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いよいよ
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休日。明日は王城で、社交界シーズン幕開けの舞踏会がある。その前日。
我が家は朝から慌ただしかった。しかし、明日に向けての準備だけで忙しい訳ではない。
「おや?早く着きすぎてしまったかな?」
「殿下」
応接室に入ってきた殿下は、真っ直ぐに私の傍にきて軽く抱きしめた。
「サーラ、会いたかった」
「もう終わる」
答えたのはお父様だ。殿下の腕をぺいっと払い、私から剥がす。しかし、すぐにお父様の視線が扉で固まった。
「なんでだ?」
苦虫を嚙み潰したような顔になる。
その視線の先にいたのは国王様だった。
「なんで?」
私も思わず首を傾げてしまった。
「来ちゃった」
お茶目な表情で言っているけれど、それは答えにはなっていない。
「母上に、明日の準備に父上はいらないから、こっちの様子をちゃんと見ていらっしゃいって言われたらしい」
「追い出されたのか」
馬鹿にした口調で言うお父様を睨む国王様。
「相変わらず酷いぞ、おまえは」
「本当のことを言っただけですよ、陛下」
「くっ、サーラ嬢」
泣きついてきた国王の背中を摩る。が、今度は殿下が私から国王様を剥がした。
「私の婚約者に馴れ馴れしくしないで頂きたい」
「息子まで冷たい」
両手で顔を覆い、シクシクしている。一連のこれは通常運転なのだろうか?
「陛下、こちらにお座りになってください。お茶にいたしましょう」
なんだか見ていられなくて声を掛けると、満面の笑みの国王がいた。
「ワシの義理の娘は優しいなぉ。しかも可愛い」
「チッ」
二人分の舌打ちが聞こえた。
皆でお茶をしていると、家令と共にマグラーニ公爵とトンマーゾが現れた。
「今日はすまないな」
マグラーニ公爵がお父様に声を掛ける。
「ああ、こちらこそ……すまない」
「はは、いいんだ」
トンマーゾはとても居心地が悪そうにもじもじしている。
家令に席まで案内され、座ろうとした公爵の目がある一点で止まった。
「陛下……」
慌てて礼をとろうとする公爵を手で制止させる陛下。
「今日は一父親として来ているだけだ。畏まらなくて良い」
先程までとは違う、威厳のある話し方をする国王。私はあんぐりと口を開いたまま呆けてしまった。
「ククク、サーラ。口が開いたままだよ」
笑いながら私の頬をつつく殿下の言葉で、すぐに口を閉じる。
「国王様はどっちが本当なのでしょう?」
「はは、最初のがホント」
「ああ、やはりそうでしたか」
なんだか可笑しくなってクスクス笑ってしまった。
その間、ずっとトンマーゾが見ていたことを私は知らなかった。
その少し後、今度はパルマーロ子爵とマリーア様がやって来た。なんだか二人とも嬉々とした様子だ。家令に席まで促され、何も言わずにどっかりと座る。
「早く茶をくれ」
座った早々、お茶を要求するパルマーロ子爵。娘の方は不躾に部屋をキョロキョロしている。
「あ、アダルベルト様だ。アダルベルト様~」
殿下を見つけた彼女は手を振っている。殿下は完全無視。お父様はこめかみをピクリとさせた。マグラーニ公爵は目を見開いている。国王様は無表情だ。
「グリマルディ公爵、そこにある絵はいくらする物なんですかな」
再び私の口がぽっかりと開いてしまった。人様の家に来て最初にする会話がそれ?しかもお父様はまだ何もお話になっていないのに。
「あ、トンマーゾ様~。いよいよ私、公爵令嬢ですよ。そしたらこれ皆、私の物になったりしますかね」
トンマーゾの傍まで駆け寄り、彼の腕に絡みつく。
凄い光景に口が開いてしまっているのは、私だけではなかったはず。
『やっぱり貴族の常識を知らないのだわ』
私はそう確信した。父親からしてわかっていないのだから仕方がないのかもしれない。
「今日はわざわざお集まりいただいて感謝する」
二人を無視したお父様が話し合いをスタートさせた。
我が家は朝から慌ただしかった。しかし、明日に向けての準備だけで忙しい訳ではない。
「おや?早く着きすぎてしまったかな?」
「殿下」
応接室に入ってきた殿下は、真っ直ぐに私の傍にきて軽く抱きしめた。
「サーラ、会いたかった」
「もう終わる」
答えたのはお父様だ。殿下の腕をぺいっと払い、私から剥がす。しかし、すぐにお父様の視線が扉で固まった。
「なんでだ?」
苦虫を嚙み潰したような顔になる。
その視線の先にいたのは国王様だった。
「なんで?」
私も思わず首を傾げてしまった。
「来ちゃった」
お茶目な表情で言っているけれど、それは答えにはなっていない。
「母上に、明日の準備に父上はいらないから、こっちの様子をちゃんと見ていらっしゃいって言われたらしい」
「追い出されたのか」
馬鹿にした口調で言うお父様を睨む国王様。
「相変わらず酷いぞ、おまえは」
「本当のことを言っただけですよ、陛下」
「くっ、サーラ嬢」
泣きついてきた国王の背中を摩る。が、今度は殿下が私から国王様を剥がした。
「私の婚約者に馴れ馴れしくしないで頂きたい」
「息子まで冷たい」
両手で顔を覆い、シクシクしている。一連のこれは通常運転なのだろうか?
「陛下、こちらにお座りになってください。お茶にいたしましょう」
なんだか見ていられなくて声を掛けると、満面の笑みの国王がいた。
「ワシの義理の娘は優しいなぉ。しかも可愛い」
「チッ」
二人分の舌打ちが聞こえた。
皆でお茶をしていると、家令と共にマグラーニ公爵とトンマーゾが現れた。
「今日はすまないな」
マグラーニ公爵がお父様に声を掛ける。
「ああ、こちらこそ……すまない」
「はは、いいんだ」
トンマーゾはとても居心地が悪そうにもじもじしている。
家令に席まで案内され、座ろうとした公爵の目がある一点で止まった。
「陛下……」
慌てて礼をとろうとする公爵を手で制止させる陛下。
「今日は一父親として来ているだけだ。畏まらなくて良い」
先程までとは違う、威厳のある話し方をする国王。私はあんぐりと口を開いたまま呆けてしまった。
「ククク、サーラ。口が開いたままだよ」
笑いながら私の頬をつつく殿下の言葉で、すぐに口を閉じる。
「国王様はどっちが本当なのでしょう?」
「はは、最初のがホント」
「ああ、やはりそうでしたか」
なんだか可笑しくなってクスクス笑ってしまった。
その間、ずっとトンマーゾが見ていたことを私は知らなかった。
その少し後、今度はパルマーロ子爵とマリーア様がやって来た。なんだか二人とも嬉々とした様子だ。家令に席まで促され、何も言わずにどっかりと座る。
「早く茶をくれ」
座った早々、お茶を要求するパルマーロ子爵。娘の方は不躾に部屋をキョロキョロしている。
「あ、アダルベルト様だ。アダルベルト様~」
殿下を見つけた彼女は手を振っている。殿下は完全無視。お父様はこめかみをピクリとさせた。マグラーニ公爵は目を見開いている。国王様は無表情だ。
「グリマルディ公爵、そこにある絵はいくらする物なんですかな」
再び私の口がぽっかりと開いてしまった。人様の家に来て最初にする会話がそれ?しかもお父様はまだ何もお話になっていないのに。
「あ、トンマーゾ様~。いよいよ私、公爵令嬢ですよ。そしたらこれ皆、私の物になったりしますかね」
トンマーゾの傍まで駆け寄り、彼の腕に絡みつく。
凄い光景に口が開いてしまっているのは、私だけではなかったはず。
『やっぱり貴族の常識を知らないのだわ』
私はそう確信した。父親からしてわかっていないのだから仕方がないのかもしれない。
「今日はわざわざお集まりいただいて感謝する」
二人を無視したお父様が話し合いをスタートさせた。
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