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ケガの治療
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「はああ」
あれがヒロインなのかと思うと頭が痛い。まあ、攻略対象者の誰も、婚約者がいない時点でゲームの世界観は崩壊しているようなものなのだが。どうしても、ゲームの中のイメージが先行してしまう。一旦、ゲームの事は忘れよう。
「ヴィヴィアーナ殿下、もう一度仕切り直しては如何ですか?せっかく皆で集まっていたのに、嫌な空気のまま終わらせるなど、勿体ないですよ」
笑顔で提案すれば、嬉しそうに頷く殿下。いい子だ。こちらがヒロインなのではないかと思ってしまう。
「さ、もう先程の事はきれいさっぱり忘れましょう。もう一度、仕切り直してもっと楽しいお茶会にしましょう」
明るい声で殿下が言うと、他の令嬢達も嬉しそうに湧いた。私はもう一人の護衛にこの場を任せ、とりあえず、頭のケガの処置をするためにそっと離れた。
そっと触れると痛みと共に、手に血がついた。仕方がないので騎士棟まで行って治療しようと向かう。しかし、後ろから横抱きにされてしまった。
「誰だ?」
気配が全くわからなかった。もしや影か、と思ったら違っていた。
「父様」
気配なく私を抱き上げたのは父だった。気配を感じなかった事も頷ける。
「光魔法の娘はとんでもないトラブルメーカーのようだな」
どうやら怒っているようだ。
「父様、どちらへ?」
「すぐ処置の出来る所へ」
それだけ言うとスタスタ歩く。医局に向かうのかと思ったが方向が逆だ。父の腕の中で大人しくしていると、すぐに目的の場所に着いた。いや、着いたけども。
「なんで?」
私は今、国王様の執務室で国王様本人にケガの治療をしていただいている。
「思ったより出血はしていないが……可哀想に。美しいアイスブルーの髪の一部が赤黒くなってしまったな。ちょっと待っておれ」
侍女に持って来させた湯に、タオルを湿らせ私の髪をゆっくり拭う。
「あの、陛下にそんな事をしていただく訳には」
何故父は止めないんだ。
「いいのだよ。私は医療の心得もあるから任せておくがいい。それに、エルダの髪はサラサラして気持ちがいいしな」
後ろでは宰相殿が微笑ましそうに見ている。どうして誰も止めないんだ。
「包帯にしてしまうと、周りがうるさくなりそうだな」
そう言った陛下は、小さく切った布を傷口に止めてくれた。
「これでよし。しかし、当分は髪を結いあげてはならぬぞ。あまり傷口を空気に触れさせないようにな」
「はい。ありがとうございました」
「なに、将来の娘になるかもしれんのだ。大事にしたくもなる。そうでなくても、エルダは可愛いからな」
「何をおっしゃっているのでしょうね。エルダ嬢はウチの嫁になるかもしれないんですよ」
いや、あの、どっちも何言っているんだ?と心の中で突っ込む。
「おまえら、揃いも揃って何を言っている。エルダを嫁にやるわけがないだろう。エルダはずっと家の子だ」
いやいや、父も何を言っているんだ。
三人でおかしな口論が始まってしまった。面倒になったので私はヴィヴィアーナ殿下の元に戻る事にした。
中庭に戻ると、今度はとても楽しそうな笑い声が聞こえた。そっと背後へ回る。殿下にだけは気付かれ、こちらを見て飛び切りの笑顔を見せてくれた。こちらも笑顔で返す。
どうやら気を利かせた侍女が、コックに言って新しいお菓子を出したらしい。それに合わせて茶葉も一新して、見事に空気が変わったとの事だった。
少しして、何故か殿下に席に呼ばれた。何事かと近づくと先程のエルシー嬢が改めてお礼を言ってくれた。同席して欲しいとまで言われたが、流石に席に座る事は出来ないので、お菓子を口に入れてもらう事だけ許した。何故か、他の令嬢までもがやりたいと言い出して、何個も食べさせられる羽目になってしまった。
その日の夕食は食べきれなかった。
あれがヒロインなのかと思うと頭が痛い。まあ、攻略対象者の誰も、婚約者がいない時点でゲームの世界観は崩壊しているようなものなのだが。どうしても、ゲームの中のイメージが先行してしまう。一旦、ゲームの事は忘れよう。
「ヴィヴィアーナ殿下、もう一度仕切り直しては如何ですか?せっかく皆で集まっていたのに、嫌な空気のまま終わらせるなど、勿体ないですよ」
笑顔で提案すれば、嬉しそうに頷く殿下。いい子だ。こちらがヒロインなのではないかと思ってしまう。
「さ、もう先程の事はきれいさっぱり忘れましょう。もう一度、仕切り直してもっと楽しいお茶会にしましょう」
明るい声で殿下が言うと、他の令嬢達も嬉しそうに湧いた。私はもう一人の護衛にこの場を任せ、とりあえず、頭のケガの処置をするためにそっと離れた。
そっと触れると痛みと共に、手に血がついた。仕方がないので騎士棟まで行って治療しようと向かう。しかし、後ろから横抱きにされてしまった。
「誰だ?」
気配が全くわからなかった。もしや影か、と思ったら違っていた。
「父様」
気配なく私を抱き上げたのは父だった。気配を感じなかった事も頷ける。
「光魔法の娘はとんでもないトラブルメーカーのようだな」
どうやら怒っているようだ。
「父様、どちらへ?」
「すぐ処置の出来る所へ」
それだけ言うとスタスタ歩く。医局に向かうのかと思ったが方向が逆だ。父の腕の中で大人しくしていると、すぐに目的の場所に着いた。いや、着いたけども。
「なんで?」
私は今、国王様の執務室で国王様本人にケガの治療をしていただいている。
「思ったより出血はしていないが……可哀想に。美しいアイスブルーの髪の一部が赤黒くなってしまったな。ちょっと待っておれ」
侍女に持って来させた湯に、タオルを湿らせ私の髪をゆっくり拭う。
「あの、陛下にそんな事をしていただく訳には」
何故父は止めないんだ。
「いいのだよ。私は医療の心得もあるから任せておくがいい。それに、エルダの髪はサラサラして気持ちがいいしな」
後ろでは宰相殿が微笑ましそうに見ている。どうして誰も止めないんだ。
「包帯にしてしまうと、周りがうるさくなりそうだな」
そう言った陛下は、小さく切った布を傷口に止めてくれた。
「これでよし。しかし、当分は髪を結いあげてはならぬぞ。あまり傷口を空気に触れさせないようにな」
「はい。ありがとうございました」
「なに、将来の娘になるかもしれんのだ。大事にしたくもなる。そうでなくても、エルダは可愛いからな」
「何をおっしゃっているのでしょうね。エルダ嬢はウチの嫁になるかもしれないんですよ」
いや、あの、どっちも何言っているんだ?と心の中で突っ込む。
「おまえら、揃いも揃って何を言っている。エルダを嫁にやるわけがないだろう。エルダはずっと家の子だ」
いやいや、父も何を言っているんだ。
三人でおかしな口論が始まってしまった。面倒になったので私はヴィヴィアーナ殿下の元に戻る事にした。
中庭に戻ると、今度はとても楽しそうな笑い声が聞こえた。そっと背後へ回る。殿下にだけは気付かれ、こちらを見て飛び切りの笑顔を見せてくれた。こちらも笑顔で返す。
どうやら気を利かせた侍女が、コックに言って新しいお菓子を出したらしい。それに合わせて茶葉も一新して、見事に空気が変わったとの事だった。
少しして、何故か殿下に席に呼ばれた。何事かと近づくと先程のエルシー嬢が改めてお礼を言ってくれた。同席して欲しいとまで言われたが、流石に席に座る事は出来ないので、お菓子を口に入れてもらう事だけ許した。何故か、他の令嬢までもがやりたいと言い出して、何個も食べさせられる羽目になってしまった。
その日の夕食は食べきれなかった。
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