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お父様、裁く

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 紙を渡された殿下もみるみるうちに、金色の瞳を濃く光らせる。

「ねえ、いつまで呆けてるんだい?いい加減シャキッとしなよ」
殿下の冷たい空気に、男はブルっと震えた。

「おまえ、御用聞きの仕事をしていた平民だったね」
男の肩がビクッとなった。

「夜中に盗みを働こうと子爵家に忍び込んで、たまたま遭遇してしまった本物のパルマーロ子爵ともみ合って殺してしまった。

遺体を担いで敷地の端に埋め、誰にも見つからなかった事でいい気になったおまえは突拍子もない事を企んだ。自分が子爵と入れ替わろうと。

自分の存在を知っている二人の使用人を殺し、自分が子爵の弟であると偽って家に入り込んだ。兄は急に具合が悪くなって療養に入ったと嘘をついて、疑問を持つ者は排除する。それを繰り返していたんだ」

「くそっ!」
男はいきなり殿下に襲い掛かろうとした。しかし、殿下は軽く身を躱し、お父様がいつの間にか剣を抜き男の首に向ける。

動けなくなった所を国王の護衛騎士が拘束した。
「くそ!俺は子爵だぞ、離せ!」
拘束を解こうと暴れるが、二人がかりで捕らえているせいで全く動けない。お父様が早業で男をロープで拘束した。

「このまま、おまえたちはこいつらを地下牢に運べ。陛下は俺が見ているから」
護衛騎士の二人にお父様が言うと、男と娘を連れて騎士たちは部屋を後にした。

「はああ」
ドカッとソファへ座り込む殿下。
「思わぬ大捕物になったね」
「そうだな。一刻も早くパルマーロ子爵を見つけてやらねば」
お父様も息を吐く。

「……」
「……」
「……あれ?」
「なんだ?」
殿下が何かを思い出した。力なく答えるお父様。

「父上、何か言おうとしていませんでしたっけ?」
「ああ、そういえば」
確かに国王様は少しいいかと手を上げていた。あの騒動ですっかり忘れてしまっていた。

「で、なんでしょう?」
殿下が国王様に聞いた瞬間、国王様は両手で顔を覆いシクシクし出した。
「私は、あの男が一体誰なのか聞こうと思っていたのだ」
「え?」
「私はパルマーロ子爵を知っていた。パルマーロ子爵は、子爵でありながらとても博識で、私が尊敬していた御仁だった。その名を騙っている、見知らぬ男が誰なのか聞こうとしたのに……蔑ろにされたよお、サーラ嬢」

またもや私に泣きついてくる国王様。
隣に座ってよしよししてやる。
「陛下は凄いのですね。子爵様までしっかり覚えていらっしゃるなんて」
フォローしてあげると私を見て、殿下より薄い金色の瞳をキラキラさせた。
「サーラ嬢は優しいなぁ。早く私の娘になって欲しいよ」

「女々しい!」
バリッと私たちを引き剥がしたのは殿下だった。

「父上、いいですか?サーラは私の婚約者なんです。いくら父上だろうと無闇に触らないでください」
「うう、息子が冷たい」
めげずに私に抱きつこうとする国王様の首元にお父様が剣を突き出していた。次に殿下にまで剣を突き出す。

「いいか?何を勘違いしているか知らんが、サーラは私の娘だ。私の許可なしに二人とも触れる事は許さん」
「怖っ」
二人が一気に大人しくなった。

フンと鼻を鳴らしたお父様がマグラーニ公爵の方を見る。マグラーニ公爵は城勤めではあったが、国王様と直接関わる仕事ではなかった為、素の姿を初めて見たらしい。あんぐりと口を開いたまま固まっていた。勿論トンマーゾも。

「おまえら見たな」
恐ろしい笑顔で二人を見る。
「別に誰かに言うなんて事はしない。誓う!」
マグラーニ公爵が右手を上げて焦ったように言った。隣でトンマーゾがコクコク頷いている。

「ふふふ。そんなに怯えるな。別に殺しはしない」
悪役のセリフ。今の恐ろしい顔に似合い過ぎていて怖い。

「マグラーニ公爵、明日から陛下の側近な」
「は?」
「トンマーゾ。おまえも次期公爵になる男だ。勉強はまあまあ出来る。賢くはないがな。殿下の側近になれる努力をしろ。おまえは殿下の側近になって、サーラの幸せを悔しがりながら見守るのが今回の件の罰だ。わかったな」
「……はい」

全てをお父様が解決してしまった。マグラーニ公爵は目を白黒させているが、大丈夫なのだろうか。私の不安そうな雰囲気を感じ取ったのか、お父様が優しく私の頭を撫でた。

「心配するな。全部、私が上手く片付けるから」
うん。なんだか大丈夫な気がする。
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