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毒の刃
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「エルダ!」
殿下の叫ぶ声が聞こえた。どうやら殿下にケガはないようだ。しかし参った。ナイフには何かの毒が塗られていたようだ。グルグルと世界が回る。気持ち悪い。
「エルダ、エルダ。しっかりしろ。エルダ」
殿下が私を呼び続けている。
『そんなに呼ばなくても聞こえている』
そう答えたつもりだが、口が開いた感覚がない。ダメだ。目を開けているのも疲れる。
そのまま私は目を閉じた。
「ここは……どこだ?」
目を覚ますと見知らぬ天井だった。起き上がろうと力を入れると、肩が痛んだ。
「っつ!」
予想していない痛みに驚いて、起き上がりかけた身体がベッドに沈んでしまう。
「そうだ、私は刺されたのだったな」
今度は気を付けて身体を起こした。痛いのは肩だけなので、普通に起きる事が出来た。騎士服は脱がされ、シャツワンピースのような物を着せられて、肩には包帯が巻かれていた。
窓辺に近づくと驚いてしまう。ここは王城の一室だったようだ。
すると、カチャリと部屋のドアが開かれた。
「エルダ?」
紫色の瞳を大きく見開いたまま、私を凝視しているのは王太子殿下だった。無言のまま私に近づく。その勢いのまま、殿下は私を抱きしめた。
「っつ」
殿下がくれた衝撃のせいで肩に痛みが走る。思わず足で殿下のすねを蹴ってしまった。
「何をする!?」
「それはこちらのセリフだ!私はケガ人だぞ」
「……すまない」
謝らせてしまった。思い切り不敬だが、痛みに我慢が出来なかったのだから仕方ない。
「目覚めてくれて良かった」
殿下から弱々しい声が漏れた。
「ナイフには毒が塗られていたんだ。すぐに対処はしたが、高熱が続いて意識もなく、このままの状態が続けば危ないと、医師から言われた時は目の前が真っ暗になった」
それほどに危険な状態だったとは。
「峠はなんとか越えたものの、エルダは目覚めなくて……もし、このままエルダが目覚めなかったら、私はどうしたらいいのかと……」
魔王が泣きそうになっている?魔王だった男が、今は仔犬のように見えてしまう。
「心配をかけたのですね。申し訳ありません。私はすっかり元気になりました。だからもう泣かないでください」
そっと片腕で殿下を抱いた。
「エルダ」
抱きしめ返してきた殿下の顔が仔犬じゃなくなった。当然のように顔を近付けてくる。
「ふざけるな」
手で殿下の顔を掴んで遠ざけようとするが、片手ではどうにも力が入らない。
もうすぐそこまで殿下の顔が。そんな時、扉がガチャリと開けられた。
「……殿下。いくらなんでも病み上がりの女性にそんな無体な事を……許しませんよ」
黒い笑顔を向けているのはベニート様だった。
「ベニート様、この魔王を剥がしてくれ」
私の願いにニッコリと微笑んだベニート様は、どこにそんな力があったのかというパワーで、殿下の首根っこを掴んで私から剥がした。
「もう少しだったのに」
『おい魔王。しっかりと聞こえたからな』
そんな思いを込めて睨んでやると、予想外に優しい笑顔の殿下がいた。
「ヴァレンティーノ殿下は、貴女が倒れてからずっと寝ていないのですよ。ですからちょっと今はキレ気味なのです。許してやってください」
私が倒れてからずっと?
「ベニート様、私はどのくらい寝ていたのだろうか?」
「二日と半日、という所でしょうか?」
そんなに?その間寝てないというのか?アホなのか?そう思うのと同時に、なんともくすぐったい気持ちがせり上がってくる。
「殿下。私はもう本当に大丈夫なので、即刻寝てください」
「なんでだ?今私は、物凄く幸せな気分だ。このままエルダと一緒に過ごしたい」
「いや、それダメだから。寝てください」
「嫌だ」
駄々っ子か。どうしたものかと溜息を吐く。
「はは、いいですよ。エルダは気にせずに寛いでいて下さい。まだ完全に治ったわけではないのですからね。これは私が連れて行きますから」
そう言ったベニート様は、殿下の首根っこを持ったまま、彼を部屋から引きずって行った。
殿下の叫ぶ声が聞こえた。どうやら殿下にケガはないようだ。しかし参った。ナイフには何かの毒が塗られていたようだ。グルグルと世界が回る。気持ち悪い。
「エルダ、エルダ。しっかりしろ。エルダ」
殿下が私を呼び続けている。
『そんなに呼ばなくても聞こえている』
そう答えたつもりだが、口が開いた感覚がない。ダメだ。目を開けているのも疲れる。
そのまま私は目を閉じた。
「ここは……どこだ?」
目を覚ますと見知らぬ天井だった。起き上がろうと力を入れると、肩が痛んだ。
「っつ!」
予想していない痛みに驚いて、起き上がりかけた身体がベッドに沈んでしまう。
「そうだ、私は刺されたのだったな」
今度は気を付けて身体を起こした。痛いのは肩だけなので、普通に起きる事が出来た。騎士服は脱がされ、シャツワンピースのような物を着せられて、肩には包帯が巻かれていた。
窓辺に近づくと驚いてしまう。ここは王城の一室だったようだ。
すると、カチャリと部屋のドアが開かれた。
「エルダ?」
紫色の瞳を大きく見開いたまま、私を凝視しているのは王太子殿下だった。無言のまま私に近づく。その勢いのまま、殿下は私を抱きしめた。
「っつ」
殿下がくれた衝撃のせいで肩に痛みが走る。思わず足で殿下のすねを蹴ってしまった。
「何をする!?」
「それはこちらのセリフだ!私はケガ人だぞ」
「……すまない」
謝らせてしまった。思い切り不敬だが、痛みに我慢が出来なかったのだから仕方ない。
「目覚めてくれて良かった」
殿下から弱々しい声が漏れた。
「ナイフには毒が塗られていたんだ。すぐに対処はしたが、高熱が続いて意識もなく、このままの状態が続けば危ないと、医師から言われた時は目の前が真っ暗になった」
それほどに危険な状態だったとは。
「峠はなんとか越えたものの、エルダは目覚めなくて……もし、このままエルダが目覚めなかったら、私はどうしたらいいのかと……」
魔王が泣きそうになっている?魔王だった男が、今は仔犬のように見えてしまう。
「心配をかけたのですね。申し訳ありません。私はすっかり元気になりました。だからもう泣かないでください」
そっと片腕で殿下を抱いた。
「エルダ」
抱きしめ返してきた殿下の顔が仔犬じゃなくなった。当然のように顔を近付けてくる。
「ふざけるな」
手で殿下の顔を掴んで遠ざけようとするが、片手ではどうにも力が入らない。
もうすぐそこまで殿下の顔が。そんな時、扉がガチャリと開けられた。
「……殿下。いくらなんでも病み上がりの女性にそんな無体な事を……許しませんよ」
黒い笑顔を向けているのはベニート様だった。
「ベニート様、この魔王を剥がしてくれ」
私の願いにニッコリと微笑んだベニート様は、どこにそんな力があったのかというパワーで、殿下の首根っこを掴んで私から剥がした。
「もう少しだったのに」
『おい魔王。しっかりと聞こえたからな』
そんな思いを込めて睨んでやると、予想外に優しい笑顔の殿下がいた。
「ヴァレンティーノ殿下は、貴女が倒れてからずっと寝ていないのですよ。ですからちょっと今はキレ気味なのです。許してやってください」
私が倒れてからずっと?
「ベニート様、私はどのくらい寝ていたのだろうか?」
「二日と半日、という所でしょうか?」
そんなに?その間寝てないというのか?アホなのか?そう思うのと同時に、なんともくすぐったい気持ちがせり上がってくる。
「殿下。私はもう本当に大丈夫なので、即刻寝てください」
「なんでだ?今私は、物凄く幸せな気分だ。このままエルダと一緒に過ごしたい」
「いや、それダメだから。寝てください」
「嫌だ」
駄々っ子か。どうしたものかと溜息を吐く。
「はは、いいですよ。エルダは気にせずに寛いでいて下さい。まだ完全に治ったわけではないのですからね。これは私が連れて行きますから」
そう言ったベニート様は、殿下の首根っこを持ったまま、彼を部屋から引きずって行った。
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