断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

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ランザ・マラガーニ1

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『やったわ、Aクラスよ』
王立学園入学の日、クラス分け表を見れば私の名前はAクラスにしっかりあった。

小さい頃から本が好きで、ジャンルを問わず本を読み漁っていた。小柄でミルクティー色の髪にペリドット色の瞳の私は、小動物のようだとよく弟に可愛いがられていた。

幼く見えてしまう私だが、これでも侯爵の娘なのでいくつか婚約の話は来ていたのだが、本を読むほうが大事な私にとっては迷惑でしかなかった。

このままでは結婚することが出来ないのでは?そう心配した両親は婚約者を探そうとしたが、私の事を大好きな弟が全てを阻止してくれた。

それでもこのままではいけないと思った私は、仕事をする道を選ぼうと王立学園に通う事に決めた。

『王城にある図書館の司書とかいいかも』
王城の図書館には他国の歴史書は勿論、他国で発行されている物語や絵本などもある。そうそう行ける所ではないので、司書になるのはとてもいい案かもしれない。

そうして勉強を頑張り、無事にAクラスを勝ち取ったのである。

「Aクラスってどの位いるのかしら?」
独り言を零しながら教室へ向かう。すると、なにやら騒がしい。一体何かと思いながら進んで行くと目指していたAクラスの前に人だかりが出来ていた。

『Aクラス多くない?』
思っていた以上に人がいることに驚いていると、どうやら皆Aクラスの人間ではないらしい。しきりに扉の向こうを見ているようだ。

『何?何か凄い物があるの?』
恐る恐る教室へと入ってみると、目を向けた先に天使がいた。

「天使がいる……」
どうやら外で見ている人たちはあの天使を見に来たようだ。一緒にいる令嬢は見た事がある。確か同じ侯爵家だったはず。

私の意志とは関係なく、まるで引き寄せられるようにフラフラと二人の方へ向かう。
「ごきげんよう。あの、えっと、こんなことをいきなり聞くのは失礼だと思うのですが、天使様がなぜこんな場所に?」

聞いた二人はキョトンとしてしまった。
『キョトン顔も綺麗だわ。さすが天使』
そう思っていた私の思考は、二人の笑い声によって霧散した。

「ふふふ、アリー様、聞かれていますわよ」
侯爵家の令嬢が笑いながら天使様に話を振る。

「ですから、私は天使ではなく人間です。初めまして。アリアンナ・ヴォルテーラと申します」
ハープが奏でられたかのような、美しい声で挨拶した令嬢の名前で納得する。

「神を呼ぶ聖なる声……やはり天使様なのでは?」
「ごめんなさい、人間です」
天使様に謝られてしまった。

「あ、いえ、あの……謝って頂くなんて恐れ多いというか、あの、えっと、こちらこそすみません。ご挨拶が遅れました。ランザ・マラガーニと申します。どうぞランザとお呼びください」

「はい、ランザ様。アリアンナ・ヴォルテーラです。私の事はどうぞアリーと」
「アリー様……」
「はい」
「本当に天使様ではない?」
「はい」
「では、お友達になって頂けますか?」
「ふふ、はい。喜んで」
「はうっ」
アリー様の微笑みに、心臓を撃ち抜かれた気がした。

「私はフランカ・ベラヴィーアです。私ともお友達になってくださいますか?」
「あ、はい。喜んで」

こうして、私たち三人は友達として仲良くなることが出来たのだった。

「それにしても、クラスの外は凄い人だかりが出来てますよ」
「そうなのですか?このクラスに何かあるのでしょうか?」
周囲を観察しながら、小首を傾げるアリー様。ヤバい可愛い。見た目は綺麗という言葉がピッタリなのだが、実際に接してみると可愛らしいという言葉の方が合っている。

「皆、アリー様を見にいらっしゃったんだと思いますが」
「私ですか?見ても何も出ませんのに?」
「アリー様の美しさを確認しに来ているのだと思いますわよ。婚約者であるダヴィデ殿下がここにいないのなら、誰にもとがめられませんもの」

予想外の言葉が聞こえた気がする。

「ダヴィデ殿下はこのクラスではないのですか?」
「ええ、そうなのですって。驚きますわよね。しかもなんとDクラス。きっと王族始まって以来の珍事件になるのではないかしら?」

どうやら愚かな王子という噂は本当だったらしい。それにしてもDクラスとは酷い。

「何というか、アリー様、苦労しますわね」
「私は……いいのです」
悲しそうに微笑むアリー様を見て、私はわかってしまった。彼女は全く望んでいない婚約なのだろう。

他人事ながらアリー様のお心を考えると、胸がギュッと苦しくなってしまう。軽く頭を振って気持ちを切り替える。

「それなら婚約者を気にすることなく、学園生活を楽しめますね」
思いっきり笑顔で言うと、アリー様もフラン様も吹き出した。
「あら?私、何かおかしなこと言いました?」

「違うわ。ふふふ、全然おかしなことなんて。ただ、私もアリー様に同じことを言ったばかりなのよ。ふふふ」
「イヤだ。被ってしまいましたか?」
その言葉で再び笑う二人に釣られて、私も一緒に笑ってしまうのだった。
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