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大型犬
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壁の正体を見上げようとするとスッと低くなる。片膝をついたその壁と目が合った。
「良かった。ケガはしていなかったようだな」
「マルキオーロ様」
騎士団の盛装用の制服を着たマルキオーロ様だった。白を基調に縁取りはブルー。腰に差された鞘は細やかな彫刻が施された細い物だった。レイピアなのだろう。彼にレイピアは似合わない気がするが。
「縁どられたブルーが、マルキオーロ様の瞳と同じ色ですね」
まるで彼の瞳に合わせて、その色にしたのかという位合っていた。ニカッと笑った彼は年上だろうけれど可愛く感じる。
「アヴァティーニ嬢でいいのだよな。君は美しいな」
「ありがとうございます。よろしければリリーとお呼びください。姉も会場にいるので」
「なるほど。リリー嬢だな」
なんだろう。なんだろう。無性に彼の頭をワシャワシャしたくなる衝動に駆られる。
彼がブルーの瞳でジッと私を見る。
「以前は焦っていて気付かなかったが……左右の瞳の色が違う。凄いな。宝石を埋め込んだ……訳じゃないよな」
ポカンとしてしまったのは仕方がないだろう。
「宝石を埋め込んだ?」
「ああ、すまない。変な言い方だったか。凄く綺麗だったから宝石みたいだって思ったんだ」
「……ふ、ふふ、ふふふふ」
もう、この人は。とても正直な人なのだろう。正直すぎて言葉がストレートになるようだが。
しばらく笑いが止まらない私を見ながら、あたふたしている彼をやっぱりワシャワシャしたくなる。
「本当ならあなたをダンスに誘いたいが、生憎警備中なのだ。次に会った時は踊ってくれるだろうか?」
大きな犬が、請うようなその姿に自然と笑ってしまう。そうだ。彼は大型犬のようなのだ。思わず笑みが深くなる。
「ふふ。ええ、是非」
再びニカリと笑って彼は立ち上がった。後ろに尻尾がないか思わず確認してしまったのは内緒だ。釣られて私も立ち上がる。
「俺を覚えていてくれてよかった。思わず声を掛けてしまったが、怪しい奴だと思われたらどうしようかと」
「怪しい奴だなんてとんでもないです。マルキオーロ様のおかげであの時、ケガせずに済んだのですから」
「そもそもケガさせてしまいそうになったのも俺が原因だが」
「ふふふ、それは言いっこなしです」
「ありがとう。リリー嬢に会えて良かった。今度は一緒に踊ろう。その時はアーロンと呼んでくれ」
そう言って彼は足早に去って行った。
その後は、二人ほど男性と踊り、少し風に当たろうとテラスに出た。風は冷たかったが心地良かった。一応、魔法で結界のように風よけを作る。
『レジナルドに、オスカー殿下、アーロン様と立て続けに綺麗だと言ってもらえた』
侯爵令息に言われた直後、一時は嫌いだったオッドアイ。でも、お父様とお母様から受け継いだ瞳なのだと実感した時から嫌いではなくなった。それでもなんとなく瞳の事に触れられるのが嫌で、学校も早々に飛び級した。
「でも今は、この瞳で良かった」
そろそろ会場の中に戻ろうかという時、何やら会場内がざわついた。特に入り口の方が騒がしいようだ。
「何か揉め事でも起こっているのかしら?」
なんとなく気になって会場内に戻り、入り口の方へ向かった。
しかし、怒声が聞こえる事もなく、物が壊れるような事もない。揉め事ではないようだ。それに気のせいか、女性たちがソワソワしている気がする。明らかに色とりどりのドレスが一箇所に集まって行く。
『何?誰か超ビッグなゲストでも来たの?』
でも、王族は皆揃っているし、一体誰なのだろう?見たくてもドレスの集合体の後ろには男性たちも集まっている為、全く見えない。
「どいてくれ」
中から声が発せられた。
「え?」
低くて威圧感のある、けれど美しい声。
集まっていたドレスの数々が、さあっと波が引くように離れた。
「嘘?」
「良かった。ケガはしていなかったようだな」
「マルキオーロ様」
騎士団の盛装用の制服を着たマルキオーロ様だった。白を基調に縁取りはブルー。腰に差された鞘は細やかな彫刻が施された細い物だった。レイピアなのだろう。彼にレイピアは似合わない気がするが。
「縁どられたブルーが、マルキオーロ様の瞳と同じ色ですね」
まるで彼の瞳に合わせて、その色にしたのかという位合っていた。ニカッと笑った彼は年上だろうけれど可愛く感じる。
「アヴァティーニ嬢でいいのだよな。君は美しいな」
「ありがとうございます。よろしければリリーとお呼びください。姉も会場にいるので」
「なるほど。リリー嬢だな」
なんだろう。なんだろう。無性に彼の頭をワシャワシャしたくなる衝動に駆られる。
彼がブルーの瞳でジッと私を見る。
「以前は焦っていて気付かなかったが……左右の瞳の色が違う。凄いな。宝石を埋め込んだ……訳じゃないよな」
ポカンとしてしまったのは仕方がないだろう。
「宝石を埋め込んだ?」
「ああ、すまない。変な言い方だったか。凄く綺麗だったから宝石みたいだって思ったんだ」
「……ふ、ふふ、ふふふふ」
もう、この人は。とても正直な人なのだろう。正直すぎて言葉がストレートになるようだが。
しばらく笑いが止まらない私を見ながら、あたふたしている彼をやっぱりワシャワシャしたくなる。
「本当ならあなたをダンスに誘いたいが、生憎警備中なのだ。次に会った時は踊ってくれるだろうか?」
大きな犬が、請うようなその姿に自然と笑ってしまう。そうだ。彼は大型犬のようなのだ。思わず笑みが深くなる。
「ふふ。ええ、是非」
再びニカリと笑って彼は立ち上がった。後ろに尻尾がないか思わず確認してしまったのは内緒だ。釣られて私も立ち上がる。
「俺を覚えていてくれてよかった。思わず声を掛けてしまったが、怪しい奴だと思われたらどうしようかと」
「怪しい奴だなんてとんでもないです。マルキオーロ様のおかげであの時、ケガせずに済んだのですから」
「そもそもケガさせてしまいそうになったのも俺が原因だが」
「ふふふ、それは言いっこなしです」
「ありがとう。リリー嬢に会えて良かった。今度は一緒に踊ろう。その時はアーロンと呼んでくれ」
そう言って彼は足早に去って行った。
その後は、二人ほど男性と踊り、少し風に当たろうとテラスに出た。風は冷たかったが心地良かった。一応、魔法で結界のように風よけを作る。
『レジナルドに、オスカー殿下、アーロン様と立て続けに綺麗だと言ってもらえた』
侯爵令息に言われた直後、一時は嫌いだったオッドアイ。でも、お父様とお母様から受け継いだ瞳なのだと実感した時から嫌いではなくなった。それでもなんとなく瞳の事に触れられるのが嫌で、学校も早々に飛び級した。
「でも今は、この瞳で良かった」
そろそろ会場の中に戻ろうかという時、何やら会場内がざわついた。特に入り口の方が騒がしいようだ。
「何か揉め事でも起こっているのかしら?」
なんとなく気になって会場内に戻り、入り口の方へ向かった。
しかし、怒声が聞こえる事もなく、物が壊れるような事もない。揉め事ではないようだ。それに気のせいか、女性たちがソワソワしている気がする。明らかに色とりどりのドレスが一箇所に集まって行く。
『何?誰か超ビッグなゲストでも来たの?』
でも、王族は皆揃っているし、一体誰なのだろう?見たくてもドレスの集合体の後ろには男性たちも集まっている為、全く見えない。
「どいてくれ」
中から声が発せられた。
「え?」
低くて威圧感のある、けれど美しい声。
集まっていたドレスの数々が、さあっと波が引くように離れた。
「嘘?」
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