31 / 71
楽しんでしまった
しおりを挟む
声で誰だかわかってしまう自分に泣きたくなる。柔らかいテノールの声で、私に声を掛けて来たのはアルノルド王子だった。
「ミケーリア嬢も来ていたのか?」
後ろではミアノ様とパウル様が、私に向かって満面の笑みで手を振っていた。
『こうなるのかぁ』
もしかしてとは思っていたけれど、突きつけられた現実にガックリと肩を落とす。仕方なく手を振り返しながら「はい」と王子に返事をする。王子は周りを観察するようにキョロキョロした。
「一人で来たのか?護衛は付いていないのか?」
まあ、そうですよね。公爵家の令嬢が一人でなんてって思いますよねぇ……。心配そうな顔で私を見つめる王子に見えないように息を吐くと、私は微笑んでみせた。
「ええ、兄とシシリー嬢がいたのですが、シシリー嬢がはぐれかけてしまって。兄が彼女を追いかけて行ってしまったので、クーと楽しむ事にしたんです」
クーは輪を咥えたまま「キャン」と器用に鳴いてみせた。
「そうか……では、良かったら私たちと一緒に回らないか?」
やっぱりそうなる?もう溜息を吐きたくなる。どう断るか考えようとする間もなく、どういう訳かクーが嬉しそうに「キャン」と鳴いた。
「クー?」
『皆でこれやるの』
咥えている輪をプラプラさせてみせる。どうやら皆でゲームをしたいらしい。クーにそう言われてしまってはもう私には断る事は出来なかった。
「あの」
仕方なくアルノルド王子に返事をする。
「クーが皆さんとゲームをやりたいそうなので……よろしければお供させて下さい」
「クーが?」
すると返事をするように「キャンキャン」と大きく尻尾を振りながらクーが答えた。
「はは、じゃあ誰が一番点数を取るか勝負でもするか?」
ミアノ様が乗って来た。クーの尻尾が先程よりも大きく揺れる。どうやら賛成らしい。
「嬉しそうですね。どうやらクーも勝負をご所望のようですよ」
パウル様まで乗って来る。
「ははは、では勝負するか」
アルノルド王子の決めの一言で、三人と一匹の輪投げ勝負が始まった。
「お店のご主人、泣いていましたね」
大きなウサギのぬいぐるみを抱いたパウル様が、同情するような表情をして言った。
「はは、つい本気になってしまったからな」
ミアノ様は大きな熊のぬいぐるみと、キツネのぬいぐるみを抱えている。
「代金を多めに置いて来たから大丈夫だろう」
こちらは大きな獅子のぬいぐるみを抱えているアルノルド王子だ。イケメンたちが自分達の上半身以上の大きさのぬいぐるみを抱いているのって、傍から見たらどう見えるのだろう。
「皆さん、クー相手に本気になり過ぎですよ」
私はさっきから笑いが止まらない。クーが口に咥えた輪を、器用に10点の所に引っ掛けて行くのを見た三人の、目の色が変わった瞬間を見てしまったのだ。そこからは本気の男三人が、クーと同じように次々と10点に輪をかけて行く様を、店主と一緒に口を開けて見ている事しか出来なかった。
『すっごく楽しい!もっとやりたい』
「え?クー、まだやりたいの?」
「キャン!」
「ははは、では次はルーレットにしようか?」
ルーレットの出目で、もらえる景品が変わるらしい。またもや本気の勝負が始まる。
『子ぎつね相手に……男の人って単純』
あんなに嫌だった状況に陥っているはずなのに、すっかり楽しんでいる自分に驚いてしまう。
『でもまあ、本当に楽しいからいっかな』
こうして私とクーは、収穫祭を目一杯楽しんだのだった。
「今日は本当に楽しかったです。付き合って下さってありがとうございました」
「キャンキャン」
あれからもたくさん楽しんだ私たちは、三人に屋敷の前まで送ってもらった。
「私たちも久々に本気で楽しんだ。こちらこそありがとう」
「本当に。クー、また遊ぼうな」
「そうですね、クーとの勝負はまだ決着が着いていませんから」
三人ともニコニコしている。
『僕も楽しかったよ。学院でも一杯遊ぼうね』
「ふふ、クーも楽しかったそうです。学院でも遊ぼうって」
「ああ、そうだな」
そう言ったアルノルド王子が、クーの頭を優しく撫でた。ちょうど会話が終わる頃、家令とアネリが門扉まで迎えに来た。
「あ、そうだ。これ」
クーが景品でもらったキツネのぬいぐるみをミアノ様が渡してくれる。
「ついでにこれももらってくれないか?キツネだけじゃ寂しがるだろう」
そう言って自分がもらったクマのぬいぐるみもくれる。
「でも……」
「もらってくれ。屋敷に持って帰る方が恥ずかしいから」
確かに。ミアノ様がクマのぬいぐるみを持って「ただいま」って帰る姿は可笑しいかもしれない。
「ふ、ふふふ。ご家族の反応を見てみたい気はしますけれど」
想像したら面白くなってしまった。
「ミケーリア嬢も来ていたのか?」
後ろではミアノ様とパウル様が、私に向かって満面の笑みで手を振っていた。
『こうなるのかぁ』
もしかしてとは思っていたけれど、突きつけられた現実にガックリと肩を落とす。仕方なく手を振り返しながら「はい」と王子に返事をする。王子は周りを観察するようにキョロキョロした。
「一人で来たのか?護衛は付いていないのか?」
まあ、そうですよね。公爵家の令嬢が一人でなんてって思いますよねぇ……。心配そうな顔で私を見つめる王子に見えないように息を吐くと、私は微笑んでみせた。
「ええ、兄とシシリー嬢がいたのですが、シシリー嬢がはぐれかけてしまって。兄が彼女を追いかけて行ってしまったので、クーと楽しむ事にしたんです」
クーは輪を咥えたまま「キャン」と器用に鳴いてみせた。
「そうか……では、良かったら私たちと一緒に回らないか?」
やっぱりそうなる?もう溜息を吐きたくなる。どう断るか考えようとする間もなく、どういう訳かクーが嬉しそうに「キャン」と鳴いた。
「クー?」
『皆でこれやるの』
咥えている輪をプラプラさせてみせる。どうやら皆でゲームをしたいらしい。クーにそう言われてしまってはもう私には断る事は出来なかった。
「あの」
仕方なくアルノルド王子に返事をする。
「クーが皆さんとゲームをやりたいそうなので……よろしければお供させて下さい」
「クーが?」
すると返事をするように「キャンキャン」と大きく尻尾を振りながらクーが答えた。
「はは、じゃあ誰が一番点数を取るか勝負でもするか?」
ミアノ様が乗って来た。クーの尻尾が先程よりも大きく揺れる。どうやら賛成らしい。
「嬉しそうですね。どうやらクーも勝負をご所望のようですよ」
パウル様まで乗って来る。
「ははは、では勝負するか」
アルノルド王子の決めの一言で、三人と一匹の輪投げ勝負が始まった。
「お店のご主人、泣いていましたね」
大きなウサギのぬいぐるみを抱いたパウル様が、同情するような表情をして言った。
「はは、つい本気になってしまったからな」
ミアノ様は大きな熊のぬいぐるみと、キツネのぬいぐるみを抱えている。
「代金を多めに置いて来たから大丈夫だろう」
こちらは大きな獅子のぬいぐるみを抱えているアルノルド王子だ。イケメンたちが自分達の上半身以上の大きさのぬいぐるみを抱いているのって、傍から見たらどう見えるのだろう。
「皆さん、クー相手に本気になり過ぎですよ」
私はさっきから笑いが止まらない。クーが口に咥えた輪を、器用に10点の所に引っ掛けて行くのを見た三人の、目の色が変わった瞬間を見てしまったのだ。そこからは本気の男三人が、クーと同じように次々と10点に輪をかけて行く様を、店主と一緒に口を開けて見ている事しか出来なかった。
『すっごく楽しい!もっとやりたい』
「え?クー、まだやりたいの?」
「キャン!」
「ははは、では次はルーレットにしようか?」
ルーレットの出目で、もらえる景品が変わるらしい。またもや本気の勝負が始まる。
『子ぎつね相手に……男の人って単純』
あんなに嫌だった状況に陥っているはずなのに、すっかり楽しんでいる自分に驚いてしまう。
『でもまあ、本当に楽しいからいっかな』
こうして私とクーは、収穫祭を目一杯楽しんだのだった。
「今日は本当に楽しかったです。付き合って下さってありがとうございました」
「キャンキャン」
あれからもたくさん楽しんだ私たちは、三人に屋敷の前まで送ってもらった。
「私たちも久々に本気で楽しんだ。こちらこそありがとう」
「本当に。クー、また遊ぼうな」
「そうですね、クーとの勝負はまだ決着が着いていませんから」
三人ともニコニコしている。
『僕も楽しかったよ。学院でも一杯遊ぼうね』
「ふふ、クーも楽しかったそうです。学院でも遊ぼうって」
「ああ、そうだな」
そう言ったアルノルド王子が、クーの頭を優しく撫でた。ちょうど会話が終わる頃、家令とアネリが門扉まで迎えに来た。
「あ、そうだ。これ」
クーが景品でもらったキツネのぬいぐるみをミアノ様が渡してくれる。
「ついでにこれももらってくれないか?キツネだけじゃ寂しがるだろう」
そう言って自分がもらったクマのぬいぐるみもくれる。
「でも……」
「もらってくれ。屋敷に持って帰る方が恥ずかしいから」
確かに。ミアノ様がクマのぬいぐるみを持って「ただいま」って帰る姿は可笑しいかもしれない。
「ふ、ふふふ。ご家族の反応を見てみたい気はしますけれど」
想像したら面白くなってしまった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。
火野村志紀
恋愛
貧乏な男爵家の三女として生まれたリグレットは、侯爵令嬢ブランシェの在りもしない醜聞を吹聴した罪で貴族界から追放。修道院送りになってしまう。
……と、そこでリグレットは自分の前世を思い出した。同時に、農家の行き遅れ娘でモリモリ頑張りつつ、その合間にプレイしていた乙女ゲームの世界の中にいると気づく。
リグレットは主要キャラではなく、ライバルの悪役令嬢プランシェの腰巾着。
ゲーム本編には一切登場せず、数多いるブランシェの被害者の一人に過ぎなかった。
やったね! ヒロインがヒーローたちをフラグを立てているうちにさっさとこの国から逃げる計画を立てよう!
何とこのゲーム、メリバエンドがいくつも存在していて、この国そのものが滅亡するぶっ飛んだエンドもある。
人の恋路に巻き込まれて死にたくねぇ。というわけで、この国を脱出するためにもまずは修道院で逞しく生きようと思います。
それとメインヒーローの弟さん、何故私に会いに来るんですか?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
王命を忘れた恋
水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
お姉様の代わりに悪役令嬢にされそうです
Blue
恋愛
公爵家三女のリリー。小さい頃のトラウマで結婚する気になれない。一人で生きるために冒険者として生きようとする。そんな中で、立て続けに起こる新しい異性との出会い。なんだか聖女候補には敵視されているようで……
悪役令嬢の護衛騎士というモブになったが様子がおかしい
Blue
恋愛
乙女ゲームの世界の中のモブとして転生したエルダ。作中で悪役令嬢になる第三王女の護衛騎士という立ち位置だ。悪役令嬢になるはずの第三王女は可愛いし、仕事も充実しているし、気楽な気持ちで日々を過ごすはずが……
なんだか様子がおかしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる