上 下
40 / 71

クーの本来の姿

しおりを挟む
 学院では、使役獣を一緒に連れてくる事が許されている。だからこそ、クーも皆から普通に受け入れられているのだ。まあ、クーは使役獣ではないけれど。なので、学院のあちらこちらで動物の姿を目撃する事が出来る。

そしてこれは私の持論だが、大した魔力も持っていない主人の使役獣と言うのは総じてマナーが悪い。

今、そんな使役獣が目の前にいる。大きな黒い犬のような小型の狼のような風体だ。

 授業が急に休講になり、皆思い思いに過ごしていた。特に本の中の出来事とは関係ないので、私も教室を出てブラブラしていた。クーは少し前に、遊びに行くと言って外に出ていていない。そんな時だった。廊下を曲がるとど真ん中を涎を垂らし、威嚇しながら闊歩している使役獣に出くわしたのだ。授業中なだけあって人はそんなに通っていないが、それでも全く人がいない訳ではない。基本的に主人が傍にいる状態であれば、命令がない限り襲って来ることはない。しかし、主人の目が届かないところでは魔力が弱い主人の場合、使役獣を制御出来ないのだ。普通は目を離さず常に一緒にいるか、使役獣の本来の住処に戻しておくのだが、己を知らない主人の場合はこういう事が稀にある。

『タイミングが悪かったわね』
廊下を曲がった途端、向こうからやって来た黒い狼もどきと視線がかち合ってしまった。完全にあちらは私を襲う気満々だ。グルルルと唸り声を出し明らかにこちらに向かって来る姿に、周囲にいた数人の生徒から悲鳴が上がる。
『勘弁してよ』
悲鳴を聞いた狼もどきのテンションが上がったのを感じた。そして突然、悲鳴を上げた生徒の方へ方向を変えたのだ。唸って牙を剥き出した狼もどきが、いきなりその生徒に向かって飛びかかった。
「危ない!」
既に走り出していた私は、彼女に覆いかぶさる。私が噛まれたとしても、光魔法で治す事が出来るから大丈夫だ。そう思って牙が突き刺さる衝撃を待っていたが、一向に痛みがやって来ない。

不思議に思って振り返ると、美しい金色の大きな光が狼もどきを捕まえていた。
「何⁉︎」
光が眩しくて発している本人の姿がよく見えない。私は正体を見極めようとジッと見つめた。
「え?」
光を発しているのは、九尾に煌く尾を緩やかに振っている大きな狐だった。狼もどきの首元を咥えている。狼もどきはどうする事も出来ないようで、母猫に咥えられた子猫のようになすがままぶら下がっていた。
「クー?」
『間に合って良かった。リア、大丈夫?』
話し方は変わっていないけれど、声色は心に響くような美しい。神々しいまでの金色の光の正体はクーだったのだ。
「その姿は?」
『えへ、カッコイイ?これが本来の姿だよ。本当はもう少し大きいけどね』
「そうなんだ。うん、凄くカッコイイ」
私の素直な賛辞に嬉しそうに、九尾を振っている。何だろう。こんなに神々しいのに可愛い。
「クーのお陰で助かったわ、ありがとう」
『へへ、これくらいお安い御用だよ』
ああ、うちの子が頼もし過ぎる。

それからクーの事が、あっという間に学院中の噂になった。私以外にも生徒が数人いたので、彼らが話したのだろう。いつも以上に視線を感じる。最近、少し落ち着いて来たと思ったのに。皆の視線がチラチラと私たちを見ている。もしかしたらクーの九尾の姿を見たいのかもしれない。簡単に見せるわけないけれど。そして、我が家にもいつも以上に手紙がどっさりと届いた。魔力が高い上に、凄い使役獣を従えている私に対する求婚の手紙だった。まぁ、私は一切読む事なくお父様とお兄様が鬼の形相で、断りの手紙を書きなぐっていたけれど。

「ミケーリア嬢自身が強いのに、クーも凄いなんてもう最強なんじゃないか?」
話を聞いたらしいミアノ様が、授業で隣に座っていた私に笑いながら言う。
「ふふ、きっとミアノ様を簡単に負かしてしまいますわよ」
そう言って笑った私に、快活に笑ったミアノ様。
「だろうな。はは、やはりいいな。どうだ?私の妻にならないか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

殿下の婚約者は、記憶喪失です。

有沢真尋
恋愛
 王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。  王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。  たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。  彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。 ※ざまあ要素はありません。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく

ヒンメル
恋愛
公爵家嫡男と婚約中の公爵令嬢オフィーリア・ノーリッシュ。学園の卒業パーティーで婚約破棄を言い渡される。そこに助け舟が現れ……。   初投稿なので、おかしい所があったら、(打たれ弱いので)優しく教えてください。よろしくお願いします。 ※本編はR15ではありません。番外編の中でR15になるものに★を付けています。  番外編でBLっぽい表現があるものにはタイトルに表示していますので、苦手な方は回避してください。  BL色の強い番外編はこれとは別に独立させています。  「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」  (https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/974304595) ※表現や内容を修正中です。予告なく、若干内容が変わっていくことがあります。(大筋は変わっていません。) ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  完結後もお気に入り登録をして頂けて嬉しいです。(増える度に小躍りしてしまいます←小物感出てますが……) ※小説家になろう様でも公開中です。

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

処理中です...