上 下
40 / 47

聖女の力量

しおりを挟む
「では?」
「うん。私たちが向かうわ。ギルドに姉様たちを呼ぶように頼んでいるわ」
お義兄様が深刻な顔になる。反対にオスカー殿下は事態が飲み込めていない。

「いけそう?」
「ふふふ、大丈夫よ。知っているでしょ?」
「はあ、そうだね。竜騎士団にすぐに向かわせるようにするよ。早ければもう魔物が出始めているだろう。騎士団も城を守る者と街を守る者とに分けよう」
「今は、冒険者の方たちが食い止めてくれているはずよ」

「ちょっと待ってくれ。瘴気はわかったが、その後の話が私には見えないんだが」
オスカー殿下が言うが、お義兄様は華麗に無視する。

「リリー」
優しくお義兄様に抱きしめられる。
「君たちの強さはわかっているけれど、どうか気を付けて」
「はい。ローズ姉様にも伝えておくわね」
「ああ、頼むよ」
お義兄様は私の頬にキスを落とした。

 街へ戻る途中、すでに瘴気を微量ながらも感じる。街ではかなりの瘴気を感じられた。あまり長くこのままにしておくと、私たち人間にも影響が出る。ギルドへ戻るとマリーさんが現状を報告してくれた。

「少し前にお姉様たちを呼びに行った彼が戻ってきたわ。お姉様たちは準備ができ次第、こちらに向かうと言っていたそうよ。住民の避難もつい先ほど完了させたわ。あとは、魔物がどんどん街へ来ている。まだ大型の物はいないけれど、時間の問題だと思う」

「マリーさん、ありがとうございます。城に報告してきました。もう間もなく竜騎士団がこちらに向かってくるそうです。あと騎士団も来てくれると。だからそれまではなんとか、私たちでしのぎましょう」

周辺で聞いていた冒険者の人たちから雄叫びが上がった。頼もしい人たちだ。しかし、時間が経てばこちらの疲労が蓄積されて不利になる。瘴気そのものを何とかしなくてはいけない。

 そんな時だった。
「皆さん、私はこの国の聖女です。私が今から街に蔓延る瘴気を浄化します」
シモネッタ嬢だった。後ろにはニヤついた表情のインファーナ司教がいた。

「だから皆さんは、今ここにいる魔物を倒す事だけに集中してください。あとは私が解決して見せます」
冒険者たちから再び雄叫びが上がった。これで解決出来ると信じているのだろう。

シモネッタ嬢は地面に跪いて、手を組み祈るポーズをした。何かを呟きながら祈り出す。すると、彼女の周辺がキラキラし出した。
『これは聖魔法。もしかしていけるの?』

固唾を飲んで見守ると、キラキラが彼女の周囲3メートルほどまで広がった。近くにいた冒険者たちは大喜びだ。

しかし、いくら待ってもその以上広がらない。広がるどころかキラキラが消えて行ってしまう。

「おかしいわね。祈りが足りないのかしら?」
再び祈り出すシモネッタ嬢。またもや周辺がキラキラする。が、そこ止まり。

「おいおい、いつになったら浄化が始まるんだ?」
「魔物の数が全然減らねえぞ。それどころが増えてないか?」
「一体どうなってんだよ!?」
そこかしこから怒号が飛び交い出した。

「やっぱりダメなのね」
がっかりした私は大きな溜息と共に、魔物を水の槍で貫いた。

「なんで?なんでよ?私は聖女なのよ。私がこの国を平和に導いて、イケメンたちとハッピーエンドになるはずなのに」
何度も祈るがもう魔力がないのだろう。何も起こらなくなってしまった。ショックで彼女は膝から崩れ落ちてしまう。

そこで気が付いた。後ろにいたはずのインファーナ司教がいない。逃げた?周りを探す。すると皆の視界から外れるように、そろりそろりと足音を忍ばせて歩いているインファーナ司教が見えた。
「逃がさない!」

私が駆け出そうとした瞬間、彼が黒い蔓のようなものに羽交い締めにされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

ゲームと現実の区別が出来ないヒドインがざまぁされるのはお約束である(仮)

白雪の雫
恋愛
「このエピソードが、あたしが妖魔の王達に溺愛される全ての始まりなのよね~」 ゲームの画面を目にしているピンク色の髪の少女が呟く。 少女の名前は篠原 真莉愛(16) 【ローズマリア~妖魔の王は月の下で愛を請う~】という乙女ゲームのヒロインだ。 そのゲームのヒロインとして転生した、前世はゲームに課金していた元社会人な女は狂喜乱舞した。 何故ならトリップした異世界でチートを得た真莉愛は聖女と呼ばれ、神かかったイケメンの妖魔の王達に溺愛されるからだ。 「複雑な家庭環境と育児放棄が原因で、ファザコンとマザコンを拗らせたアーデルヴェルトもいいけどさ、あたしの推しは隠しキャラにして彼の父親であるグレンヴァルトなのよね~。けどさ~、アラブのシークっぽい感じなラクシャーサ族の王であるブラッドフォードに、何かポセイドンっぽい感じな水妖族の王であるヴェルナーも捨て難いし~・・・」 そうよ! だったら逆ハーをすればいいじゃない! 逆ハーは達成が難しい。だが遣り甲斐と達成感は半端ない。 その後にあるのは彼等による溺愛ルートだからだ。 これは乙女ゲームに似た現実の異世界にトリップしてしまった一人の女がゲームと現実の区別がつかない事で痛い目に遭う話である。 思い付きで書いたのでガバガバ設定+設定に矛盾がある+ご都合主義です。 いいタイトルが浮かばなかったので(仮)をつけています。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

冷遇された王女は隣国で力を発揮する

高瀬ゆみ
恋愛
セシリアは王女でありながら離宮に隔離されている。 父以外の家族にはいないものとして扱われ、唯一顔を見せる妹には好き放題言われて馬鹿にされている。 そんな中、公爵家の子息から求婚され、幸せになれると思ったのも束の間――それを知った妹に相手を奪われてしまう。 今までの鬱憤が爆発したセシリアは、自国での幸せを諦めて、凶帝と恐れられる隣国の皇帝に嫁ぐことを決意する。 自分に正直に生きることを決めたセシリアは、思いがけず隣国で才能が開花する。 一方、セシリアがいなくなった国では様々な異変が起こり始めて……

【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

桃月とと
恋愛
 娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。 (あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)  そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。  そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。 「復讐って、どうやって?」 「やり方は任せるわ」 「丸投げ!?」 「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」   と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。  しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。  流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。 「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」  これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。

処理中です...