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大笑いの理由
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肩を震わせ、お腹を押さえながら笑うアルノルド王子。誰が見ても大爆笑状態だ。私の頭の上には勿論だが、シシリー嬢の頭の上にもはてなマークがぷかぷかしている。
これは一体どういう状況なのか、皆目見当がつかない私は笑う王子を見つめているしかなかった。しばらくすると、ようやく落ち着いて来たアルノルド王子だったが、それでもまだ完全に治まってはおらず、肩がまだ小さく揺れている。
「はは、すまない。つい……先日の事を思い出してしまって……」
何を思い出せばそんなに笑えるのか。理由を聞いてみたいけれど、王子は言うつもりがないようだ。まあ、大笑いに関しては謎だが、彼女の名を聞いて反応したのは確かだ。もしかすると、もう既に出会いは完了していたのかもしれない。あの大笑いの感じでは、恋に落ちたという訳ではなさそうだが。私の考えを余所にやっと、落ち着きを取り戻したアルノルド王子が、胸元から懐中時計を出して見た。
「もうすぐ休憩時間が終わってしまうな。ミケーリア嬢、同じクラスのよしみでエスコートをさせてくれないだろうか?」
「え?」
またもや何もなし?アルノルド王子は、私ではなく彼女を教室までエスコートするのでは?確か本にもそう書かれていたはず。出会いを経て何か感情が動いてはいないのかと、二人を交互に見てしまう。シシリー嬢はキョトンとした顔でアルノルド王子を見ていたが、王子の方はシシリー嬢ではなく私を見ていた。
どうしてこうも本の通りの結果にならないのかと頭を抱えたくなっていると、私の目の前に手が差し出される。
「ミケーリア嬢」
アルノルド王子の柔らかなテノールの声が私の名を呼んだ。
「教室へ戻ろう」
これは今回も、作戦失敗に終わってしまったようだ。こうまで本の通りにならないのは一体どうしてなのか。そう考えながらもごく自然に、自分の手を王子の手の上に手を置いてしまう。私の手を受け止めたアルノルド王子は、自身の腕に絡ませてポカンとしているシシリー嬢をその場に残したまま屋上を後にした。
教室に戻る道すがら先程の大笑いの件を聞いてみようかと口を開きかけると、アルノルド王子の方から話し出した。
「先程のスピナジーニ嬢とは知り合いか?」
「はい、知り合いと言いますか彼女とその母親のスピナジーニ子爵夫人は、我が家で今世話をしていまして……」
簡単に私たちの関係を説明し「なるほど」と納得しているアルノルド王子に、今度は私が質問をした。
「殿下は先程、何故あんなに笑ってらしたのですか?」
すると「ああ」と言いながら再び笑い出す。この方、案外笑い上戸なのかもしれない。「実は」と笑いながらも王子は話し出した。
「先日、と言っても一月ほど前だったか。ビゴーナ侯爵家の茶会で、彼女たち親子を見たのだ」
「そうでしたか」
やっと笑いが治まった王子が話してくれたのは、親子がとんでもない格好で行ったお茶会の場だった。つまり本とは異なる形ではあるが、出会いは済ませていたようだ。
「私は母の名代で顔を出したのだが、随分と気合の入った雰囲気の親子がいて……まあ、それがスピナジーニ親子だったのだが」
ですよねぇ。ゴテゴテと派手に飾り付けて出掛けて行っていたもの。お茶会に行くのだと聞いてあの時は呆れたものだ。
「見目だけでも十分注目を集めていたのだが、話をしている時の様子が中々独特でな」
そう話しながらも、再びクスクスを笑い出す。オチを話す前に笑うのはダメだと思う。
「どんな話をしていたのだったか……ああ、そうだ。なんでもとある高位の貴族の後添えに、そう遠くない未来になるだろうと、そんな話をしていたな」
やっぱりだ。ある事ない事言いまくっていたに違いない。お父様に直接相手にされないから、外堀から埋めて行こうなんて小賢しい。高笑いしながら話している夫人の姿が容易に想像出来てしまいイライラしてしまう。しかし私の苛つきは、アルノルド王子の次の話ですぐに治まってしまう事となった。
これは一体どういう状況なのか、皆目見当がつかない私は笑う王子を見つめているしかなかった。しばらくすると、ようやく落ち着いて来たアルノルド王子だったが、それでもまだ完全に治まってはおらず、肩がまだ小さく揺れている。
「はは、すまない。つい……先日の事を思い出してしまって……」
何を思い出せばそんなに笑えるのか。理由を聞いてみたいけれど、王子は言うつもりがないようだ。まあ、大笑いに関しては謎だが、彼女の名を聞いて反応したのは確かだ。もしかすると、もう既に出会いは完了していたのかもしれない。あの大笑いの感じでは、恋に落ちたという訳ではなさそうだが。私の考えを余所にやっと、落ち着きを取り戻したアルノルド王子が、胸元から懐中時計を出して見た。
「もうすぐ休憩時間が終わってしまうな。ミケーリア嬢、同じクラスのよしみでエスコートをさせてくれないだろうか?」
「え?」
またもや何もなし?アルノルド王子は、私ではなく彼女を教室までエスコートするのでは?確か本にもそう書かれていたはず。出会いを経て何か感情が動いてはいないのかと、二人を交互に見てしまう。シシリー嬢はキョトンとした顔でアルノルド王子を見ていたが、王子の方はシシリー嬢ではなく私を見ていた。
どうしてこうも本の通りの結果にならないのかと頭を抱えたくなっていると、私の目の前に手が差し出される。
「ミケーリア嬢」
アルノルド王子の柔らかなテノールの声が私の名を呼んだ。
「教室へ戻ろう」
これは今回も、作戦失敗に終わってしまったようだ。こうまで本の通りにならないのは一体どうしてなのか。そう考えながらもごく自然に、自分の手を王子の手の上に手を置いてしまう。私の手を受け止めたアルノルド王子は、自身の腕に絡ませてポカンとしているシシリー嬢をその場に残したまま屋上を後にした。
教室に戻る道すがら先程の大笑いの件を聞いてみようかと口を開きかけると、アルノルド王子の方から話し出した。
「先程のスピナジーニ嬢とは知り合いか?」
「はい、知り合いと言いますか彼女とその母親のスピナジーニ子爵夫人は、我が家で今世話をしていまして……」
簡単に私たちの関係を説明し「なるほど」と納得しているアルノルド王子に、今度は私が質問をした。
「殿下は先程、何故あんなに笑ってらしたのですか?」
すると「ああ」と言いながら再び笑い出す。この方、案外笑い上戸なのかもしれない。「実は」と笑いながらも王子は話し出した。
「先日、と言っても一月ほど前だったか。ビゴーナ侯爵家の茶会で、彼女たち親子を見たのだ」
「そうでしたか」
やっと笑いが治まった王子が話してくれたのは、親子がとんでもない格好で行ったお茶会の場だった。つまり本とは異なる形ではあるが、出会いは済ませていたようだ。
「私は母の名代で顔を出したのだが、随分と気合の入った雰囲気の親子がいて……まあ、それがスピナジーニ親子だったのだが」
ですよねぇ。ゴテゴテと派手に飾り付けて出掛けて行っていたもの。お茶会に行くのだと聞いてあの時は呆れたものだ。
「見目だけでも十分注目を集めていたのだが、話をしている時の様子が中々独特でな」
そう話しながらも、再びクスクスを笑い出す。オチを話す前に笑うのはダメだと思う。
「どんな話をしていたのだったか……ああ、そうだ。なんでもとある高位の貴族の後添えに、そう遠くない未来になるだろうと、そんな話をしていたな」
やっぱりだ。ある事ない事言いまくっていたに違いない。お父様に直接相手にされないから、外堀から埋めて行こうなんて小賢しい。高笑いしながら話している夫人の姿が容易に想像出来てしまいイライラしてしまう。しかし私の苛つきは、アルノルド王子の次の話ですぐに治まってしまう事となった。
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