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不審な気配
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「ははは、城を訪れている人間に冷たくするわけがないだろう。それによく見ていてごらん。一対一では会っていないはずだ。夜会の視線は……まあ仕方ない。もしかしたら昔関係があった女性で、殿下にまだ未練を残しているのかもしれない。でも本当に何年も前だし、そこは時効だろう」
まあ、確かに決定的な何かを見たわけではないし、そもそも私が殿下の女性関係についてとやかく言う資格はないのだ。そう思った途端、なにやら胸の辺りが痛んだ気がしたがなんだろう?罪悪感か?
「ん、わかった。許してやる事にする」
「ははは、だいぶ上からだな」
「ふふ、それはそうでしょう。殿下が悪かったのだから」
「……ふっ」
なんとなくおかしくなってしまい、兄と二人でしばらく笑っていた。
暗殺集団に襲われてから数日経った。ヴィヴィアーナ殿下の護衛の時間が終わり、騎士棟へ向けて歩いていた時。廊下の端の方にある大きな柱の裏に人の気配があった。
『あんな陰に……一体何者だ?』
そっと近づくと二人の男女がいた。何やら揉めているようだ。
もう少し傍に近づこうとした瞬間、腕を取られもう一方の手で口を塞がれる。
「!」
反射的に足払いをしようとしたその時、よく知る声がした。
「シッ。気付かれる」
「兄様?」
塞がれていた口が解放され、腕も放してもらえた。
「こんな所で何を?もしかして、あれは殿下か?」
「ああ、そうだ。黙って見ていろ」
何が何やらわからないが、兄に言われた通り、黙って見ていることにした。
「どうしてなのです!?」
女性の方はだいぶ興奮しているようだ。
「私は、あなたの妻になれると信じて、今までずっと待っていたのに」
「……」
「私はあなたを喜ばせる事が出来たでしょう?あなたを愛することが出来たでしょう?なのに何故!?」
「貴女は何を勘違いしているのだ?確かに昔、関係を持った。たったの一度だが。あなたからの誘いに乗ってな。未亡人で寂しいと、一夜の遊びを楽しもうと。私は何度も確認した。それ以上は望むなとな」
「……」
今度は女性が黙ってしまった。
「あなたはそれでいいと言ったな。気楽な大人の遊びなのだから当たり前だと言ったよな」
「それは……」
「それなのに何故執着する?自分からそう誘っておいて、一体どうしたら私の妃になれると思えるんだ」
淡々と起伏なく言葉を吐く殿下。紫の瞳が冷ややかに光っている。
「そもそも未亡人という時点で私の妃になれないのはわかっているだろう。歳もだいぶ上だしな」
「言い方ってものがあるんじゃないのか?」
同性ゆえか、どうしても女性の方の肩を持ちたくなってしまう。
「いいから、黙って見ていろって」
兄に頬を引っ張られた。すごく伸びたぞ。たるんだらどうしてくれるんだ?
「だって、あなたは私を愛しそうに見つめてくれた。言葉にはしなかったけれど、私を愛していると、そう目で語ってくれたわ。私は愛されていると確信したの。私との後も遊んでいるという噂は耳にした。でも誰もがその場限り……ねえ、覚えている?私とは朝まで過ごしたのよ」
初めて殿下が感情をのせた。
「朝までだって?笑わせるな。情事の後に一服盛っただろ。毒慣れしていたから効きは弱かったがな」
「毒なんて入れていないわ!」
「睡眠薬でも一緒だ。それに、明け方には私は帰った。それを朝まで過ごしたとは言わない」
女性の表情が歪んだように見えた。突然話が飛ぶ。
「ねえ。あなた。以前の夜会で踊っていらした女性の事、随分気に入っていらっしゃるようね」
殿下がピクリと反応した。
『そんな女性がいたのか』
どうしてなのか、胸に痛みを感じた。
「私ね、とっても気になってその方の事を調べたの。侯爵令嬢ですのね。お綺麗な方だったわよね」
『聞きたくない』
咄嗟に耳を塞ごうとした私の腕を兄が掴んだ。
まあ、確かに決定的な何かを見たわけではないし、そもそも私が殿下の女性関係についてとやかく言う資格はないのだ。そう思った途端、なにやら胸の辺りが痛んだ気がしたがなんだろう?罪悪感か?
「ん、わかった。許してやる事にする」
「ははは、だいぶ上からだな」
「ふふ、それはそうでしょう。殿下が悪かったのだから」
「……ふっ」
なんとなくおかしくなってしまい、兄と二人でしばらく笑っていた。
暗殺集団に襲われてから数日経った。ヴィヴィアーナ殿下の護衛の時間が終わり、騎士棟へ向けて歩いていた時。廊下の端の方にある大きな柱の裏に人の気配があった。
『あんな陰に……一体何者だ?』
そっと近づくと二人の男女がいた。何やら揉めているようだ。
もう少し傍に近づこうとした瞬間、腕を取られもう一方の手で口を塞がれる。
「!」
反射的に足払いをしようとしたその時、よく知る声がした。
「シッ。気付かれる」
「兄様?」
塞がれていた口が解放され、腕も放してもらえた。
「こんな所で何を?もしかして、あれは殿下か?」
「ああ、そうだ。黙って見ていろ」
何が何やらわからないが、兄に言われた通り、黙って見ていることにした。
「どうしてなのです!?」
女性の方はだいぶ興奮しているようだ。
「私は、あなたの妻になれると信じて、今までずっと待っていたのに」
「……」
「私はあなたを喜ばせる事が出来たでしょう?あなたを愛することが出来たでしょう?なのに何故!?」
「貴女は何を勘違いしているのだ?確かに昔、関係を持った。たったの一度だが。あなたからの誘いに乗ってな。未亡人で寂しいと、一夜の遊びを楽しもうと。私は何度も確認した。それ以上は望むなとな」
「……」
今度は女性が黙ってしまった。
「あなたはそれでいいと言ったな。気楽な大人の遊びなのだから当たり前だと言ったよな」
「それは……」
「それなのに何故執着する?自分からそう誘っておいて、一体どうしたら私の妃になれると思えるんだ」
淡々と起伏なく言葉を吐く殿下。紫の瞳が冷ややかに光っている。
「そもそも未亡人という時点で私の妃になれないのはわかっているだろう。歳もだいぶ上だしな」
「言い方ってものがあるんじゃないのか?」
同性ゆえか、どうしても女性の方の肩を持ちたくなってしまう。
「いいから、黙って見ていろって」
兄に頬を引っ張られた。すごく伸びたぞ。たるんだらどうしてくれるんだ?
「だって、あなたは私を愛しそうに見つめてくれた。言葉にはしなかったけれど、私を愛していると、そう目で語ってくれたわ。私は愛されていると確信したの。私との後も遊んでいるという噂は耳にした。でも誰もがその場限り……ねえ、覚えている?私とは朝まで過ごしたのよ」
初めて殿下が感情をのせた。
「朝までだって?笑わせるな。情事の後に一服盛っただろ。毒慣れしていたから効きは弱かったがな」
「毒なんて入れていないわ!」
「睡眠薬でも一緒だ。それに、明け方には私は帰った。それを朝まで過ごしたとは言わない」
女性の表情が歪んだように見えた。突然話が飛ぶ。
「ねえ。あなた。以前の夜会で踊っていらした女性の事、随分気に入っていらっしゃるようね」
殿下がピクリと反応した。
『そんな女性がいたのか』
どうしてなのか、胸に痛みを感じた。
「私ね、とっても気になってその方の事を調べたの。侯爵令嬢ですのね。お綺麗な方だったわよね」
『聞きたくない』
咄嗟に耳を塞ごうとした私の腕を兄が掴んだ。
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