上 下
4 / 47

王城へ

しおりを挟む
『見られている』
行きかう人々皆に、上から下までジロリと見られる。
『そんなに変なのかしら?』

お母様とローズ姉様には絶賛されたのだが……身内びいきというやつだったのか。そんな事を考えていると、正面から見知った顔が、ニコニコしながらやって来た。薄い色の金の髪がサラサラ揺れている。
「リリーじゃないか?どうしたの?そんな格好して」
「お義兄様」

ローズ姉様の旦那様だった。彼はとても優秀で、王城で宰相補佐をしている。
「ねえ、お義兄様。このドレス変?」
私が聞けば、お義兄様がハシバミ色の目をパチクリさせる。

「変?とんでもないよ。とても美しい。神々しいと言っても過言じゃないよ。女神かと思うくらい」
「本当に?」
「本当だよ。どうしてそんな不安そうなの?」
「だって、皆がジロジロ見るんだもの」
眉間にしわが寄ってしまう。

「あはは、それはねえ。リリーが綺麗過ぎるからだよ」
私の眉間のしわを指で伸ばしながら笑う。
「綺麗過ぎるからついつい見てしまうんじゃないかな。本当に綺麗だよ。自慢の義妹だ。だから自信を持って。何をしに行くのかはわからないけど」
とても宰相補佐をしているとは思えない、この柔らかい雰囲気。私の肩の力が抜けた。

「お茶会に行くの」
「ああ、お茶会か。そう言えば今日だったね。そうかあ、これは大変な事になりそうだ」
持っていた書類を小脇に挟んで私の肩に手を乗せる。
「今日のリリーは誰が見ても素敵だよ。間違いない。だから人の視線なんて気にせず楽しんでおいで」

この義兄はポヤポヤしているのに、彼の言葉はどうしてなのか心にストンと収まるのだ。
「ありがとう、お義兄様。楽しんでくるわ」
「うん、行っておいで」
手を振って義兄と別れた私は、もう人の視線を気にする事はなくなった。



 会場に到着しても、相変わらず視線は感じるが、もう気にはならない。
席に着けば、すぐにお茶が用意された。お茶を飲みながら、周囲を観察する。男女共に、バランスよく集められているようだ。多分、皆、婚約者がいない者たちなのだろう。

「あら?」
一人だけ異質な雰囲気の人がいた。黒いフード付きのマントを着ているのだ。流石にフードは被っていなかったが、明らかにお茶会にわざわざ来たと言う出で立ちではない。

「魔術師団の方だわ」
胸の紋章が見えた。杖を交差させた魔術師団の紋章だった。退屈そうに、長く伸ばした緑の髪を、くるくると指でいじりながらぼおっとしている。黒い瞳はどこか神秘的だ。線は細いが美しい顔をしていた。
『男女どちらにもモテそうね』

そんな失礼なことを考えていると目が合った。じっとこちらを見ている。すぐに視線を逸らせれば良かったと後に後悔する事になるのだが、タイミングを逃した私は望んでいないにもかかわらず、見つめ合う形になっていた。ふと、彼の口元がニヤリをしたのが見えた。慌てて視線を逸らせたが、時すでに遅し。彼が真っ直ぐこちらにやって来た。

「ねえ、じっと私を見ていたよね。どうして?」
思っていたよりも、声が低くて少し驚く。
「偶然です。別に意味はありませんわ」
感情を乗せずに喋るが、どうやら興味を持たれてしまったようだ。

「へえ、君って魔力が多いね」
「はい?」
「もしかして自分でわかってないのかな?君の魔力、魔術師団の中でも上位の者たちと同等、いや、それ以上の魔力を持ってるよ」
「そうですか」

知らなかった。幼い頃に計測したきりだったので、正確な数値は把握していない。しかし、ギルドの討伐依頼を受けても全く気にせずに使えるだけの魔力は確かにあった。

「無自覚なんだ。そんなに魔力を持っていて気にしないって、大物だね」
それが大物に結びつくのかは、甚だ疑問である。

気が付けば、ちゃっかり隣に座られてしまった。
「私はアーチー・グランディ。魔術師団で、副団長の一人だよ」

魔術師団は大きく三つに分かれている。一つは研究班。純粋に魔法の研究をする人たちの集まりだ。二つ目は討伐班。魔物の討伐などで、騎士団と共に戦う人たちの集まり。三つ目は護衛班。王族や他国からの使者の方を守る人たちの集まり。

この三つの班にはそれぞれトップがいる。それが、副団長の三人。若く見えるのに、副団長という地位にいるという事は、彼は随分と有能のようだ。

「リリー・アヴァティーニです」
「君がリリー嬢か。冒険者をしているという噂の」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...