上 下
19 / 25

王子はムッツリ?

しおりを挟む
 社交界シーズンが始まる少し前。
アダルベルト殿下と私の婚約が正式に整った。特にまだ発表はしていないにも拘らず、このニュースは一気に広まった。

お昼休みに殿下と食事をしていると、祝ってくれる声や、悔しがっている声が聞こえた。
「今からでも、僕に乗り換えない?殿下なんて腹黒のムッツリだよ」
殿下の友人数名が、隣の席から茶々を入れる。

「誰がムッツリだ」
「腹黒は否定しないんだ」
「それは事実だからな」
悪い顔で返事をする殿下を指さす侯爵令息。

「ほら!こんな奴なんだよ。絶対に僕の方がいいと思うよ」
すると、もう一人の方が鼻で笑った。
「あなたが殿下よりいいという事はあり得ないでしょ。何故なら殿下より人間が出来ているのは私ですから。だからどうです?私にしませんか?幸せにしますよ」

代わるがわるアピールをしてくる方々に笑ってしまう。
「ふふ、ふふふ。皆様楽しい方たちばかりですのね」
笑顔を見た殿下は不機嫌になり、他の面々は上機嫌になる。
「いつでも殿下を捨てていいですからね。待ってますから」
「どうして私が捨てられるんだ?」
殿下が面白くなさそうに文句を言う。

「だって……ムッツリだもん、ねえ」
「だから、ムッツリではないと言っているだろう!」
「ムキになるという事は……やっぱり」
「おまえら~」

はしたないと思いながらも、笑いがとまらなくなってしまう。そんな時、ふと視線を感じた。そちらの方へ顔を向けると、トンマーゾがいた。じっとこちらを見ている。
『私を見ている?』
明らかに視線が合っている気がする。なんとも言えない表情のトンマーゾは、しばらくすると目線を逸らして去って行った。

『なんだったのかしら?』
不思議に思うも、すぐに注意はこちらに戻って、再び楽しい時間を過ごしたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 食堂でマリーアと待ち合わせをしていた。入り口まで行くと、やけに中が賑やかだった。何だろうと覗いてみると目に飛び込んできたのは淡い紫色。サーラだった。アダルベルト殿下と隣同士に座って、その隣の席には友人たちが座っていた。

胸がもやっとした。今朝、出がけに父上からされた話が蘇る。
「サーラはアダルベルト殿下と婚約したそうだ」
「アダルベルト殿下と?」

「ああ。まぁ、以前から殿下がサーラに気があると、城中で噂になっていたからな。殿下自身もお前とサーラの婚約がなくなった瞬間から、自分の気持ちを隠す事もなかったし。当然の結果だろうな」

やっぱり殿下はサーラの事を好きだったんだ。僕はずっと疑っていたんだ。だって留学先からサーラ宛に手紙が何通も来て。サーラは何もないって言っていたけれど、殿下はあの時からずっと好きだったに違いない。僕のサーラなのに……

自分の思考に驚いてしまった。僕のサーラって。もう僕たちは婚約者ではないのに。ただの幼馴染なのに、何を思っているんだ。僕はマリーアと結婚するのに。

そんな事を思い出しながら、ボーっと見ていると、サーラが声をあげて笑っていた。殿下も友人たちも笑っている。なんだかイライラした。サーラは僕が笑わせると一番笑うんだ、おまえたちじゃない。どうしてサーラもあんなに笑ってるんだ。僕が傍にいない事をもっと寂しがれよ。

話の節々で、殿下と目を合わせて微笑むサーラ。違うだろ、サーラは僕を見て微笑むはずだろ。なんだか面白くなくて、僕は食堂から離れた。ちょうどそのタイミングでマリーアがやって来た。

「あら?トンマーゾ様。食堂でお昼は?」
「なんか気分じゃなくなった。カフェに行こう」
有無を言わさず、彼女の手を取り歩き出す。

「どうしたの?トンマーゾ様」
彼女が何か言っているけれど、僕の耳には入らない。僕の中のもやもやは増々広がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

この偽りが終わるとき

豆狸
恋愛
「……本当なのか、妃よ」 「エドワード陛下がそうお思いならば、それが真実です」 この偽りはまだ終わるべきときではない。 なろう様でも公開中です。

国王の情婦

豆狸
恋愛
この王国の王太子の婚約者は、国王の情婦と呼ばれている。

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

あなたの妃になるのは私ではありません

風見ゆうみ
恋愛
私、リゼア・モロロフ侯爵令嬢には公爵令息のルークス・ラゼルという婚約者がいた。 新国王の即位のパーティーで若き国王であり暴君のテッカ・レブンジーに見初められた私は、ルークスとの婚約を強制的に解消させられ陛下と婚約させられてしまう。 それなのに陛下は私の友人であり、侍女として採用されたシラージェの事も愛するようになる。 「リゼア、君には側妃になってもらう。結婚前に、まずは君が使える人間かどうか確認するから見習いとして公務をこなしてほしい。これは王命だ。逆らえば家族がどうなるかわかってるよね?」 逆らうことも出来ず側妃見習いとして働いていたある日、陛下の愛を独り占めしたいシラージェが私を自殺に見せかけて殺そうと計画している話を聞いてしまう。 望んでもいない結婚をさせられそうな上に殺されるだなんて絶対に御免だわ! ※6月4日に完結予定です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

迅速な婚約破棄、迅速な復讐、迅速な…

小砂青
恋愛
婚約者と親友が浮気していた。 そう知ったあとの私たちの行動は実に迅速だった。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

愛と浮気と報復と

よーこ
恋愛
婚約中の幼馴染が浮気した。 絶対に許さない。酷い目に合わせてやる。 どんな理由があったとしても関係ない。 だって、わたしは傷ついたのだから。 ※R15は必要ないだろうけど念のため。

処理中です...