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王太子の面倒な決意
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執務室へ入るとやっとソファへと解放された。
「で、エルダ。どうしてあのような所にいた?」
隣にドカッと座られてしまう。
「兄に渡すものがあったので。兄様、差し入れです」
持っていた袋を渡す。
「小鳥たちに1枚おすそ分けしてしまいましたが」
「ああ、美味しそうに食べていたな」
ん?何故知っている?
「見ていたからな」
反対側から聞こえた返事に振り返る。
「一部始終、ずっと見ていた」
ニヤリと笑う王太子殿下。
「おまえが風に誘われるように窓辺に近づいたところから、鳥相手に話をしていたところも、何かを与えていたところも、嬉しそうに笑っていたところも全て、だ」
「嘘……」
頬が熱い。それどころか顔中いや、首元まで熱くなる。いたたまれなくなり、そのままこの場を去ろうと席を立ちかけたが、殿下に手を掴まれあっけなくソファに戻されてしまう。
「本当に……エッツィオがこれほど邪魔だと思った事はない」
「はは、本当に私がいて良かったと、これほど思った事もありません」
チッと舌打ちをする王太子殿下に対して、ニッコリと綺麗な微笑みを見せる兄。
なんのバトルなのかはわからないが、兄が上手だという事はわかった。
「で、エルダ。これは全部もらっていいのか?」
兄が袋を開けながら言う。と、いうか既に1枚口にほおばっていた。
「勿論。兄様の為に作ったのだから」
「そうか。ありがとう」
頭を撫でられ頬にキスをされた。どうやらご機嫌のようだ。
「俺にはないのか?」
「王太子殿下に、ですか?でも甘いもの、好きではなかったですよね」
「全部甘いものなのか?」
「はい。兄への差し入れですので」
「ははは、殿下は食べられなくて残念ですね。エルダの作るお菓子は、その辺の店の物より美味いのに」
兄の食べる手が止まらない。慌ててお茶を淹れてやる。ついでに殿下にも。
「それはエルダの手作りなのか?」
「はい、お菓子全般エルダの得意料理ですので。私が昔から好きだったからと、幼い頃から私の為に作ってくれていたのですよ」
「俺にはないのか?」
「殿下にはこちらを」
淹れたてのお茶を置く。
「ありがとう……美味いな。エルダ、お茶も淹れられるのか?」
「はい。甘いものにお茶は欠かせないですから」
「全て兄の為ってやつか……なあ、お菓子以外は作れないのか?」
「作れません」
私の即答に悔しそうな顔をする王太子殿下。
「決めたぞ」
しばらく俯いていた殿下がぼそりと呟いた。
「?」
よく聞き取れなくて兄と二人、顔を見合わせてしまう。
「今日から俺も甘いものを食う」
「はい?」
「ははは、そんなにですか?」
笑いながら兄が1枚クッキーを渡した。
「甘っ……だが、美味いな」
「でしょう。エルダのお菓子は甘いだけではなく、美味なんですよ」
「エルダ」
「はい」
殿下にまたもや手を掴まれてしまった。嫌な予感しかない。
「これからは俺にも作れ。出来れば甘さが控えめなのがいい」
「……はあ、わかりました。ですが、たまにですよ。私も暇ではないので」
面倒だが仕方がない。
「ああ、わかっている。楽しみだ」
ニコリと笑った王太子殿下。普段は魔王のようなのに、今の笑顔は大型の犬のようだった。殿下のワンコな笑顔を不覚にも可愛いと思ってしまった私の胸が、何故なのかキュウとなった。
執務室を出て、そのままヴィヴィアーナ殿下の元へと向かう。今日は数人の友人とお茶会をすると言っていた。真っ直ぐ中庭へと向かう。まもなく中庭という所でガシャンと何かが割れるような音が聞こえた。走って向かえば、目が痛くなるようなピンクのドレスの令嬢が怒鳴っていた。
「ちょっと、私に向かってなんてことをしてくれるの!?私は希少な光魔法を持つ人間なのよ!」
喚いているのはヒロインであるはずのカプアート嬢だった。相手は伯爵令嬢だ。見た事がある。確かゲームではアルセニオの婚約者だった令嬢だ。何故かここでは知り合ってもいないようだが。
なんとなくこのシチュエーションに見覚えがある。
『これ、イベントだ』
「で、エルダ。どうしてあのような所にいた?」
隣にドカッと座られてしまう。
「兄に渡すものがあったので。兄様、差し入れです」
持っていた袋を渡す。
「小鳥たちに1枚おすそ分けしてしまいましたが」
「ああ、美味しそうに食べていたな」
ん?何故知っている?
「見ていたからな」
反対側から聞こえた返事に振り返る。
「一部始終、ずっと見ていた」
ニヤリと笑う王太子殿下。
「おまえが風に誘われるように窓辺に近づいたところから、鳥相手に話をしていたところも、何かを与えていたところも、嬉しそうに笑っていたところも全て、だ」
「嘘……」
頬が熱い。それどころか顔中いや、首元まで熱くなる。いたたまれなくなり、そのままこの場を去ろうと席を立ちかけたが、殿下に手を掴まれあっけなくソファに戻されてしまう。
「本当に……エッツィオがこれほど邪魔だと思った事はない」
「はは、本当に私がいて良かったと、これほど思った事もありません」
チッと舌打ちをする王太子殿下に対して、ニッコリと綺麗な微笑みを見せる兄。
なんのバトルなのかはわからないが、兄が上手だという事はわかった。
「で、エルダ。これは全部もらっていいのか?」
兄が袋を開けながら言う。と、いうか既に1枚口にほおばっていた。
「勿論。兄様の為に作ったのだから」
「そうか。ありがとう」
頭を撫でられ頬にキスをされた。どうやらご機嫌のようだ。
「俺にはないのか?」
「王太子殿下に、ですか?でも甘いもの、好きではなかったですよね」
「全部甘いものなのか?」
「はい。兄への差し入れですので」
「ははは、殿下は食べられなくて残念ですね。エルダの作るお菓子は、その辺の店の物より美味いのに」
兄の食べる手が止まらない。慌ててお茶を淹れてやる。ついでに殿下にも。
「それはエルダの手作りなのか?」
「はい、お菓子全般エルダの得意料理ですので。私が昔から好きだったからと、幼い頃から私の為に作ってくれていたのですよ」
「俺にはないのか?」
「殿下にはこちらを」
淹れたてのお茶を置く。
「ありがとう……美味いな。エルダ、お茶も淹れられるのか?」
「はい。甘いものにお茶は欠かせないですから」
「全て兄の為ってやつか……なあ、お菓子以外は作れないのか?」
「作れません」
私の即答に悔しそうな顔をする王太子殿下。
「決めたぞ」
しばらく俯いていた殿下がぼそりと呟いた。
「?」
よく聞き取れなくて兄と二人、顔を見合わせてしまう。
「今日から俺も甘いものを食う」
「はい?」
「ははは、そんなにですか?」
笑いながら兄が1枚クッキーを渡した。
「甘っ……だが、美味いな」
「でしょう。エルダのお菓子は甘いだけではなく、美味なんですよ」
「エルダ」
「はい」
殿下にまたもや手を掴まれてしまった。嫌な予感しかない。
「これからは俺にも作れ。出来れば甘さが控えめなのがいい」
「……はあ、わかりました。ですが、たまにですよ。私も暇ではないので」
面倒だが仕方がない。
「ああ、わかっている。楽しみだ」
ニコリと笑った王太子殿下。普段は魔王のようなのに、今の笑顔は大型の犬のようだった。殿下のワンコな笑顔を不覚にも可愛いと思ってしまった私の胸が、何故なのかキュウとなった。
執務室を出て、そのままヴィヴィアーナ殿下の元へと向かう。今日は数人の友人とお茶会をすると言っていた。真っ直ぐ中庭へと向かう。まもなく中庭という所でガシャンと何かが割れるような音が聞こえた。走って向かえば、目が痛くなるようなピンクのドレスの令嬢が怒鳴っていた。
「ちょっと、私に向かってなんてことをしてくれるの!?私は希少な光魔法を持つ人間なのよ!」
喚いているのはヒロインであるはずのカプアート嬢だった。相手は伯爵令嬢だ。見た事がある。確かゲームではアルセニオの婚約者だった令嬢だ。何故かここでは知り合ってもいないようだが。
なんとなくこのシチュエーションに見覚えがある。
『これ、イベントだ』
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