悪役令嬢の護衛騎士というモブになったが様子がおかしい

Blue

文字の大きさ
上 下
18 / 40

足りない

しおりを挟む
 数人の男たちに囲まれる。風体からして暗殺を請け負う集団のようだ。こんな昼日中に城の中、しかも騎士団棟のすぐ近くにまで潜入されたという事は、誰か手引きした者がいるとみて間違いはないだろう。

「6人か……」
私は大きく溜息を吐く。一人の男が溜息を吐く私を見て、唯一見えている目を三日月のように細めた。
「どうした?人数が多すぎてビビっているのか?」
他の男たちも、どうやらニヤついているようだ。

「はあぁ、逆だ。見くびられたものだとがっかりしていたんだ」
「なんだと!?」
「当たり前だろ。仮にも王国騎士団の副団長だぞ。こんな少人数にやられるわけがないだろう」
私のセリフに明らかに激高した男たち。

「虚勢を張りやがって……ああ。いい事を思いついた。おまえをこの場で組み敷いて、慰み者にしてやるよ。俺たち全員でな。なんならそこの騎士団の連中も呼んで見てもらうか?」
ぎらついた目で私の全身を見ながらガハハと下品に笑う。気持ち悪いな。

「はっ、なんでもいいから。そうしたいのならとっととかかってこい」
わざと挑発してやれば、すぐにいきり立つ。チョロい。
「このアマ!」
私を慰み者にすると宣言した男が、我先にと向かってきた。

最近、イラつくことが少なくなかった私は、久々の実戦に気持ちが昂る。

刀を逆手で握り少しだけ姿勢を低くする。抜刀と共に、向かって来た男を切る。威力は抑えているし、死んではいないだろう。私に一太刀でやられた仲間を見た他の連中は、流石に私を警戒し出した。男たちが一斉に距離を取る。

瞬間、背後から何かが飛んできた。身を翻して避ける。投げナイフだった。後ろは振り返らずに空間魔法でクナイを取り出し、ナイフが飛んできた方向へ投げた。ずぶりという肉にめり込んだ音と共に、うっという呻き声が聞こえた。殺ってしまったか?

私が口だけではないと理解した残りの男たちは、一斉攻撃を仕掛けてきた。四方からの攻撃にニヤリとしてしまう。刀を抜いてしまった私は、自分でも止められない高揚感を感じてしまっていた。

 決着はものの数分でついた。
「だから少なすぎると言っただろう」
一人ごちりながら拘束魔法で簀巻き状態にする。舌を噛んで勝手に死なれては困るので、拘束魔法に少し展開を変えて、口を開けたまま固定させた。これで自殺する術すらないだろう。涎が凄そうだが。

そのまま騎士棟へ行き部下たちにこいつらを任せる。事情を聴くのは少し後だ。

「参ったな……」
久々の実戦だったせいだったのと、呆気なく終わってしまった物足りなさで、高揚感が収まらない。
「父様か兄様を探さないと」
大抵はどちらかに抱きしめてもらうと、鎮まるのだ。クラクラしながらも城へと向かう。

「こういう時に限って……」
思わず舌打ちするが、逃げ場はなかった。向こうも私に気付いたのか歩みを止めた。動揺しているようだ。

「エルダ……」
呟いた声が震えていたのは気のせいだと思おう。

「申し訳ありませんが、兄は何処に?」
ふらつく私を慌てて支えた王太子殿下。
「血の匂いがする。まさか!?誰かにやられたのか?」
途端に顔色が変わった殿下は私の身体をあちこち見て、血の出所を探す。

「違います……敵の血です。早く、兄に、抱きしめて、もらわなければ」
段々、息が荒くなってくる。身体が熱い。
「何故エッツィオに抱きしめてもらう必要がある?エッツィオに抱きしめられるとどうなると言うんだ?」
コイツ、面倒くさい。とっとと兄を呼んでくれればいいのに。

「はあぁ」
熱っぽい溜息が出てしまう。殿下がビクリとしたのがわかった。
「高揚感、止まらない。兄様、抱きしめて」

瞬間、ふわりと身体が浮いた。どうやら抱き上げられたらしい。私を抱いた殿下は凄い速さで移動した。兄の所へ連れて行ってくれるようだ。

バタンと勢いよく扉を蹴って入った部屋は、どう見ても執務室ではなかった。
「兄様、は?」
降ろされた私は、言葉を紡ぐより早く、殿下に抱きしめられてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...