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この世界の魔法の使い方
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スピナジーニ夫人の言葉に頭が真っ白になってしまう。私が主人公の小説?それってつまり、アネリが言っていた通りって事?
「じゃあ、皆の行動も本物の小説の通りって事?」
今までの出来事は全部小説の通り……つまり皆決められた行動をしていただけ?レンゾ様が私と親友になったのも、ミアノ様が突然授業中にプロポーズしてきたのも、パウル様が自宅に招待してくれて、オスティアーゼ公爵夫人がとても良くしてくれたのも全部小説に書かれていたからだった?昨夜、アルノルド王子に抱きしめられたのも、全部小説に書かれていたから起こった事だったという事?夫人が創作した訳ではなく、形は違えど本当に小説は存在していた……この事実に身体の力が抜けてしまう。クーが慌てて九尾の尾で受けとめてくれた。
ショックで呆けている私を見て、夫人は不思議そうな顔をした。
「そんなの当たり前じゃない。イベントはただあんたとシシリーを入れ替えただけだもの。ああ、でもなんか違う事もいくつかあったみたいね」
夫人は週末シシリー嬢が帰る度に、本と事実を擦り合わせていたらしく、思うように事が進まない事にヤキモキしていたらしい。聞いてもいないのに、相違点を勝手に語り出す。
「そもそもヴィートとあんたは本当の兄妹だから、恋愛に発展するような話は一切ない。ミアノとあんたが剣の試合をしたっていうのも、そのキツネがそんなに大きくなるのも、レンゾと友人関係になるのも原作にはない事だったわ。もしかしたらまだあるのかもしれないけど、シシリーからしか話を聞くことが出来なかったから。でも私が作った本の内容とも違う、原作とも違う。それはつまり話そのものが変わっていっているってことよ。それが吉兆だとは思えなくてね」
未だ呆けている私に向かって指を指してニヤッと笑う。
「ヒロインポジションに二人いるのが悪いんだと思ったの。ヒロインはシシリーだけで十分。だからね、余計な一人の方を消してしまおうって」
私に向けて人差し指を出していた夫人は、今度は親指を出すと自分の首を斬るようなジェスチャーをする。けれど、すぐに大きな溜息を吐いた。
「それなのに、全然上手くいかなかった。せっかく変装までして毒を仕込んでやったのに普通に生きてるし」
再びベンチにもたれ、足を組むと「あーあ」と投げやりな口調で呟いた。
「私はさあ、せっかくこんなファンタジーな世界に生まれ変わったんだから、幸せになりたかった訳。魔法だって使いたい放題だったし、小説のおかげである程度の未来は知っていたし。シシリーが王妃になって私は公爵夫人でおまけに王族と血縁系になる。これって今の私の立場からすれば最高のハッピーエンドじゃない?それなのに、あんたはシシリーの邪魔ばっかり。ホント、いらないわ」
あまりに勝手な言い分に呆けていた自分より、ムカムカしてしまう自分が勝つ。クーのフサフサな尻尾から抜け、両腰に手を添え真っ直ぐに夫人の前に立つ。
「ちょっと。邪魔って何?私は邪魔なんてした覚えはないわ。シシリー嬢がとろいだけじゃない。私は、ちゃんと悪役をこなそうと努力していたわ!それはもう真剣にね!」
どれだけ頑張ったことか。それなのに邪魔の一言で片付けられるなんて許せない。だから胸を張り、はっきりと自分の正当性をしっかり主張した。
その時だ。四阿のすぐ横にある木からブッという吹き出す声が二つ聞こえた。それまでだらけたように座っていた夫人が、背もたれから身を起こし警戒するようにキョロキョロし出す。
すると、木の葉がガサガサと揺れ、二人の人影が降りてきた。
「もう、ヴィート。せっかく気配を消していたというのに」
人影の正体はお父様とお兄様。実は二人とも出掛けたと偽ってずっと木の上に隠れていたのだ。やれやれという顔のお父様がお兄様を嗜める。
「すみません。リアの主張がちょっとツボに……でも私だけじゃないですよ。ね。殿下」
すると、木の影からアルノルド王子、レンゾ様、ミアノ様、パウル様が出てきた。王子はまだ肩を震わせて笑っている。
「すまない。悪役を真剣にって……あんなに堂々と……」
笑って上手く言葉が紡げていない。私、そんな笑われる程おかしな事言った?納得出来ない私を余所に、夫人は目を見開いて次々に現れた小説の登場人物たちに驚いていた。
「なんで?私、ちゃんと周囲を警戒していたのに。この子とそこのキツネ以外の気配は感じなかったのに」
どうやら索敵魔法か何かを使っていたようだ。それなのに、皆の気配を察知出来なかった事が信じられないようだった。
「夫人、君は確かに魔力量がとても多いね。我が家の人間に負けず劣らずの魔力量を持っている。いや、もしかしたら量だけで言ったら私たちより多いかもしれない。でもね、魔法というのは扱う為のセンスが大切なんだよ。想像力だけでは足りないんだ。そして君は、残念ながらセンスはない」
お父様がゆっくりと夫人に言って聞かせた。ポカンとしたままお父様を見つめている夫人の姿が、なんだか少し幼く見えたのは気のせいだろうか?お父様は、そんな夫人を残念そうに見つめた。
「そして君の魔力だけど、もう以前程の魔力量には戻らないだろう」
「は?なんで?」
怪訝な表情でお父様を見る夫人。そんな夫人にお父様はやっぱりゆっくり話して聞かせた。
「君はね、魔法の使い方を間違えたんだ。魔法というのは本来、助けとなる為に使うもの。自分に対して使う時でも自分以外のものに対して使う時でも、助けになる為に使うものなんだ。それを自分の利益のみで使ってしまうと、気付かないうちに悪い気が体内に溜まってしまうんだよ。一度溜まった悪い気は、決して消える事はない」
お父様は話しながらクーを見た。何かが通じ合ったのかクーは、コクリと頷いてみせる。それを見たお父様は再び夫人に視線を戻した。
「その悪い気をクーは感じていたんだろうね。聖獣というのは文字の通り、聖なる気を持っているから。だから相反している気を持つ君の近くに行くのを嫌がったんだろうね。そんな君の娘であるシシリー嬢に対しても同じような気を感じていて、傍に寄りたがらなかったんじゃないかな。それとね、溜まり続ける悪い気は次第に本人の身体を蝕んでいき、本人自体に影響を与える。自分でも実感する頃合いじゃないかな。魔力が弱まった事をね」
「じゃあ、皆の行動も本物の小説の通りって事?」
今までの出来事は全部小説の通り……つまり皆決められた行動をしていただけ?レンゾ様が私と親友になったのも、ミアノ様が突然授業中にプロポーズしてきたのも、パウル様が自宅に招待してくれて、オスティアーゼ公爵夫人がとても良くしてくれたのも全部小説に書かれていたからだった?昨夜、アルノルド王子に抱きしめられたのも、全部小説に書かれていたから起こった事だったという事?夫人が創作した訳ではなく、形は違えど本当に小説は存在していた……この事実に身体の力が抜けてしまう。クーが慌てて九尾の尾で受けとめてくれた。
ショックで呆けている私を見て、夫人は不思議そうな顔をした。
「そんなの当たり前じゃない。イベントはただあんたとシシリーを入れ替えただけだもの。ああ、でもなんか違う事もいくつかあったみたいね」
夫人は週末シシリー嬢が帰る度に、本と事実を擦り合わせていたらしく、思うように事が進まない事にヤキモキしていたらしい。聞いてもいないのに、相違点を勝手に語り出す。
「そもそもヴィートとあんたは本当の兄妹だから、恋愛に発展するような話は一切ない。ミアノとあんたが剣の試合をしたっていうのも、そのキツネがそんなに大きくなるのも、レンゾと友人関係になるのも原作にはない事だったわ。もしかしたらまだあるのかもしれないけど、シシリーからしか話を聞くことが出来なかったから。でも私が作った本の内容とも違う、原作とも違う。それはつまり話そのものが変わっていっているってことよ。それが吉兆だとは思えなくてね」
未だ呆けている私に向かって指を指してニヤッと笑う。
「ヒロインポジションに二人いるのが悪いんだと思ったの。ヒロインはシシリーだけで十分。だからね、余計な一人の方を消してしまおうって」
私に向けて人差し指を出していた夫人は、今度は親指を出すと自分の首を斬るようなジェスチャーをする。けれど、すぐに大きな溜息を吐いた。
「それなのに、全然上手くいかなかった。せっかく変装までして毒を仕込んでやったのに普通に生きてるし」
再びベンチにもたれ、足を組むと「あーあ」と投げやりな口調で呟いた。
「私はさあ、せっかくこんなファンタジーな世界に生まれ変わったんだから、幸せになりたかった訳。魔法だって使いたい放題だったし、小説のおかげである程度の未来は知っていたし。シシリーが王妃になって私は公爵夫人でおまけに王族と血縁系になる。これって今の私の立場からすれば最高のハッピーエンドじゃない?それなのに、あんたはシシリーの邪魔ばっかり。ホント、いらないわ」
あまりに勝手な言い分に呆けていた自分より、ムカムカしてしまう自分が勝つ。クーのフサフサな尻尾から抜け、両腰に手を添え真っ直ぐに夫人の前に立つ。
「ちょっと。邪魔って何?私は邪魔なんてした覚えはないわ。シシリー嬢がとろいだけじゃない。私は、ちゃんと悪役をこなそうと努力していたわ!それはもう真剣にね!」
どれだけ頑張ったことか。それなのに邪魔の一言で片付けられるなんて許せない。だから胸を張り、はっきりと自分の正当性をしっかり主張した。
その時だ。四阿のすぐ横にある木からブッという吹き出す声が二つ聞こえた。それまでだらけたように座っていた夫人が、背もたれから身を起こし警戒するようにキョロキョロし出す。
すると、木の葉がガサガサと揺れ、二人の人影が降りてきた。
「もう、ヴィート。せっかく気配を消していたというのに」
人影の正体はお父様とお兄様。実は二人とも出掛けたと偽ってずっと木の上に隠れていたのだ。やれやれという顔のお父様がお兄様を嗜める。
「すみません。リアの主張がちょっとツボに……でも私だけじゃないですよ。ね。殿下」
すると、木の影からアルノルド王子、レンゾ様、ミアノ様、パウル様が出てきた。王子はまだ肩を震わせて笑っている。
「すまない。悪役を真剣にって……あんなに堂々と……」
笑って上手く言葉が紡げていない。私、そんな笑われる程おかしな事言った?納得出来ない私を余所に、夫人は目を見開いて次々に現れた小説の登場人物たちに驚いていた。
「なんで?私、ちゃんと周囲を警戒していたのに。この子とそこのキツネ以外の気配は感じなかったのに」
どうやら索敵魔法か何かを使っていたようだ。それなのに、皆の気配を察知出来なかった事が信じられないようだった。
「夫人、君は確かに魔力量がとても多いね。我が家の人間に負けず劣らずの魔力量を持っている。いや、もしかしたら量だけで言ったら私たちより多いかもしれない。でもね、魔法というのは扱う為のセンスが大切なんだよ。想像力だけでは足りないんだ。そして君は、残念ながらセンスはない」
お父様がゆっくりと夫人に言って聞かせた。ポカンとしたままお父様を見つめている夫人の姿が、なんだか少し幼く見えたのは気のせいだろうか?お父様は、そんな夫人を残念そうに見つめた。
「そして君の魔力だけど、もう以前程の魔力量には戻らないだろう」
「は?なんで?」
怪訝な表情でお父様を見る夫人。そんな夫人にお父様はやっぱりゆっくり話して聞かせた。
「君はね、魔法の使い方を間違えたんだ。魔法というのは本来、助けとなる為に使うもの。自分に対して使う時でも自分以外のものに対して使う時でも、助けになる為に使うものなんだ。それを自分の利益のみで使ってしまうと、気付かないうちに悪い気が体内に溜まってしまうんだよ。一度溜まった悪い気は、決して消える事はない」
お父様は話しながらクーを見た。何かが通じ合ったのかクーは、コクリと頷いてみせる。それを見たお父様は再び夫人に視線を戻した。
「その悪い気をクーは感じていたんだろうね。聖獣というのは文字の通り、聖なる気を持っているから。だから相反している気を持つ君の近くに行くのを嫌がったんだろうね。そんな君の娘であるシシリー嬢に対しても同じような気を感じていて、傍に寄りたがらなかったんじゃないかな。それとね、溜まり続ける悪い気は次第に本人の身体を蝕んでいき、本人自体に影響を与える。自分でも実感する頃合いじゃないかな。魔力が弱まった事をね」
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