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ヒロイン

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 ビビアナ・ソリダーノが編入してくるまで10日を切った。気のせいだろうか。お兄様やラフィ殿下が少しピリピリしている気がする。私には相変わらず甘々だけれど、ふとした時の表情が固い。

まあ、私も人の事は言えないのだけれど。

家で二匹とお茶を飲んでいた時
「お嬢様!」
ジュリアの声でふと我に返った。
「え?何、どうしたの?」
「どうしたのではございませんよ。お召し物を替えませんと」

言われて初めて、お茶を思いっきりこぼしていたことに気が付いた。
『エリーザ、心配しないで。絶対に大丈夫だから』
『そうだぞ、俺たちがついてるんだ』
「そうよね、ダメね。どうしても嫌な事を考えてしまうわ」
両頬を気合を入れるために、少し強めにペチペチと叩く。

『心配するのもわかるし、怖いのも仕方ない。だってそれだけの事を前に経験しているんだもん。でもね、確実に未来は変わっているんだ』
『そうだ。まず俺たちがいる。これは一番凄い。他にも色々変わっているが、俺たちが一番凄い』

二人の自信満々な励ましに、落ちていた気分も浮上した。
「ふふ、そうよね。神獣様が二匹もいてくれるんですものね。ありがとう、とっても勇気が湧いたわ。絶対に頑張る!」
『そうだ、その意気だ』
『そうだ、そうだ』
私の周りをピョコピョコと跳び跳ねる二匹。そう、きっと大丈夫。きっと大丈夫よ。そう思い続ければ、いつの間にか本当に大丈夫だと思えるようになったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「あと10日」
窓から空を見ながらこれからの事を考える。
「いよいよ2周目のスタートよ」

 私は前世の記憶を持っている。よく言われる転生者だ。15歳になってすぐ、積荷馬車に轢かれかけた。幸い擦りむいた程度で済んだし、そのおかげで自分の前世を思い出すことが出来たのだ。

それまでは、男爵とは名ばかりの、ほぼ平民状態で生きてきた。家族の仲は悪くなったし、食べるのにも困るわけではなかった。普通に生きていくには十分だった。別に不満もなかった。記憶が戻るまでは。

 前世の記憶が戻ってからは、ここが、自分が散々やり込んでいたゲームの世界だと気が付いて狂喜乱舞した。だって私はヒロインなんだもの。

[そして聖女は女神になる]攻略対象は4人。この国の第一王子と第二王子、悪役令嬢の実の兄、国の宰相の息子の計4人。その中でも特に人気だったのは、ヒロインの一つ年上の第一王子と悪役令嬢の兄、この二人がとにかくイケメンだった。

私が一番好きなのは第一王子。第一王子だけは、2周目以降からしか攻略出来なくてイライラしてしまったのを覚えている。

「ヒロインになったからには第一王子を狙うわ」
そう思い、めでたく聖女の神託を受けて、王立学園へ編集するも全く第一王子には出会わない。その間にも他の3人の攻略者とは順調に好感度を上げていく。

しかも、困ったことに悪役令嬢にも全く絡まれない。これでは物語が続かないと焦った私は次々と悪役令嬢の罪を捏造していった。罪を捏造するのは驚くほど簡単だった。私がそれらしく泣けば、簡単に信じてくれるから。

それに、身体を許せばもう皆、メロメロだった。私は前世でもそれなりにモテていた。会社の受付嬢をやっていて、男に困ることはなかった。最高で、一度に6人付き合ったこともあったし。男なんてあなたが一番素敵と言って、身体を捧げれば簡単に落ちる。

それはこの世界でも一緒。

そしてすべてが嘘にも関わらず、見事に悪役令嬢を撃破。念には念を入れて、彼女には死んでもらう事にした。どこから捏造の事がバレるかわからないもの。チェーザレ様も一緒に葬っておくことにした。妹を溺愛していた人だから、いつか裏切るかもしれない。ならば先に裏切るのみ。

そこからはトントン拍子に物語が動いた。本命の第一王子が殺されたのはショックだったけど、彼はやっぱり2周目からなんだろうと思う事にした。

 そしてほどなくして私は王妃になった。これから魔の森という所から魔物が溢れ、聖女の力でそれを沈める。そしてめでたくハッピーエンドのはずだった。

私の聖女の力は全く使えなくなっていた。
魔の森の封印どころか、全ての魔法が使えなくなって、呆気なく私の1周目が終わった。

 目が覚めると12歳に戻っていた。これは確実に2周目が始まったということだろう。
死ぬほど退屈な日々を過ごし、やっと再び物語が動き出す。それにしても、1周目ではもう聖女の神託を受け取ってた時期のはずなんだけど……今回は少し遅いのかな。まあ、でももう両親には報告済みだし。光魔法は使えてるし。まだ小さなケガを治す程度だけど、それはこれからだろう。

あとは、バイアルドと悪役令嬢が婚約していないというのも、ちょっと違う。まあ、ゲーム特有のバクってやつ?今回は第一王子の攻略だからいいかなって。また捏造でもなんでもすればいいしね。
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