70 / 71
この世界の魔法の使い方
しおりを挟む
スピナジーニ夫人の言葉に頭が真っ白になってしまう。私が主人公の小説?それってつまり、アネリが言っていた通りって事?
「じゃあ、皆の行動も本物の小説の通りって事?」
今までの出来事は全部小説の通り……つまり皆決められた行動をしていただけ?レンゾ様が私と親友になったのも、ミアノ様が突然授業中にプロポーズしてきたのも、パウル様が自宅に招待してくれて、オスティアーゼ公爵夫人がとても良くしてくれたのも全部小説に書かれていたからだった?昨夜、アルノルド王子に抱きしめられたのも、全部小説に書かれていたから起こった事だったという事?夫人が創作した訳ではなく、形は違えど本当に小説は存在していた……この事実に身体の力が抜けてしまう。クーが慌てて九尾の尾で受けとめてくれた。
ショックで呆けている私を見て、夫人は不思議そうな顔をした。
「そんなの当たり前じゃない。イベントはただあんたとシシリーを入れ替えただけだもの。ああ、でもなんか違う事もいくつかあったみたいね」
夫人は週末シシリー嬢が帰る度に、本と事実を擦り合わせていたらしく、思うように事が進まない事にヤキモキしていたらしい。聞いてもいないのに、相違点を勝手に語り出す。
「そもそもヴィートとあんたは本当の兄妹だから、恋愛に発展するような話は一切ない。ミアノとあんたが剣の試合をしたっていうのも、そのキツネがそんなに大きくなるのも、レンゾと友人関係になるのも原作にはない事だったわ。もしかしたらまだあるのかもしれないけど、シシリーからしか話を聞くことが出来なかったから。でも私が作った本の内容とも違う、原作とも違う。それはつまり話そのものが変わっていっているってことよ。それが吉兆だとは思えなくてね」
未だ呆けている私に向かって指を指してニヤッと笑う。
「ヒロインポジションに二人いるのが悪いんだと思ったの。ヒロインはシシリーだけで十分。だからね、余計な一人の方を消してしまおうって」
私に向けて人差し指を出していた夫人は、今度は親指を出すと自分の首を斬るようなジェスチャーをする。けれど、すぐに大きな溜息を吐いた。
「それなのに、全然上手くいかなかった。せっかく変装までして毒を仕込んでやったのに普通に生きてるし」
再びベンチにもたれ、足を組むと「あーあ」と投げやりな口調で呟いた。
「私はさあ、せっかくこんなファンタジーな世界に生まれ変わったんだから、幸せになりたかった訳。魔法だって使いたい放題だったし、小説のおかげである程度の未来は知っていたし。シシリーが王妃になって私は公爵夫人でおまけに王族と血縁系になる。これって今の私の立場からすれば最高のハッピーエンドじゃない?それなのに、あんたはシシリーの邪魔ばっかり。ホント、いらないわ」
あまりに勝手な言い分に呆けていた自分より、ムカムカしてしまう自分が勝つ。クーのフサフサな尻尾から抜け、両腰に手を添え真っ直ぐに夫人の前に立つ。
「ちょっと。邪魔って何?私は邪魔なんてした覚えはないわ。シシリー嬢がとろいだけじゃない。私は、ちゃんと悪役をこなそうと努力していたわ!それはもう真剣にね!」
どれだけ頑張ったことか。それなのに邪魔の一言で片付けられるなんて許せない。だから胸を張り、はっきりと自分の正当性をしっかり主張した。
その時だ。四阿のすぐ横にある木からブッという吹き出す声が二つ聞こえた。それまでだらけたように座っていた夫人が、背もたれから身を起こし警戒するようにキョロキョロし出す。
すると、木の葉がガサガサと揺れ、二人の人影が降りてきた。
「もう、ヴィート。せっかく気配を消していたというのに」
人影の正体はお父様とお兄様。実は二人とも出掛けたと偽ってずっと木の上に隠れていたのだ。やれやれという顔のお父様がお兄様を嗜める。
「すみません。リアの主張がちょっとツボに……でも私だけじゃないですよ。ね。殿下」
すると、木の影からアルノルド王子、レンゾ様、ミアノ様、パウル様が出てきた。王子はまだ肩を震わせて笑っている。
「すまない。悪役を真剣にって……あんなに堂々と……」
笑って上手く言葉が紡げていない。私、そんな笑われる程おかしな事言った?納得出来ない私を余所に、夫人は目を見開いて次々に現れた小説の登場人物たちに驚いていた。
「なんで?私、ちゃんと周囲を警戒していたのに。この子とそこのキツネ以外の気配は感じなかったのに」
どうやら索敵魔法か何かを使っていたようだ。それなのに、皆の気配を察知出来なかった事が信じられないようだった。
「夫人、君は確かに魔力量がとても多いね。我が家の人間に負けず劣らずの魔力量を持っている。いや、もしかしたら量だけで言ったら私たちより多いかもしれない。でもね、魔法というのは扱う為のセンスが大切なんだよ。想像力だけでは足りないんだ。そして君は、残念ながらセンスはない」
お父様がゆっくりと夫人に言って聞かせた。ポカンとしたままお父様を見つめている夫人の姿が、なんだか少し幼く見えたのは気のせいだろうか?お父様は、そんな夫人を残念そうに見つめた。
「そして君の魔力だけど、もう以前程の魔力量には戻らないだろう」
「は?なんで?」
怪訝な表情でお父様を見る夫人。そんな夫人にお父様はやっぱりゆっくり話して聞かせた。
「君はね、魔法の使い方を間違えたんだ。魔法というのは本来、助けとなる為に使うもの。自分に対して使う時でも自分以外のものに対して使う時でも、助けになる為に使うものなんだ。それを自分の利益のみで使ってしまうと、気付かないうちに悪い気が体内に溜まってしまうんだよ。一度溜まった悪い気は、決して消える事はない」
お父様は話しながらクーを見た。何かが通じ合ったのかクーは、コクリと頷いてみせる。それを見たお父様は再び夫人に視線を戻した。
「その悪い気をクーは感じていたんだろうね。聖獣というのは文字の通り、聖なる気を持っているから。だから相反している気を持つ君の近くに行くのを嫌がったんだろうね。そんな君の娘であるシシリー嬢に対しても同じような気を感じていて、傍に寄りたがらなかったんじゃないかな。それとね、溜まり続ける悪い気は次第に本人の身体を蝕んでいき、本人自体に影響を与える。自分でも実感する頃合いじゃないかな。魔力が弱まった事をね」
「じゃあ、皆の行動も本物の小説の通りって事?」
今までの出来事は全部小説の通り……つまり皆決められた行動をしていただけ?レンゾ様が私と親友になったのも、ミアノ様が突然授業中にプロポーズしてきたのも、パウル様が自宅に招待してくれて、オスティアーゼ公爵夫人がとても良くしてくれたのも全部小説に書かれていたからだった?昨夜、アルノルド王子に抱きしめられたのも、全部小説に書かれていたから起こった事だったという事?夫人が創作した訳ではなく、形は違えど本当に小説は存在していた……この事実に身体の力が抜けてしまう。クーが慌てて九尾の尾で受けとめてくれた。
ショックで呆けている私を見て、夫人は不思議そうな顔をした。
「そんなの当たり前じゃない。イベントはただあんたとシシリーを入れ替えただけだもの。ああ、でもなんか違う事もいくつかあったみたいね」
夫人は週末シシリー嬢が帰る度に、本と事実を擦り合わせていたらしく、思うように事が進まない事にヤキモキしていたらしい。聞いてもいないのに、相違点を勝手に語り出す。
「そもそもヴィートとあんたは本当の兄妹だから、恋愛に発展するような話は一切ない。ミアノとあんたが剣の試合をしたっていうのも、そのキツネがそんなに大きくなるのも、レンゾと友人関係になるのも原作にはない事だったわ。もしかしたらまだあるのかもしれないけど、シシリーからしか話を聞くことが出来なかったから。でも私が作った本の内容とも違う、原作とも違う。それはつまり話そのものが変わっていっているってことよ。それが吉兆だとは思えなくてね」
未だ呆けている私に向かって指を指してニヤッと笑う。
「ヒロインポジションに二人いるのが悪いんだと思ったの。ヒロインはシシリーだけで十分。だからね、余計な一人の方を消してしまおうって」
私に向けて人差し指を出していた夫人は、今度は親指を出すと自分の首を斬るようなジェスチャーをする。けれど、すぐに大きな溜息を吐いた。
「それなのに、全然上手くいかなかった。せっかく変装までして毒を仕込んでやったのに普通に生きてるし」
再びベンチにもたれ、足を組むと「あーあ」と投げやりな口調で呟いた。
「私はさあ、せっかくこんなファンタジーな世界に生まれ変わったんだから、幸せになりたかった訳。魔法だって使いたい放題だったし、小説のおかげである程度の未来は知っていたし。シシリーが王妃になって私は公爵夫人でおまけに王族と血縁系になる。これって今の私の立場からすれば最高のハッピーエンドじゃない?それなのに、あんたはシシリーの邪魔ばっかり。ホント、いらないわ」
あまりに勝手な言い分に呆けていた自分より、ムカムカしてしまう自分が勝つ。クーのフサフサな尻尾から抜け、両腰に手を添え真っ直ぐに夫人の前に立つ。
「ちょっと。邪魔って何?私は邪魔なんてした覚えはないわ。シシリー嬢がとろいだけじゃない。私は、ちゃんと悪役をこなそうと努力していたわ!それはもう真剣にね!」
どれだけ頑張ったことか。それなのに邪魔の一言で片付けられるなんて許せない。だから胸を張り、はっきりと自分の正当性をしっかり主張した。
その時だ。四阿のすぐ横にある木からブッという吹き出す声が二つ聞こえた。それまでだらけたように座っていた夫人が、背もたれから身を起こし警戒するようにキョロキョロし出す。
すると、木の葉がガサガサと揺れ、二人の人影が降りてきた。
「もう、ヴィート。せっかく気配を消していたというのに」
人影の正体はお父様とお兄様。実は二人とも出掛けたと偽ってずっと木の上に隠れていたのだ。やれやれという顔のお父様がお兄様を嗜める。
「すみません。リアの主張がちょっとツボに……でも私だけじゃないですよ。ね。殿下」
すると、木の影からアルノルド王子、レンゾ様、ミアノ様、パウル様が出てきた。王子はまだ肩を震わせて笑っている。
「すまない。悪役を真剣にって……あんなに堂々と……」
笑って上手く言葉が紡げていない。私、そんな笑われる程おかしな事言った?納得出来ない私を余所に、夫人は目を見開いて次々に現れた小説の登場人物たちに驚いていた。
「なんで?私、ちゃんと周囲を警戒していたのに。この子とそこのキツネ以外の気配は感じなかったのに」
どうやら索敵魔法か何かを使っていたようだ。それなのに、皆の気配を察知出来なかった事が信じられないようだった。
「夫人、君は確かに魔力量がとても多いね。我が家の人間に負けず劣らずの魔力量を持っている。いや、もしかしたら量だけで言ったら私たちより多いかもしれない。でもね、魔法というのは扱う為のセンスが大切なんだよ。想像力だけでは足りないんだ。そして君は、残念ながらセンスはない」
お父様がゆっくりと夫人に言って聞かせた。ポカンとしたままお父様を見つめている夫人の姿が、なんだか少し幼く見えたのは気のせいだろうか?お父様は、そんな夫人を残念そうに見つめた。
「そして君の魔力だけど、もう以前程の魔力量には戻らないだろう」
「は?なんで?」
怪訝な表情でお父様を見る夫人。そんな夫人にお父様はやっぱりゆっくり話して聞かせた。
「君はね、魔法の使い方を間違えたんだ。魔法というのは本来、助けとなる為に使うもの。自分に対して使う時でも自分以外のものに対して使う時でも、助けになる為に使うものなんだ。それを自分の利益のみで使ってしまうと、気付かないうちに悪い気が体内に溜まってしまうんだよ。一度溜まった悪い気は、決して消える事はない」
お父様は話しながらクーを見た。何かが通じ合ったのかクーは、コクリと頷いてみせる。それを見たお父様は再び夫人に視線を戻した。
「その悪い気をクーは感じていたんだろうね。聖獣というのは文字の通り、聖なる気を持っているから。だから相反している気を持つ君の近くに行くのを嫌がったんだろうね。そんな君の娘であるシシリー嬢に対しても同じような気を感じていて、傍に寄りたがらなかったんじゃないかな。それとね、溜まり続ける悪い気は次第に本人の身体を蝕んでいき、本人自体に影響を与える。自分でも実感する頃合いじゃないかな。魔力が弱まった事をね」
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる