悪役令嬢の護衛騎士というモブになったが様子がおかしい

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「ヴァレンティーノ王太子殿下」
私を捕まえている彼を見上げれば、ニヤリとされる。ヴァレンティーノ殿下。この国の王太子だ。鮮やかな金の髪に紫の瞳。見た目は美しく、白馬の王子様のようだが実際は魔王だ。

彼も私を見ると構ってくる。視界の端にはまたかよ、という顔で呆れている兄が見えた。そう思うなら何とかしろと言いたい。

「ちょっかいをかけているのは殿下も一緒では?」
ふふふと笑うベニート様。旧知の仲であるせいか王太子相手に引かない。楽しんでいるようにさえ見える。
「はは、どうもこれを見ると手が出る。おまえもだろ」
「ええ、どうしたものか。触れずにはいられないのですよ」
私はおもちゃか。ふざけるな。

兄と目線を合わせれば、呆れた表情でコクンと頷いた。よし、了承は得た。

殿下の腹に軽く肘を入れる。拘束が緩くなった瞬間、腕から逃げ出す。間髪入れずに、何もない空間からクナイを取り出し二人の男の首元に向けた。このクナイは刀を預ける鍛冶師に説明をして作ってもらったものだ。思い描いたとおりに出来上がった時は、鍛冶師と手を合わせて喜んだものだ。

「お二人とも、戯れが過ぎます」
両手を上げている二人。切っ先を向けられているのに楽しそうだ。
「相変わらず見事な手際だな。無詠唱で空間魔法を呼び出すとか、エッツィオもお前も。どれだけの魔力を持っているんだか」

「本当に。ウルヴァリーニ家の者が敵として存在していたらと思うとヒヤヒヤします」
だから何故嬉しそうなんだ。馬鹿馬鹿しくなってクナイをまた空間にしまう。

「お二人とも。いい加減にしないと本気で刺されますよ」
「エルダがそんなことする訳がないだろう」
「エルダにではありません。私に、です」
「……」
青い髪に私と同じシルバーアッシュの瞳。これまた二人に負けない程美形の兄が冷ややかに笑えば、二人とも静かになる。

「本気だな」
「さあ」
「エッツィオはシスコンですね」
「ふっ、なんとでも」
兄はこの二人に何を言われようが全く動じない。兄もまた、この二人とは旧知の仲だ。そのせいかこの二人は、なんとなく兄へのうっ憤を私に構う事で晴らしているように思う。それならやはり、兄に刺してもらおう。

「ところで、エルダ。屋敷に帰るのか?」
早々に兄をからかうのを止めた殿下が私を見た。
「はい」
「ヴィヴィはどうだ?ちゃんと言う事をきいているか?」
途端に優しい顔つきになった。殿下も結構なシスコンだ。

「はい。ヴィヴィアーナ殿下は素晴らしい姫様です。今日は馬で姫様を乗せて帰ったのですが、少し遠回りをして草原を走った所、とても嬉しそうにしておりましたよ」
「そうか。あいつには一人で馬に乗る事さえさせていなかったからな。父も私も過保護になり過ぎた自覚はあるのだが……どうもな」
自覚はあったのか。

「それに、ミケーレ様に初めてお会いしました。ベニート様に似ず、とても素直で可愛らしかったです」
「ふふ、私もとても素直だろう」
違う意味でな。

「強い男になりたいと、剣の稽古をしていると、そうおっしゃっておりました。どうやったら強くなるかと問われたので、まずは体幹を鍛えろとお答えしておきました」
「ミケーレはね、君の父君とエッツィオの訓練を見た時から、二人にすっかり魅了されてしまってね」

「ああっと、申し訳ありません。助長してしまったかもしれません」
「そうだろうね。君に強くなる方法を聞いたくらいだから。別にいいよ。また聞かれたら教えてやってくれるかい?」
「はい、それは勿論」
あの時のミケーレ様と私を自慢してくれる殿下の姿を思い出してつい笑ってしまった。

「妬けますね」
「全くだ。何を思い出して笑っている?」
「はい?ヴィヴィアーナ殿下とミケーレ様ですが」
「……ならば仕方ない」
「はあ、弟が羨ましいです」
ヴァレンティーノ殿下とベニート様が何やら脱力しているが、一体どうしたのだろう?

私の頭の上のクエスチョンマークが見えたのか、兄が私の肩に手を置き、耳元で囁いた。
「どうでもいい事だからお前は気にするな」
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