ドゥランテーザだ。その髪は元々か?」
「はい、生まれた時からこの色です」
「そうか……可愛らしいな」

やっぱり前と一緒なのでは?バイアルド殿下は完全に彼女に興味を持っている。頭がズキズキと痛み出す。嫌な汗も出てきた。やはりこれは運命というやつなのだろうか?変える事は出来ないのだろうか?

ふと、バイアルド殿下の斜め後ろにいるジュスト様に視線を移す。彼ももう落ちてしまったのだろうか。
ジュスト様も聖女を見つめていた。

うっとりとは程遠い目で。

まるで仇でも見ているのかという顔で見ているジュスト様。これは落ちていない?落ちるどころか睨んでいる気がするのだけど。

不思議に思っていると、ルーチェとオスクリタがスタスタとそちらへと向かった。
何か考えがあるのだろうと、そっと見守っていると、二匹に気付いた彼女がニコニコしながらしゃがんだ。
「なんて可愛らしい猫ちゃんたち」
二匹を撫でようと手を出す。が、次の瞬間、シャーッという威嚇と共に魔力が膨れた。

咄嗟に気付いたジュスト様が、二匹と彼女の間に入る。
「勝手に触らないでください。この子達は使役獣です。主の許可なしに触れば大ケガしますよ」
丁寧な口調だけれど、棘のある言い方。やっぱりジュスト様は落ちていない。

「まあ、ありがとうございます。助けてくれたのですね」
彼女は微笑みながらジュスト様に言った。
「あなたは聖女と言いながら、この子達の魔力が膨らんだ事に気付かなかったのですか?信じられませんね」

そう言うと、ルーチェとオスクリタの方に向きを変えしゃがみ込む。
「何か美味しそうな匂いにでも釣られてしまいましたか?良かったら主の元までお送りしますよ」
二匹は頼むとばかりに「ニャー」と鳴いた。

離れた場所にいる私を見つけたジュスト様は、じっと私を見る。多分、触ってもいいかという確認だろうと思い頷いて見せた。
「失礼しますね」
そっと二匹を抱き上げたジュスト様は、そのまま私の座っている席へとやって来た。

「わざわざありがとうございます、ジュスト様」
お礼を言えば、少し照れ臭そうに笑った。
「いえ、どさくさに紛れて彼らを触ることが出来てラッキーでした」
その表情があまりにも晴れやかで、爽やかで、一緒にいる令嬢の何人かの心を打ちぬいたようだ。

「ふふ、もうこの子達はジュスト様を認めたようなので、今後は気軽に声を掛けてください。この子達が嫌がらなければ、私の許可がなくても大丈夫だと思いますわ」
「ね」と二匹に言えば、「ニャアニャア」と元気のいい返事が返ってきた。

ジュスト様は感極まったようなお顔で
「ありがとうございます。今度は絶対に間違えませんから」
そう言って、バイアルド殿下の元へと戻って行った。
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