4 / 25
彼がわからない
しおりを挟む
長期休暇になってもトンマーゾは戻ってこなかった。なんでも友人の別荘に遊びに行くとかで丸々休みを使ったらしい。彼の誕生日にも戻って来なかった。いつもなら『サーラに一番に祝ってもらう』と言って、前日からやって来ていたのに。
そしていよいよ私のスプレンドーレ学園の入学の日がやって来た。
「いってらっしゃい、姉様。早く帰って来てね」
「いってらっしゃい」
「本当に付き添いはいらないのか?」
「もうすぐ14歳になるのよ。付き添いはいらないわ。じゃあ、いってきます」
家族に見送られて学園へ向かう。
学園に行けばトンマーゾに会えるだろうか?結局数か月、彼に会っていない私はそんな期待を胸に学園へと向かった。
学園生活は概ね順調だった。友人も出来たし、勉強もちゃんとついていけている。トンマーゾには会えていないけれど……
そんな中、ある令嬢の噂が飛び交っているのを耳にした。
「子爵家の令嬢らしいのですけれど、何人も令息方を侍らせているのですって」
「中には高位の貴族の方もチラホラいるって聞いたわ。公爵家の方もいるって」
その瞬間、どういう訳か私の頭にトンマーゾが浮かんだ。嫌な予感がする。
「その中の何人かとはもう深い関係になっているって」
「えええ!?嘘でしょ」
「それが長期休暇の時に、どこかの伯爵家の別荘で数人の男たちと入って行く令嬢を見たって」
「誰が?」
「隣の敷地の伯爵家の方が見たらしいわ」
トンマーゾは何と言っていた?友人の別荘に行くと言っていなかっただろうか?私は目の前が真っ暗になったような気がした。
そして、そう日が経たないうちに、私の嫌な予感が当たっていたことを知る。
放課後、図書室で本を借りて戻ろうとした廊下で呼び止められた。
「サーラ」
「トンマーゾ?」
ずっと会っていなかった私の婚約者だった。
「話があるんだ。ちょっと付き合ってもらえない?」
廊下の片隅。トンマーゾが戸惑った表情をしている。どう切り出したらいいのか悩んでいる、そんな感じだ。
「どうしたの?随分会ってなかったけれど。元気だった?」
敢えて世間話のように会話を振る。しかし、私の心臓はドクドクと嫌な音を立てていた。
「ごめん!サーラ。婚約を解消して」
意を決したように一気に捲し立てたトンマーゾ。なんとなく予想はしていた。それでもショックは大きく、まるで大きな石で頭を殴られたようだった。
「……どうして」
なんとか言葉を出す。
「僕ね、好きな人が出来たんだ。本当に好きなんだ。彼女と結婚したいと思っている。でもね、家格差があり過ぎて……」
私の気持ちなどお構いなしで、嬉しそうな顔をしたり、困った顔をしたりしながら語るトンマーゾ。
「彼女はね、僕の1学年下なんだけれど中庭でさ、泣いていたんだ。小さな肩を震わせてさ。思わず彼女に近づいてどうしたのか聞いたんだ。そうしたら彼女、本を読んでてね。その話が悲しくて泣いてしまったって言うんだ。可愛いと思わない?」
尚も語る。
「その時に思っちゃったんだよ。この小さな彼女を守ってあげたいなって。でもそう考えているのは僕だけじゃなくってさ。彼女の周りには常に何人かの男たちがまとわりついているんだ。だから僕がその全てから守ってあげるよって言ったんだ」
「彼女もね、僕の事が一番好きって言ってくれるんだ。僕に全てを捧げるわって……」
ぽやぽやと夢見心地の表情になっている。もう私の事は見えていないようだ。
「ただね、彼女の事をちゃんと親に説得する時間が欲しいんだよ。それでさ、おねがいがあるんだけど……決着が着くまでは婚約したままでいいかな?」
「は?」
何と言った?婚約はしたまま?先程解消してと言わなかったか?彼が何を言っているのか理解が出来ない。
「だってほら、もうすぐ社交界デビューするでしょ。それなのに婚約者がいないなんて、公爵家としてはまずいかなって。サーラとは婚約解消してますなんて、流石にデビューで言う話じゃないし」
この人はこんな勝手なことを言う人だっただろうか?本当にトンマーゾなのか?そう思ってしまう程、彼は私の知っているトンマーゾとはかけ離れていた。思いやりに溢れていた彼は幻だったのだろうか。
「ねえ、お願いだよ。ね、この通り」
目の前が真っ暗になった。
そしていよいよ私のスプレンドーレ学園の入学の日がやって来た。
「いってらっしゃい、姉様。早く帰って来てね」
「いってらっしゃい」
「本当に付き添いはいらないのか?」
「もうすぐ14歳になるのよ。付き添いはいらないわ。じゃあ、いってきます」
家族に見送られて学園へ向かう。
学園に行けばトンマーゾに会えるだろうか?結局数か月、彼に会っていない私はそんな期待を胸に学園へと向かった。
学園生活は概ね順調だった。友人も出来たし、勉強もちゃんとついていけている。トンマーゾには会えていないけれど……
そんな中、ある令嬢の噂が飛び交っているのを耳にした。
「子爵家の令嬢らしいのですけれど、何人も令息方を侍らせているのですって」
「中には高位の貴族の方もチラホラいるって聞いたわ。公爵家の方もいるって」
その瞬間、どういう訳か私の頭にトンマーゾが浮かんだ。嫌な予感がする。
「その中の何人かとはもう深い関係になっているって」
「えええ!?嘘でしょ」
「それが長期休暇の時に、どこかの伯爵家の別荘で数人の男たちと入って行く令嬢を見たって」
「誰が?」
「隣の敷地の伯爵家の方が見たらしいわ」
トンマーゾは何と言っていた?友人の別荘に行くと言っていなかっただろうか?私は目の前が真っ暗になったような気がした。
そして、そう日が経たないうちに、私の嫌な予感が当たっていたことを知る。
放課後、図書室で本を借りて戻ろうとした廊下で呼び止められた。
「サーラ」
「トンマーゾ?」
ずっと会っていなかった私の婚約者だった。
「話があるんだ。ちょっと付き合ってもらえない?」
廊下の片隅。トンマーゾが戸惑った表情をしている。どう切り出したらいいのか悩んでいる、そんな感じだ。
「どうしたの?随分会ってなかったけれど。元気だった?」
敢えて世間話のように会話を振る。しかし、私の心臓はドクドクと嫌な音を立てていた。
「ごめん!サーラ。婚約を解消して」
意を決したように一気に捲し立てたトンマーゾ。なんとなく予想はしていた。それでもショックは大きく、まるで大きな石で頭を殴られたようだった。
「……どうして」
なんとか言葉を出す。
「僕ね、好きな人が出来たんだ。本当に好きなんだ。彼女と結婚したいと思っている。でもね、家格差があり過ぎて……」
私の気持ちなどお構いなしで、嬉しそうな顔をしたり、困った顔をしたりしながら語るトンマーゾ。
「彼女はね、僕の1学年下なんだけれど中庭でさ、泣いていたんだ。小さな肩を震わせてさ。思わず彼女に近づいてどうしたのか聞いたんだ。そうしたら彼女、本を読んでてね。その話が悲しくて泣いてしまったって言うんだ。可愛いと思わない?」
尚も語る。
「その時に思っちゃったんだよ。この小さな彼女を守ってあげたいなって。でもそう考えているのは僕だけじゃなくってさ。彼女の周りには常に何人かの男たちがまとわりついているんだ。だから僕がその全てから守ってあげるよって言ったんだ」
「彼女もね、僕の事が一番好きって言ってくれるんだ。僕に全てを捧げるわって……」
ぽやぽやと夢見心地の表情になっている。もう私の事は見えていないようだ。
「ただね、彼女の事をちゃんと親に説得する時間が欲しいんだよ。それでさ、おねがいがあるんだけど……決着が着くまでは婚約したままでいいかな?」
「は?」
何と言った?婚約はしたまま?先程解消してと言わなかったか?彼が何を言っているのか理解が出来ない。
「だってほら、もうすぐ社交界デビューするでしょ。それなのに婚約者がいないなんて、公爵家としてはまずいかなって。サーラとは婚約解消してますなんて、流石にデビューで言う話じゃないし」
この人はこんな勝手なことを言う人だっただろうか?本当にトンマーゾなのか?そう思ってしまう程、彼は私の知っているトンマーゾとはかけ離れていた。思いやりに溢れていた彼は幻だったのだろうか。
「ねえ、お願いだよ。ね、この通り」
目の前が真っ暗になった。
21
お気に入りに追加
365
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
裏切りの公爵令嬢は処刑台で笑う
千 遊雲
恋愛
公爵家令嬢のセルディナ・マクバーレンは咎人である。
彼女は奴隷の魔物に唆され、国を裏切った。投獄された彼女は牢獄の中でも奴隷の男の名を呼んでいたが、処刑台に立たされた彼女を助けようとする者は居なかった。
哀れな彼女はそれでも笑った。英雄とも裏切り者とも呼ばれる彼女の笑みの理由とは?
【現在更新中の「毒殺未遂三昧だった私が王子様の婚約者? 申し訳ありませんが、その令嬢はもう死にました」の元ネタのようなものです】
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
婚約者に捨てられたので殺される前に言葉も交わしたことのない人と逃げることにしました。
四折 柊
恋愛
家のために王太子の婚約者として生きてきた日々。ところがその婚約者に捨てられて家族には死を受け入れろと毒を渡される。そんな私にここから逃げようと手を差し伸べてくれたのは言葉も交わしたことのない人でした。 ※「婚約者に捨てられて死を待つ令嬢を連れて逃げた男の話」の対になる女性目線のお話です。こちらを読んで頂ければより分かりやすいと思います。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる