悪役令嬢の護衛騎士というモブになったが様子がおかしい

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攻略対象者1

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 ヴィヴィアーナ殿下を学園に送った帰り。愛刀の手入れを依頼していた鍛冶屋へ受け取りに向かった。ついでにと少し街をぶらつく。

すると、向こうから赤い髪の男がこちらに来るのが見えた。まだ距離はあるというのに、大きいせいですぐにわかる。

「エルダ。どうした?王女殿下の見送りは終わったのか?」
向こうもこちらに気付き、手を振りながら近づいてきた。
「ああ、ついでに鍛冶屋に預けていた刀を受け取って来た」
脇に差していた得物をちらりと見せる。

「偶然だな。俺もこれから取りに行く所だ。すぐに受け取って来るから少し待ってくれ。一緒に事務所まで行こう」
「わかった。ではそこのベンチで待っている」
「ああ」
ニッカと笑うと彼は、あっという間に走り去って行った。

彼は私と同じ副団長をしているアルセニオ・デマルディーノ。攻略対象者の一人だ。赤い髪に赤い瞳のイケメン。がっしりした体格で、騎士団長の息子であり侯爵家の嫡男だ。得物は大剣。普通の剣を使っているかのように軽々と使いこなす。ゲームではヒロインが光魔法を授かった際、国から命じられ護衛として彼女の傍にいる事になるという設定だ。

「今日辺りどうだ?訓練に付き合わないか?」
騎士団の事務所へ向かう道すがら、彼から提案される。
「嫌だ。アルセニオとやると剣が壊れる。いくら模造刀だからって勿体ない」
「えええ、いいじゃないか。ちゃんと予算で買い足せるだろう」
「そうだが、そういう問題じゃない。それに暫くの間手がしびれて、字が書けなくなるから困る」

パワーが凄まじく、まともに受けると暫くの間、手の感覚が鈍くなるのだ。
「エルダの手は細いからなあ」
私の手首を掴んでまじまじと見る。
「許可なく掴むな」
「ごめん、ごめん。でもよくこんな細腕で戦えるな」

謝っているが、手は離そうとしない。無理に外そうとすれば、私の手が痛くなるだけなので好きにさせておく。
「それはこの得物のおかげだ」
「それなあ。他の誰にも使いこなせないんだよなあ。片刃というのがどうにも慣れない」

「片刃だが、切れ味は半端ないからな。普通の剣ではどうしても切る、というより叩き切る感じだから力がいるが、こいつであれば力を入れなくても綺麗に切れるぞ」
刀の柄をそっと撫でる。

この刀は特に名のある物ではないようなのだが、とにかく切れる。しかも刃こぼれもしない。たまに手入れをしっかりしてやれば、常にキラリと刀身が輝いているのだ。本来ならばあり得ない事だが、その辺はきっと、ゲームの世界特有のご都合主義というやつなのだろう。

柄を撫でている私を見たアルセニオが、私の頭を撫でた。見た目に反してそっと触れる仕草に、驚いて顔を上げると彼が二ッと笑う。
「刀を持ったおまえは美しいよな。その刀もおまえに使われて本望だろう」
そう思ってもらえたことが嬉しくて、撫でられている手が優しくて、少しドキドキしてしまった。だが、そんな妙な空気は一瞬で消し飛ぶ。

「なあ、どうせなら少し腹ごしらえしていかないか?」
アルセニオが腹をさすりながら提案してきた。
「……別に私はいいが、アルセニオは仕事大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。昨日、結構終わらせたからな」
珍しい事もあるものだ。

「じゃあ、食堂に寄るか?」
すぐ近くにある食堂を指差す。
「そうじゃないだろ。仮にも男と女だ。少しはデートらしい場所にしようぜ」
「は?何言ってるんだ?」
とうとう脳も筋肉になったのか?

「まあ、いいからいいから」
アルセニオは私の手を掴むと、少し先にあるカフェへと向かった。

「美味しい」
店先でおススメとうたわれていたケーキのセットを頼んだ。ふんわりしたスポンジの上にフルーツがたくさん乗っている。こんなに乗っていて、どうして潰れないのかが不思議だ。

「エルダ。おまえって甘いもの好きだよな。普段は表情ないくせに、今はすげえ幸せそうな顔になってる」
「……ケーキは好きだ」
そんなに顔に出ていただろうか。予想外の事を言われたせいで顔に熱がたまる。

「はは、照れてる。可愛いな」
「う、うるさい!お前は早くそれを食べろ」
ますます熱くなる顔を隠すように俯けば、声を上げて笑われてしまった。
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