悪役令嬢の護衛騎士というモブになったが様子がおかしい

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あれ?収まった

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 抱きしめられた衝撃で足が絡まり、ベッドへダイブしてしまう。
「は、なせ」
振りほどこうにも力が入らない。

「大丈夫だ、何もしない。抱きしめるだけだ」
横になった状態で私の肩に顔をうずめている王太子殿下。表情がわからないが、やはり声が震えていた。

殿下の言葉に抵抗するのを止め、大人しく彼に抱きしめられる。私をすっぽりと覆う殿下の胸の広さに、不覚にも安心感を覚えてしまう。熱かった身体も次第に落ち着いた。

 どのくらいそうしていたのか……どうやらウトウトしてしまったようだ。そっと顔を上げると、肩に埋もれていたはずの殿下の顔がすぐ目の前にあってびっくりする。
「……寝てる」
殿下は安らかな寝息を立てて眠っていた。私が身じろぎすると、殿下の金の髪がサラリと揺れた。

目元にかかった髪を戻してやる。
「凄い隈だな」
目の下にはくっきりと隈が貼りついていた。

「ずっとまともに眠れていなかったらしいからな」
「兄様」
いつの間にか部屋に入っていた兄様が、扉に寄り掛かるようにして立っていた。そっと殿下の拘束から離れ、掛布をしてやる。

「収まっている……」
高揚感はすっかり収まっていた。ベッドから降りて兄様の傍まで行く。

「殿下がエルダを抱きかかえて、凄い速さで寝室へ向かっていると聞いて慌てて来てみれば……二人揃って眠っていたから驚いた」
「暴漢と対峙したんだが、久しぶりの実戦だったのにすぐ片が付いてしまったせいで、高揚感が抑えられなくなった。父様か兄様を探していたら偶然見つかってしまって……」
兄にそっと抱きしめられる。

「確かに血の匂いがするな。ケガはしていないようだ」
「ふふ、私の血ではないとわかるのか?」
「ああ、匂いが違う」
当然のように言われた。いやいや、血の匂いなんて皆一緒だろう。それとも違うのか?

二人でそっと部屋を出る。すぐ隣の部屋に連れて行かれた。
「ここは、私が寝泊まりする時の部屋だ。風呂に入ってこい。血の匂いを落とした方がいい」
兄の言葉に素直に従った。

「先日の夜会で、殿下とやり合っただろう?」
「あれは殿下が悪い」
会話の内容を伝える。

「はははは、なるほどな」
爆笑された。私は笑うどころが腹が立って仕方がなかったというのに。頭をぽんぽんと撫でられた。
「殿下は相当ショックだったようだぞ」
「何が?」

「死を望むほど拒絶された、とな。そのせいで寝不足が続いている」
「それは権力を笠に着て、自分の思い通りにするような事を言うから」
売り言葉に買い言葉だったとは思うが、あの時は本気で腹を切ってでも殿下の物になんてなりたくないと思った。

不貞腐れた顔になっていたであろう私の頬を触りながら微笑む兄。
「二人揃って素直なのに頑固だよな」
「それってどういう意味?」
「そのままの意味だ」
素直と頑固は対義語だろう。どうしてそれがセットになる?

「あーあ。誰にも私の可愛い妹をやりたくはないのだがな」
「私は誰の物にもならないもの」
兄が再び爆笑した?一体何がスイッチなのかわからん。

「嬉しい事を言ってくれたエルダに一つ教えてやろう」
「?」
「ヴァレンティーノ殿下が女にだらしなかったのは昔の話だ。それこそ王太子になる前のな。まあ、その頃は殿下だけじゃない。ベニートだって私だってだ。モテまくっていたからな」
は!?なんの自慢だ?私は怒ればいいのか?

「だが王太子になると決まってからは一切ない。勿論、私もな。ベニートはどうか知らんが、殿下は本当に適当に付き合うのは止めた。自分の立場も理由の一つだったが他にも改心する何かがあったらしいぞ。だから、あんまり苛めてやるな」

「そんな事言われても。よく城内で女性たちと楽しそうにしている殿下を見るし。夜会で踊っている時も明らかに他とは違う視線を送っていた女性もいたし」
あれは明らかに殿下に対しての恋情の目だった。あの女性と殿下の間には何かがあったのだろう。思い出すとイラッとする。そんな私を見て兄は笑った。
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