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カオス

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 すっかり日が暮れ、夕食の時間になる。
どういう訳か、殿下の席が思いっきり私に寄っている。
「殿下、いささか近すぎるようですが」
お父様の低い声にも全く動じない殿下。

「想いが通じたからね」
なんでもない事のように答える。
「今、なんと?」
「ん?サーラとね、両想いになったんだ。だから結婚を認めてくれ」

お父様の背後でゴゴゴゴと何かが鳴り響いている。物凄く怖い。殿下が私の、お母様がエルコレの耳を塞いだ。

「ふざけるなー!!」
耳が塞がれたと同時に、屋敷が揺れる程の怒号が飛んだ。

お二人とも先読みですか?凄いですね。そんな事を思っていると、お父様が怒り心頭のご様子で、殿下を怒鳴り散らしている。平然とした顔で軽く躱す殿下と、その様子をニコニコして見ているお母様。エルコレも気にせず食事を続けている。こういうのを何て言うのだったかしら?
『カオス』
これだわ。


カオスな夕食の時間が終わり、居間に移動する。
普段であれば一人掛けに座るお父様が、今日は長ソファに座り私を隣に座らせた。反対側の長ソファでムッとしているアダルベルト殿下。

「トンマーゾにお願いされたのです。彼女をグリマルディ公爵家の養女にしてくれないかって」
殿下と想いが通じ合ったせいなのか、あの時のような辛い気持ちはなかった。

「やはりな」
「トンマーゾには呆れてしまうわね」
「やっぱりボコボコに……」

「お父様、やはりというのは?」
「友人数人にも同じことを打診していたと、報告が上がっているんだ」
「そう言えば、頼んだ皆には相手にもされなかったと言っていたわ」

「ま、良識のある連中はそうするだろうね」
トンマーゾの友人は殿下の友人である場合がほとんどだ。彼に手を貸すような命知らずはいないだろう。

「これで完全にトンマーゾはギルディだな」
お父様の黒い笑顔が恐ろし過ぎる。
「出来れば私の手でボコボコにしたのだけれど」
殿下も真っ黒。

「とにかく、この件は私に預けてもらおう」
「一人で楽しまないでくれよ」
「勿論、殿下もどうぞご一緒に」
なんか二人を組ませてはいけないような気がしますが。

「うふふ、二人に任せれば安心ね」
ニコニコ笑顔のお母様。気のせいだろうか。一番怖い気がする。

「さ、お話も終わった事だし、今日はもう寝なさい。明日一日様子を見て、大丈夫なようなら学園に戻ってもいいわ」
「わかったわ、お母様」
「明後日は、私が迎えにここに来るよ。一緒に行こう」
先程とは打って変わって、優しい笑顔になる殿下。

「はい。ではおやすみなさい」
「さあ、私たちは楽しい話の続きをしようじゃないか」
お父様が嬉々として言った言葉は聞かない事にした。



 学園へ向かう馬車の中。
「これからは毎日一緒に学園に行こうね」
朝から上機嫌のアダルベルト殿下。私も嬉しいからいいけれど、まだ婚約してもいないのにいいのだろうか。

「大丈夫だよ。もう父上にも話は通してあるから。あとは正式な書類が揃うのを待つだけだよ」
私の不安を感じ取ったのか、殿下がニッコリとする。
「公爵は最後まで文句を言っていたけれどね。まあ王族の場合、書類の量がそれなりになるから、数日かかってしまうけれど、もう了承は得ているからね」

「はい」
なんだか信じられないけれど、とても嬉しい。
「本当は、すぐにでも結婚してしまいたいけれど、『サーラが学園を卒業するまでは死んでもやらん』って公爵に言われちゃってさ」

「ふふ、早く一緒になれるといいですね」
自然にそんな言葉が出た。自分でもびっくりしてしまう。トンマーゾの時にはそんな風に思った事があっただろうか。

「サーラ……」
感動したらしい殿下が、私を抱きしめようとした所で馬車が停まった。
「くっそう。朝のサーラを堪能したかった」
よくわからない言葉を発している殿下をサラッと無視する。堪能とか恥ずかしいのでやめてほしい。

一足先に降りた殿下にエスコートしてもらい、馬車から降りて学園内に入る。あと少しで教室、という所で聞き慣れない声で呼ばれた。
「あの、サーラ様」
呼ばれた方へ顔を向けると、淡いピンク色の髪の令嬢が立っていた。
『あら?この方、どこかで……』
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