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階段落ち
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実習棟の2階へ続く階段の踊り場。放課後なだけあって人気はない。
「それで?私をわざわざこのような場所に呼び出して、一体何のお話があるのですか?」
美しい銀の髪をなびかせて、均整の取れたプロポーションは、凛と立つ彼女を増々綺麗に見せる。触れれば吸い付きそうな血色のいい肌は健康的で、快活であることが想像できる。
そして、まるで不純物のない希少なエメラルドを埋め込んだようなグリーンアイズ。
マッツォレーラ侯爵家の娘であるエレオノーラ・マッツォレーラは、自分を呼び出した男爵令嬢であるパルミナ・サバニーニを訝しげに見ながら言った。
「あんたの悪役っぷりが足りないのよ。悪役令嬢らしくもっとアタシを虐めなさいよ」
ふてぶてしい言いざまのこちらは、ウェーブのかかったストロベリーブロンドの髪。小柄な体に見合わないふくよかな胸。栗色の瞳はくりっとしていて愛らしい見目をしている。エレオノーラとは対照的な、所謂守ってあげたくなるようなタイプである。
この虫をも殺せないであろう見た目の令嬢が、家格が大分上の令嬢にこんな言葉遣いをするなんて、この目で見ない限り誰も信じることは出来ないだろう。
「悪役っぷり?悪役令嬢?何ですかそれは?何を言っているのか全く分からないのですが?しかも虐めろとは……あなたはマゾヒストですか?」
パルミナの言っていることがあまりにも謎過ぎる。不気味に思ったエレオノーラは少し後ずさる。
「そんなわけないでしょ!あんたはね、アタシを虐めて最後には大勢の面々がいる前で断罪されるのが役割なの。その為には主人公であるアタシを虐めなくちゃいけないのよ。なのにあんたときたら、唯一私に言ったことは『もう少し令嬢らしい常識を学べ』だけだなんて。そんなんだから、イマイチ攻略者たちとラブラブにならないのよ」
言われたエレオノーラはキョトンとするしかない。
「断罪されるのが役目?大勢の面々がいる所とは?攻略者たちとは?あなたの使う言語が理解できませんわ。それは預言か何かですの?」
「そうじゃないわよ!全く。ああ、面倒くさいわねぇ。とにかく、今からアタシはここから落ちるの。本当はあんたに突き落とされるのが筋書きなんだけど、そんな事しそうもないし。仕方ないから自分で落ちて、アタシはあんたに突き落とされたって言いふらすのよ」
「今から落ちるって……私が突き落とす筋書き?私は絶対にそんな事しませんわ。なのに私がやったと言いふらすと?」
「そうよ。それが、アタシがフィリベルト様と結ばれるための重要なイベントになるんだから。主人公であるアタシが泣きながら訴えれば、誰もがきっとその話を信じてアンタを許さなくなるわ」
「イベントとは?」
「もう、うるさいわね。あんたはそこで黙って見てればいいのよ」
そう言って自分の身体の重心を、後ろに変えるパルミナ。
「危ない!!」
己の反射神経の素晴らしさを呪うも時すでに遅し。咄嗟にパルミナの手を捉え、踏ん張ろうとするも、大して重さの変わらない女性を引力に逆らって、片手で引くのは流石に無理だった。
そのまま二人で宙を浮く。このままでは階下へと落ちてしまう。
『ああ、何故咄嗟に助けてしまったのかしら?フィルを奪った人なのに。大体この人のせいでフィルが……』
まるで死ぬ直前に見るという、走馬灯のように昔の事が頭の中を駆け巡った。
「それで?私をわざわざこのような場所に呼び出して、一体何のお話があるのですか?」
美しい銀の髪をなびかせて、均整の取れたプロポーションは、凛と立つ彼女を増々綺麗に見せる。触れれば吸い付きそうな血色のいい肌は健康的で、快活であることが想像できる。
そして、まるで不純物のない希少なエメラルドを埋め込んだようなグリーンアイズ。
マッツォレーラ侯爵家の娘であるエレオノーラ・マッツォレーラは、自分を呼び出した男爵令嬢であるパルミナ・サバニーニを訝しげに見ながら言った。
「あんたの悪役っぷりが足りないのよ。悪役令嬢らしくもっとアタシを虐めなさいよ」
ふてぶてしい言いざまのこちらは、ウェーブのかかったストロベリーブロンドの髪。小柄な体に見合わないふくよかな胸。栗色の瞳はくりっとしていて愛らしい見目をしている。エレオノーラとは対照的な、所謂守ってあげたくなるようなタイプである。
この虫をも殺せないであろう見た目の令嬢が、家格が大分上の令嬢にこんな言葉遣いをするなんて、この目で見ない限り誰も信じることは出来ないだろう。
「悪役っぷり?悪役令嬢?何ですかそれは?何を言っているのか全く分からないのですが?しかも虐めろとは……あなたはマゾヒストですか?」
パルミナの言っていることがあまりにも謎過ぎる。不気味に思ったエレオノーラは少し後ずさる。
「そんなわけないでしょ!あんたはね、アタシを虐めて最後には大勢の面々がいる前で断罪されるのが役割なの。その為には主人公であるアタシを虐めなくちゃいけないのよ。なのにあんたときたら、唯一私に言ったことは『もう少し令嬢らしい常識を学べ』だけだなんて。そんなんだから、イマイチ攻略者たちとラブラブにならないのよ」
言われたエレオノーラはキョトンとするしかない。
「断罪されるのが役目?大勢の面々がいる所とは?攻略者たちとは?あなたの使う言語が理解できませんわ。それは預言か何かですの?」
「そうじゃないわよ!全く。ああ、面倒くさいわねぇ。とにかく、今からアタシはここから落ちるの。本当はあんたに突き落とされるのが筋書きなんだけど、そんな事しそうもないし。仕方ないから自分で落ちて、アタシはあんたに突き落とされたって言いふらすのよ」
「今から落ちるって……私が突き落とす筋書き?私は絶対にそんな事しませんわ。なのに私がやったと言いふらすと?」
「そうよ。それが、アタシがフィリベルト様と結ばれるための重要なイベントになるんだから。主人公であるアタシが泣きながら訴えれば、誰もがきっとその話を信じてアンタを許さなくなるわ」
「イベントとは?」
「もう、うるさいわね。あんたはそこで黙って見てればいいのよ」
そう言って自分の身体の重心を、後ろに変えるパルミナ。
「危ない!!」
己の反射神経の素晴らしさを呪うも時すでに遅し。咄嗟にパルミナの手を捉え、踏ん張ろうとするも、大して重さの変わらない女性を引力に逆らって、片手で引くのは流石に無理だった。
そのまま二人で宙を浮く。このままでは階下へと落ちてしまう。
『ああ、何故咄嗟に助けてしまったのかしら?フィルを奪った人なのに。大体この人のせいでフィルが……』
まるで死ぬ直前に見るという、走馬灯のように昔の事が頭の中を駆け巡った。
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