上 下
25 / 71

大笑いの理由

しおりを挟む
 肩を震わせ、お腹を押さえながら笑うアルノルド王子。誰が見ても大爆笑状態だ。私の頭の上には勿論だが、シシリー嬢の頭の上にもはてなマークがぷかぷかしている。

これは一体どういう状況なのか、皆目見当がつかない私は笑う王子を見つめているしかなかった。しばらくすると、ようやく落ち着いて来たアルノルド王子だったが、それでもまだ完全に治まってはおらず、肩がまだ小さく揺れている。
「はは、すまない。つい……先日の事を思い出してしまって……」
何を思い出せばそんなに笑えるのか。理由を聞いてみたいけれど、王子は言うつもりがないようだ。まあ、大笑いに関しては謎だが、彼女の名を聞いて反応したのは確かだ。もしかすると、もう既に出会いは完了していたのかもしれない。あの大笑いの感じでは、恋に落ちたという訳ではなさそうだが。私の考えを余所にやっと、落ち着きを取り戻したアルノルド王子が、胸元から懐中時計を出して見た。
「もうすぐ休憩時間が終わってしまうな。ミケーリア嬢、同じクラスのよしみでエスコートをさせてくれないだろうか?」

「え?」
またもや何もなし?アルノルド王子は、私ではなく彼女を教室までエスコートするのでは?確か本にもそう書かれていたはず。出会いを経て何か感情が動いてはいないのかと、二人を交互に見てしまう。シシリー嬢はキョトンとした顔でアルノルド王子を見ていたが、王子の方はシシリー嬢ではなく私を見ていた。

どうしてこうも本の通りの結果にならないのかと頭を抱えたくなっていると、私の目の前に手が差し出される。
「ミケーリア嬢」
アルノルド王子の柔らかなテノールの声が私の名を呼んだ。
「教室へ戻ろう」
これは今回も、作戦失敗に終わってしまったようだ。こうまで本の通りにならないのは一体どうしてなのか。そう考えながらもごく自然に、自分の手を王子の手の上に手を置いてしまう。私の手を受け止めたアルノルド王子は、自身の腕に絡ませてポカンとしているシシリー嬢をその場に残したまま屋上を後にした。

 教室に戻る道すがら先程の大笑いの件を聞いてみようかと口を開きかけると、アルノルド王子の方から話し出した。
「先程のスピナジーニ嬢とは知り合いか?」
「はい、知り合いと言いますか彼女とその母親のスピナジーニ子爵夫人は、我が家で今世話をしていまして……」
簡単に私たちの関係を説明し「なるほど」と納得しているアルノルド王子に、今度は私が質問をした。
「殿下は先程、何故あんなに笑ってらしたのですか?」
すると「ああ」と言いながら再び笑い出す。この方、案外笑い上戸なのかもしれない。「実は」と笑いながらも王子は話し出した。
「先日、と言っても一月ほど前だったか。ビゴーナ侯爵家の茶会で、彼女たち親子を見たのだ」
「そうでしたか」
やっと笑いが治まった王子が話してくれたのは、親子がとんでもない格好で行ったお茶会の場だった。つまり本とは異なる形ではあるが、出会いは済ませていたようだ。

「私は母の名代で顔を出したのだが、随分と気合の入った雰囲気の親子がいて……まあ、それがスピナジーニ親子だったのだが」
ですよねぇ。ゴテゴテと派手に飾り付けて出掛けて行っていたもの。お茶会に行くのだと聞いてあの時は呆れたものだ。
「見目だけでも十分注目を集めていたのだが、話をしている時の様子が中々独特でな」
そう話しながらも、再びクスクスを笑い出す。オチを話す前に笑うのはダメだと思う。

「どんな話をしていたのだったか……ああ、そうだ。なんでもとある高位の貴族の後添えに、そう遠くない未来になるだろうと、そんな話をしていたな」
やっぱりだ。ある事ない事言いまくっていたに違いない。お父様に直接相手にされないから、外堀から埋めて行こうなんて小賢しい。高笑いしながら話している夫人の姿が容易に想像出来てしまいイライラしてしまう。しかし私の苛つきは、アルノルド王子の次の話ですぐに治まってしまう事となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

殿下の婚約者は、記憶喪失です。

有沢真尋
恋愛
 王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。  王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。  たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。  彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。 ※ざまあ要素はありません。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく

ヒンメル
恋愛
公爵家嫡男と婚約中の公爵令嬢オフィーリア・ノーリッシュ。学園の卒業パーティーで婚約破棄を言い渡される。そこに助け舟が現れ……。   初投稿なので、おかしい所があったら、(打たれ弱いので)優しく教えてください。よろしくお願いします。 ※本編はR15ではありません。番外編の中でR15になるものに★を付けています。  番外編でBLっぽい表現があるものにはタイトルに表示していますので、苦手な方は回避してください。  BL色の強い番外編はこれとは別に独立させています。  「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」  (https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/974304595) ※表現や内容を修正中です。予告なく、若干内容が変わっていくことがあります。(大筋は変わっていません。) ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  完結後もお気に入り登録をして頂けて嬉しいです。(増える度に小躍りしてしまいます←小物感出てますが……) ※小説家になろう様でも公開中です。

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...