君の目を見つめると

舞輝薇

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君の目を見つめると

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大好きな歌がある。
だけどどうしてもタイトルが思い出せない。

曲の歌詞もあやふやで、抜け落ちた部分は適当に誤魔化しながら歌っていた。
顔も名前も思い出せないけれど、初恋の彼が歌っていた曲。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は春が好きじゃありません。
大嫌いな夏がやってくるまでの恐怖のカウントダウンと捉えてしまうからです。

でも桜は好き。
散ってしまう時は悲しくなるけれど、花びらが風と一緒に舞って、真っ黒な地面をピンク一面に染め上げてしまうあの感動はこの季節でしか味わえない…と気付いたからです。

だから本当は春も嫌いだけど、少し格上げして“好きじゃない”に留まってるというわけです。

クラス替えから1週間。
仲の良い友達と離れてしまい、いわゆるボッチというものを謳歌している私。
“謳歌”してるんです、とっても。

だけどこうして脳内でお喋りしてないと《たまに》寂しさが込み上げてくるから、今日も私は頭の中で色んな自分と会話します。

そういえば彼と出会った季節も春だったなぁ…なんて思いながら、あの曲を口ずさんでいると。

ガタンッ

突然後ろの席の男の子が立ち上がって…。
顔を真っ赤にしながら教室を出て行きました。

「変なの…」

一瞬静まり返ったものの、クラスメイトの1人が声を発したことでまた賑やかさを取り戻したようです。

『変なの』
これは彼に向けた言葉でしょうに、あっという間に別の話題に切り替わっていました。

きっと彼は、クラスメイトから気に留められていない。
そしてそれは、私も同じ。

(長い前髪とメガネで隠れている目元を見てみたい。)

ふとそんなことを思った私は、彼の後を追いかけてみることにしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お昼休みが残り10分に差し掛かったところで、屋上へ続く階段に腰掛けている彼を見つけました。

「クロサキくん、大丈夫ですか?
突然走って出て行ったから少し気になって…」

もし彼がまた走って逃げてしまったら…などと考えていたのに、彼の姿を見るなり早々に声を掛けてしまった私。
ですが驚いた顔をしながらも、彼はこう答えてくれました。

「君が、さっき歌ってた曲……。どこで知ったの?」

意外な質問です。
まさか聞かれていたなんて。
でも正直に答えるべきでしょう、恥ずかしいけれど今こそ彼と向き合う時です。

「あれは…初恋の男の子が、歌っていたんです。曲名も歌詞も忘れてしまったけれど、歌い続けていればまたどこかで会える気がして…」

そこまで答えて、ふと彼の顔を見ると。
なんとメガネを外していました。


そこには初恋の彼と同じ、青みがかった瞳がありました。
彼は日本とどこかの国のハーフだったと記憶しています。

そんな彼と同じ瞳を持つクロサキくん。
これは単なる偶然でしょうか。
それとも………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わぁ!おめめ青くてキレイ!!」

突然僕の顔を覗き込んできて、大きな声で叫んだ女の子。
この辺りは子供は住んでないって、お父さん言ってたのに…。

「…うそつき」

「嘘じゃないもん!本当にキレイだから言ったんだよ!」

「あっ、ごめん…今のは君に言ったんじゃなくて…」

少しムスッとした顔の女の子は、僕の言葉ですぐに笑顔になった。
それから成り行きで夕方まで一緒に遊んで、別れ際に歌と呼べるかわからないくらい短い曲をプレゼントした。
そんなたった1日の出来事。


あれからもう何年経っただろうか。
あの子は元気にしてるかな。
などと考えていた時、突然クラスメイトの女子があの曲を歌い出すものだから慌てて教室を飛び出してしまった。

そして今、目の前には当時と変わらぬ表情の“あの子”が立っている。

彼女は言った。
“初恋の男の子が歌っていた”と。

ならば僕も、過去を打ち明けてくれた彼女にきちんと向き合うべきだろう。
眼鏡を外し、彼女の瞳をしっかり捉える。

「その曲のタイトル、僕知ってるんだ」

驚きを隠せない彼女の目に映る僕は、いつになく楽しげだ。
こう答えたらもっと驚くだろうか。

「意味は“初めての恋”。この曲を送った相手に抱いた感情だよ」

揺れる視線の先で、もう少しだけ君を独占していたい。
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