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殿下の看病
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「ここは……」
鳥の鳴き声で目が覚めた。やけに身体が重い気がする。でも、頭だけはハッキリしていた。
「私……また倒れてしまったのね」
トンマーゾのお願い事が、私の心を再びボロボロにした。あれから何日経ったのかはわからないけれど、許してはいけない事だと、今ならハッキリわかる。あんな願いを聞き入れるべきではない。
「私って、男性を見る目がないのかしら?」
ふと、人の気配を感じて周囲を見るが誰も居ない。少しだけ顔を起こす。
「どうして?」
ベッドに突っ伏したように眠っているアダルベルト殿下がいた。窓から差し込む陽の光で金色の髪がキラキラしている。
「綺麗だわ」
そっと髪に触れた。サラサラとしてまるで絹糸のような髪は、私の指をすり抜けるように落ちた。
「……ん。サーラ」
今ので起こしてしまったのか、殿下が身じろぐ。
ゆっくりと顔を上げた殿下。金色の瞳が、髪に負けない程キラキラしていた。
「サーラ?」
「はい。あの、おはようございます」
「サーラ……おはよう。随分とゆっくりだったね」
泣いてしまうのかと思った。驚いた私は殿下の頬にそっと手を添えた。驚いたのは殿下もだったようで、金色の瞳を大きく見開いていた。
「申し訳ありません。殿下が泣いてしまう気がして」
「ああ、サーラ。君がもう少し起きるのが遅かったら、きっと私は本当に泣いていたと思うよ。目覚めてくれてありがとう」
頬に添えていた手を、両手で優しく握りしめた殿下は、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
コンコン。
小さなノック音と共に現れたのはお母様だった。
「殿下、交代しますから少しは……サーラ?」
「おはよう、お母様」
枕元まで近づいてきたお母様は、私の額を触りほっと息を吐いた。
「良かった。すっかり熱が下がっているわ。体調はどう?」
「身体がとても重いけれど、頭はスッキリしているわ」
「そう。良かった。食欲は?」
「果物が食べたいわ」
「わかったわ。今用意するから。その間にお風呂でさっぱりするのはどう?」
「是非。なんだかベタベタして気持ち悪かったの」
「汗をたくさんかいたもの」
気を利かせた殿下が立ち上がった。
「じゃあ、私は少しの間退散するよ」
「殿下、サーラの支度が整ったらお呼びしますから。少し休まれたら如何ですか?」
明らかに疲れた雰囲気の殿下を心配しているのだろう。
「殿下、私が呼びに参りますから、待っていてくださいますか?」
「サーラが?」
「はい」
にこやかに微笑む殿下。
「わかった。ではそれまでは少し休むことにするよ」
静かに部屋を後にした殿下の後ろ姿はやはり疲れて見えた。
「私のせいね」
湯に浸かりながら呟く。
「アダルベルト殿下は、お嬢様の事を本当に心配なさっておいででしたから。旦那様が休むように言っても、お嬢様を看病するんだって大変でしたよ」
その時を思い出したのだろう。笑いながら侍女が教えてくれた。
「そういえば私、どのくらい眠っていたのかしら?」
「丸三日ですね」
「そんなに?」
「お熱がなかなか下がりませんでしたので」
ああ、私ってこんなに弱かったのね。少し鍛えた方がいいかもしれない。湯から腕を出して力こぶを作ってみる。
「お嬢様、そういうことではないと思いますよ」
侍女には私が考えた事が、丸わかりだったようだ。
身支度を整えて、用意されていた殿下の部屋の扉をノックする。しかし、返事は帰って来なかった。
「眠っているのかもしれないわ」
少し時間を空けてから呼びに行く事にした。
果物を食べて、エルコレと再会を果たし、友人から届いていたお見舞いのカードの返事を書いて、再び殿下のいる部屋を訪れた。しかし、やっぱり返事はない。少し心配になり、行儀が悪いがそっと扉を開けて部屋を覗いた。
「……可愛い」
扉の先にはベッドが見え、こちら側に身体を向けて穏やかに眠っている殿下の顔が見えた。好奇心に負け、そっと近づいてみる。2歳年上なのもあってか、普段は大人びて見える殿下だが、眠っているとあどけなさが残っている。
「殿下も私の寝顔を見ていたのだし……いいわよね」
傍にあったイスをベッドのすぐ脇に持って来て座った。サラサラの金の髪が顔にかかっていたのをそっと直す。身じろぎした事に驚いたが、殿下はそのまままだ眠り続けていた。
そんな寝顔を見て、愛しいと思った自分の気持ちにびっくりする。でも同時に納得もした。こんなに大事にしてくれる人を好きにならない訳がないと。
鳥の鳴き声で目が覚めた。やけに身体が重い気がする。でも、頭だけはハッキリしていた。
「私……また倒れてしまったのね」
トンマーゾのお願い事が、私の心を再びボロボロにした。あれから何日経ったのかはわからないけれど、許してはいけない事だと、今ならハッキリわかる。あんな願いを聞き入れるべきではない。
「私って、男性を見る目がないのかしら?」
ふと、人の気配を感じて周囲を見るが誰も居ない。少しだけ顔を起こす。
「どうして?」
ベッドに突っ伏したように眠っているアダルベルト殿下がいた。窓から差し込む陽の光で金色の髪がキラキラしている。
「綺麗だわ」
そっと髪に触れた。サラサラとしてまるで絹糸のような髪は、私の指をすり抜けるように落ちた。
「……ん。サーラ」
今ので起こしてしまったのか、殿下が身じろぐ。
ゆっくりと顔を上げた殿下。金色の瞳が、髪に負けない程キラキラしていた。
「サーラ?」
「はい。あの、おはようございます」
「サーラ……おはよう。随分とゆっくりだったね」
泣いてしまうのかと思った。驚いた私は殿下の頬にそっと手を添えた。驚いたのは殿下もだったようで、金色の瞳を大きく見開いていた。
「申し訳ありません。殿下が泣いてしまう気がして」
「ああ、サーラ。君がもう少し起きるのが遅かったら、きっと私は本当に泣いていたと思うよ。目覚めてくれてありがとう」
頬に添えていた手を、両手で優しく握りしめた殿下は、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
コンコン。
小さなノック音と共に現れたのはお母様だった。
「殿下、交代しますから少しは……サーラ?」
「おはよう、お母様」
枕元まで近づいてきたお母様は、私の額を触りほっと息を吐いた。
「良かった。すっかり熱が下がっているわ。体調はどう?」
「身体がとても重いけれど、頭はスッキリしているわ」
「そう。良かった。食欲は?」
「果物が食べたいわ」
「わかったわ。今用意するから。その間にお風呂でさっぱりするのはどう?」
「是非。なんだかベタベタして気持ち悪かったの」
「汗をたくさんかいたもの」
気を利かせた殿下が立ち上がった。
「じゃあ、私は少しの間退散するよ」
「殿下、サーラの支度が整ったらお呼びしますから。少し休まれたら如何ですか?」
明らかに疲れた雰囲気の殿下を心配しているのだろう。
「殿下、私が呼びに参りますから、待っていてくださいますか?」
「サーラが?」
「はい」
にこやかに微笑む殿下。
「わかった。ではそれまでは少し休むことにするよ」
静かに部屋を後にした殿下の後ろ姿はやはり疲れて見えた。
「私のせいね」
湯に浸かりながら呟く。
「アダルベルト殿下は、お嬢様の事を本当に心配なさっておいででしたから。旦那様が休むように言っても、お嬢様を看病するんだって大変でしたよ」
その時を思い出したのだろう。笑いながら侍女が教えてくれた。
「そういえば私、どのくらい眠っていたのかしら?」
「丸三日ですね」
「そんなに?」
「お熱がなかなか下がりませんでしたので」
ああ、私ってこんなに弱かったのね。少し鍛えた方がいいかもしれない。湯から腕を出して力こぶを作ってみる。
「お嬢様、そういうことではないと思いますよ」
侍女には私が考えた事が、丸わかりだったようだ。
身支度を整えて、用意されていた殿下の部屋の扉をノックする。しかし、返事は帰って来なかった。
「眠っているのかもしれないわ」
少し時間を空けてから呼びに行く事にした。
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「……可愛い」
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「殿下も私の寝顔を見ていたのだし……いいわよね」
傍にあったイスをベッドのすぐ脇に持って来て座った。サラサラの金の髪が顔にかかっていたのをそっと直す。身じろぎした事に驚いたが、殿下はそのまままだ眠り続けていた。
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