31 / 40
卒業式
しおりを挟む
学園の卒業式当日。
光魔法の影響を受けていない令嬢の中に卒業を迎える方がいるため、私は警備として参加する事になった。
「エルダが行くなら私も行きたい」
ヴィヴィアーナ殿下のこの言葉で、芋づる式に休んでいた面々が全員参加する事になってしまった時は、流石にどうしたものかと悩んだが、ヴァレンティーノ殿下と兄様も参加すると聞いて、ホッとしてしまった事は内緒だ。
数日前に学園長が戻って来て、学園の中は以前のような空気に戻っているような気がした。ただ一人の除いては、だが。
光魔法の持ち主であるはずのカプアート嬢は、まるで光魔法ではなく、闇魔法を持っているかのような黒いオーラを発していた。周りにいる生徒たちは気付いていないようだが、私にはよく見えた。
式は予定通り進んでおり、次は国の代表としてヴァレンティーノ殿下が壇上で祝辞を述べる。殿下が呼ばれて壇上へ上がると、黄色い歓声が飛んだ。殿下は声援に応えるように爽やかな笑顔を向け、手を上げた。更に歓声が上がる。
すると、今まで微動だにせず、真っ直ぐ前だけを向いていたカプアート嬢が立ち上がった。堂々と歩く彼女を止める者はいなかった。
真っ直ぐ殿下の元へ向かうカプアート嬢。壇上を上がろうとしたところで兄に止められる。
「これ以上、王太子殿下の傍に寄る事は出来ない」
「エッツィオ様はどいてください。私はヴァレンティーノ様に話があるのです」
すると、王太子殿下が兄の後ろまで歩いてきた。
「話を聞こう。一体私に何の話があるというんだ?」
私はヴィヴィアーナ殿下の背後に付く。この会場の違和感が半端ない。先ほどまでは普通だったはずなのに、カプアート嬢が動き出した途端、生徒たちが人形のようにジッと動かなくなってしまった。
「彼女の力は光のそれではないですね」
「学園長。それはどういう意味ですか?」
「人間をまるで操っているようなこの魔法は、光ではなく闇ですよ。魔族が使っていたという闇魔法。人の心に入り込み、自在に操る。傍から見れば、本人の意志で動いているように見えるのに、実際は闇の力で操られているのです。なかなか困った事ですよ、これは」
ミケーレ様たち、魔法にかかっていない方たちを会場の端に誘導する。その間に壇上では、カプアート嬢が殿下に言い寄っていた。
「ヴァレンティーノ様、あなたの妃になるのは私ですよ。何と言ったって、光魔法の持ち主なのですから。光魔法を持っている私は聖女になれるんです。聖女は決まって王族に娶られると、相場が決まっている」
「すまない。君の言っている話が全く理解できないのだが。光魔法は確かに希少だ。しかも、君はなかなか力も強いようだし、国で保護するのは当然だと思う。だが、王族と結婚するのが常のように言っているのは間違いだ。そんな強制力は王族にはない」
「そうなんですか?まあ、それでもいいです。私はヴァレンティーノ様が好きなのだから、問題はないですし。私をお嫁さんにしてくれますよね?」
「しない」
きっぱり拒絶を表した殿下に、驚いた顔をしたカプアート嬢。
「どうしてですか?」
「どうして?当たり前だ、君を愛していない。私にはもう心に決めた相手がいる」
「ヴァレンティーノ様ったら、おかしなことを言いますね。ヒロインは私ですよ。ヴァレンティーノ様が好きになるのは私なんですよ。私がいるからこの世界はあるんです。皆、私を好きになるのが当然なんです」
さも当然のように、おかしなことを言っている彼女を、紫の瞳が暗く睨んだ。
「残念だが、君を好きになる事はない。なんの夢を語っているのか知らんが、君を好きだと思っている人間は、少なくとも私の周りにはいないな」
「そうですね。君はちょっと頭がおかしいのでは?皆が自分を好きになるなんてよく思いますね」
兄まで、まるで煽るようにカプアート嬢に言い出した。
「私たちが好きなのは、君ではない」
殿下のこのセリフが決定打になった。カプアート嬢の魔力がブワッと膨らんだ。
光魔法の影響を受けていない令嬢の中に卒業を迎える方がいるため、私は警備として参加する事になった。
「エルダが行くなら私も行きたい」
ヴィヴィアーナ殿下のこの言葉で、芋づる式に休んでいた面々が全員参加する事になってしまった時は、流石にどうしたものかと悩んだが、ヴァレンティーノ殿下と兄様も参加すると聞いて、ホッとしてしまった事は内緒だ。
数日前に学園長が戻って来て、学園の中は以前のような空気に戻っているような気がした。ただ一人の除いては、だが。
光魔法の持ち主であるはずのカプアート嬢は、まるで光魔法ではなく、闇魔法を持っているかのような黒いオーラを発していた。周りにいる生徒たちは気付いていないようだが、私にはよく見えた。
式は予定通り進んでおり、次は国の代表としてヴァレンティーノ殿下が壇上で祝辞を述べる。殿下が呼ばれて壇上へ上がると、黄色い歓声が飛んだ。殿下は声援に応えるように爽やかな笑顔を向け、手を上げた。更に歓声が上がる。
すると、今まで微動だにせず、真っ直ぐ前だけを向いていたカプアート嬢が立ち上がった。堂々と歩く彼女を止める者はいなかった。
真っ直ぐ殿下の元へ向かうカプアート嬢。壇上を上がろうとしたところで兄に止められる。
「これ以上、王太子殿下の傍に寄る事は出来ない」
「エッツィオ様はどいてください。私はヴァレンティーノ様に話があるのです」
すると、王太子殿下が兄の後ろまで歩いてきた。
「話を聞こう。一体私に何の話があるというんだ?」
私はヴィヴィアーナ殿下の背後に付く。この会場の違和感が半端ない。先ほどまでは普通だったはずなのに、カプアート嬢が動き出した途端、生徒たちが人形のようにジッと動かなくなってしまった。
「彼女の力は光のそれではないですね」
「学園長。それはどういう意味ですか?」
「人間をまるで操っているようなこの魔法は、光ではなく闇ですよ。魔族が使っていたという闇魔法。人の心に入り込み、自在に操る。傍から見れば、本人の意志で動いているように見えるのに、実際は闇の力で操られているのです。なかなか困った事ですよ、これは」
ミケーレ様たち、魔法にかかっていない方たちを会場の端に誘導する。その間に壇上では、カプアート嬢が殿下に言い寄っていた。
「ヴァレンティーノ様、あなたの妃になるのは私ですよ。何と言ったって、光魔法の持ち主なのですから。光魔法を持っている私は聖女になれるんです。聖女は決まって王族に娶られると、相場が決まっている」
「すまない。君の言っている話が全く理解できないのだが。光魔法は確かに希少だ。しかも、君はなかなか力も強いようだし、国で保護するのは当然だと思う。だが、王族と結婚するのが常のように言っているのは間違いだ。そんな強制力は王族にはない」
「そうなんですか?まあ、それでもいいです。私はヴァレンティーノ様が好きなのだから、問題はないですし。私をお嫁さんにしてくれますよね?」
「しない」
きっぱり拒絶を表した殿下に、驚いた顔をしたカプアート嬢。
「どうしてですか?」
「どうして?当たり前だ、君を愛していない。私にはもう心に決めた相手がいる」
「ヴァレンティーノ様ったら、おかしなことを言いますね。ヒロインは私ですよ。ヴァレンティーノ様が好きになるのは私なんですよ。私がいるからこの世界はあるんです。皆、私を好きになるのが当然なんです」
さも当然のように、おかしなことを言っている彼女を、紫の瞳が暗く睨んだ。
「残念だが、君を好きになる事はない。なんの夢を語っているのか知らんが、君を好きだと思っている人間は、少なくとも私の周りにはいないな」
「そうですね。君はちょっと頭がおかしいのでは?皆が自分を好きになるなんてよく思いますね」
兄まで、まるで煽るようにカプアート嬢に言い出した。
「私たちが好きなのは、君ではない」
殿下のこのセリフが決定打になった。カプアート嬢の魔力がブワッと膨らんだ。
15
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる