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胃袋を掴まれた王様と生まれた信頼
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緊張した面持ちのケイトとそれに付き添うアンドルーが試作品を手に王様の執務室をおとづれた。
「陛下。新しいお食事のメニューを考案いたしました。お試しいただけませんでしょうか?」
「ケイトか。前回のトイレ改革は素晴らしかったぞ。臭いも解消されたし、使う我々もメンテナンスをする使用人もメリットしかなかった。褒美をやるから、何か考えておきなさい。」
「もったいなきお言葉です。ありがとうございます。」
「良い良い。本当に助かったのだ。私もだが、王妃も娘も他の王族も皆驚いておるほどだ。まだ我が国に来て日が経っておらんのにこの成果。そして今度は食事とな。一体どのようなものを考案したのだ?」
「はい。陛下はお魚を召し上がられた事はございますか?」
「魚とはあの川とか海とかに住んでおるあれか?知ってはいるが、食べるものとして認識した事がないな・・・。あれを食べるのか?」
「はい。私が他の人生の記憶を持っている事は前にお話ししたかと思いますが、一番古い記憶では王族にとてもよく似た種族と生活を共にしておりました。先ほどお褒めいただいたトイレ砂に関してもその時の記憶をベースにこの国で手に入る材料で作ったのです。今回もその時の記憶を頼りにいたしました。魚に関してはスカイ先生にもご意見をいただいて、監修いただいております。猫族の方々が口にされても問題ない事は確認済みです。私とアンドルー様も試作中に沢山口にしましたが、とても美味でございました。今回はその中のシャケリーベトポスをお持ちしております。」
「シャケリーベトポス・・・。書物では読んだ事はあるが・・・。して、それをどのように食べるのだ?」
「はい。今回は2品お持ちいたしました。1品目はきのこ出汁でシャケリーベトポスを煮たものです。スープ仕立てにしております。2品目は蒸したシャケリーベトポスを潰してフレーク状にして、少量の野菜スープと混ぜた後に、緩く寒天で固めております。寒天は海藻の一種で城下でも広く食べられております。そしてこちらが今回の目標としたところの食材としてのシャケリーベトポスでございます。今回は調理例としてそちらの2品をお持ちしましたが、今後の展開としてはそのままでもお召し上がりになれ、そしてそこからの調理にも耐えうる素材としての提案を考えております。素焼きとオリーブオイル焼き、スープ煮、蒸しものの4種類です。今回の料理の1品目はスープ煮にきのこ出汁を足したもの、2品目は蒸したものを使っております。もしよければ、こちらの素材も一度お試しください。」
「おお、なるほど。ではまずスープから試してみるか。味の想像がつかんが・・・。」
そう言いながらも既にスプーンを手に目をキラキラとさせる王様を前にケイトとアンドルーは少しほっとする。好奇心はありながらも、それでも初めての素材に恐る恐るまずはペロリとひと舐めする。
「ナッ!これは、いつものきのこスープに味わいが足されておる。これがシャケリーベトポスの味なのか?どれ、身も食べてみよう。ナッ!!美味しい!!歯応えも良いし、何より味が美味しいな!何というか、今まで食べていたものとは全く違う食感なのだな。美味い、美味いぞ!」
感嘆しながら、目を見開いて次々とスプーンを進める王様はペロリとスープを平らげ、寒天ゼリーにも手を伸ばす。
「ナッ!!これも美味しいな!つるんとしているから元々好きな食感だが、そこにこのシャケリーベトポスが合うのか。なるほど・・・。もっと食べられればいいのだが、何分一度に沢山食べられない種族でな。それにしても美味しかった。お、素材と言っていたか。これはこれでそのままで美味しいな!小腹が空いた時にも良さそうだ。スープ煮は食事向きかもしれんが、蒸したものや焼いたものなら簡単に食べられそうだ。これはいいな。いいぞ!うまい!」
「陛下のお口に合ったようでよかったです。安心しました。もしお気に召されたのでしたら、食事の献立に加えてもらうように致しますがいかがですか?」
「うむ、アンディ。明日から食事にはシャケリーベトポスを追加するように調理場に伝えておいてくれ。これは想定を超えて美味しいものだぞ!」
「承知しました。ですが、調理場はまだ魚の調理に慣れませんので、ケイトの方でしばらくは対応いたします。簡単に調理に加えられるようになれば、通常のお食事にも追加できるでしょう。今回はまず陛下に気に入っていただけるか、がポイントでしたので。」
「確かにそうだな。わかった!ではケイトにしばらくは頼むとしよう。料理でもいいが、この素材の方を毎食つけてくれるので十分だ。料理の形にするのはクロワが慣れてからで良い。よしよし。ケイト、こっちへ来い。」
王様は足元にしゃがんだケイトに頭をすりすりと擦り付けた。ゴロゴロと喉を鳴らしている。それは王様からの最上級の感謝表明だった。その様子を見た使用人達はギョッと驚き、たじろいだ。そんな時でも動じなかったのはアンドルーとケイト位。ケイトは動じてはいないものの、あまりにも嬉しくて王様を抱きしめてしまったので、それに関しては王様にやんわりと拒否されていた。その様子に気がついたアンドルーが笑いを堪えながら2人の元に寄っていって、興奮するケイトをふんわりと王様から引き離したのだった。
*****
王様は出された食事をペロリと平らげた夜、とても満足そうに目を細めた。
ケイトが現れてはや一年。今までも大きく困っていた訳ではなかったが、それでもケイトが示してくれた新しい可能性で生活が大きく改善した。トイレ砂に至っては、同じ特性を持つ別の獣族が噂を聞きつけて商談が始まっていると聞くし、その素材特性を活かしてトイレ以外にも素材としての販売をしてくれないかとの話もあるそうだ。ガータは長らく他国との交易は最小限だった。特に困る事はなかったし、王族も特に外の世界に興味はなかった。国は貧しくはなかったが、他国に誇れるほどに豊かな訳でもなかった。大地が肥沃であった事、国民がのんびりとしていた事に助けられていたのかもしれない。もし血気盛んな民族であったならば、この生活は保てていなかった可能性がある。他国との関係が最小限で済んでいるのはこの容姿に大いに感謝するべきところではあるが、そうであるとの前提を先代が一度内外に示した事でその後に続く私のような王が大きな行動を起こさずして今好きに暮らせているのだ。変わらない事もいい、だが、ケイトのように変わる事で皆をより幸せにする事もできる。今あるもので満足するのも大事だ。だけれども、それに甘んじる事なく、より良いものを民と求めていけるならそれも悪くないだろう。
今回ケイトが人の可能性を大きく広げた事も面白かった。今まで学ぶ事がメインだった国民がその知識を使って新しくモノや機会を生み出し始めた。家業でなければ何か商売をする事はなかったのに、ロロやキースの活躍を見て同じような若者達が自分たちにもできる事はないかとケイトを慕っていく事もあるらしい。診療所で表情の固かったスカイまでもうまく巻き込んで見事に雰囲気を柔らかくした。今では診察の時でもよく笑う顔を見る。
伝説のケイトは物怖じせずチャレンジする事を指針としているかのように、今日も何か新しい事はできないかと大きな目をくりくりとさせて、弾けるような笑顔で周囲をその渦に巻き込んでいく。立場的に人を動かすだけでも問題はないのに、自ら進んでどの工程にも入っていき、率先して行動を起こす。そして責任を取るような問題になれば、矢面に立とうとする。そこまでする必要はないのだが、性分なのだろう。
面白い奴だ。心の底でどこかちゃんと信じる事ができていなかった自分の国に伝わる伝説もそう悪くはないと、改めてそう信じられた事もまた王様の心をホッとさせ、じんわりと温かくさせるのだった。
「陛下。新しいお食事のメニューを考案いたしました。お試しいただけませんでしょうか?」
「ケイトか。前回のトイレ改革は素晴らしかったぞ。臭いも解消されたし、使う我々もメンテナンスをする使用人もメリットしかなかった。褒美をやるから、何か考えておきなさい。」
「もったいなきお言葉です。ありがとうございます。」
「良い良い。本当に助かったのだ。私もだが、王妃も娘も他の王族も皆驚いておるほどだ。まだ我が国に来て日が経っておらんのにこの成果。そして今度は食事とな。一体どのようなものを考案したのだ?」
「はい。陛下はお魚を召し上がられた事はございますか?」
「魚とはあの川とか海とかに住んでおるあれか?知ってはいるが、食べるものとして認識した事がないな・・・。あれを食べるのか?」
「はい。私が他の人生の記憶を持っている事は前にお話ししたかと思いますが、一番古い記憶では王族にとてもよく似た種族と生活を共にしておりました。先ほどお褒めいただいたトイレ砂に関してもその時の記憶をベースにこの国で手に入る材料で作ったのです。今回もその時の記憶を頼りにいたしました。魚に関してはスカイ先生にもご意見をいただいて、監修いただいております。猫族の方々が口にされても問題ない事は確認済みです。私とアンドルー様も試作中に沢山口にしましたが、とても美味でございました。今回はその中のシャケリーベトポスをお持ちしております。」
「シャケリーベトポス・・・。書物では読んだ事はあるが・・・。して、それをどのように食べるのだ?」
「はい。今回は2品お持ちいたしました。1品目はきのこ出汁でシャケリーベトポスを煮たものです。スープ仕立てにしております。2品目は蒸したシャケリーベトポスを潰してフレーク状にして、少量の野菜スープと混ぜた後に、緩く寒天で固めております。寒天は海藻の一種で城下でも広く食べられております。そしてこちらが今回の目標としたところの食材としてのシャケリーベトポスでございます。今回は調理例としてそちらの2品をお持ちしましたが、今後の展開としてはそのままでもお召し上がりになれ、そしてそこからの調理にも耐えうる素材としての提案を考えております。素焼きとオリーブオイル焼き、スープ煮、蒸しものの4種類です。今回の料理の1品目はスープ煮にきのこ出汁を足したもの、2品目は蒸したものを使っております。もしよければ、こちらの素材も一度お試しください。」
「おお、なるほど。ではまずスープから試してみるか。味の想像がつかんが・・・。」
そう言いながらも既にスプーンを手に目をキラキラとさせる王様を前にケイトとアンドルーは少しほっとする。好奇心はありながらも、それでも初めての素材に恐る恐るまずはペロリとひと舐めする。
「ナッ!これは、いつものきのこスープに味わいが足されておる。これがシャケリーベトポスの味なのか?どれ、身も食べてみよう。ナッ!!美味しい!!歯応えも良いし、何より味が美味しいな!何というか、今まで食べていたものとは全く違う食感なのだな。美味い、美味いぞ!」
感嘆しながら、目を見開いて次々とスプーンを進める王様はペロリとスープを平らげ、寒天ゼリーにも手を伸ばす。
「ナッ!!これも美味しいな!つるんとしているから元々好きな食感だが、そこにこのシャケリーベトポスが合うのか。なるほど・・・。もっと食べられればいいのだが、何分一度に沢山食べられない種族でな。それにしても美味しかった。お、素材と言っていたか。これはこれでそのままで美味しいな!小腹が空いた時にも良さそうだ。スープ煮は食事向きかもしれんが、蒸したものや焼いたものなら簡単に食べられそうだ。これはいいな。いいぞ!うまい!」
「陛下のお口に合ったようでよかったです。安心しました。もしお気に召されたのでしたら、食事の献立に加えてもらうように致しますがいかがですか?」
「うむ、アンディ。明日から食事にはシャケリーベトポスを追加するように調理場に伝えておいてくれ。これは想定を超えて美味しいものだぞ!」
「承知しました。ですが、調理場はまだ魚の調理に慣れませんので、ケイトの方でしばらくは対応いたします。簡単に調理に加えられるようになれば、通常のお食事にも追加できるでしょう。今回はまず陛下に気に入っていただけるか、がポイントでしたので。」
「確かにそうだな。わかった!ではケイトにしばらくは頼むとしよう。料理でもいいが、この素材の方を毎食つけてくれるので十分だ。料理の形にするのはクロワが慣れてからで良い。よしよし。ケイト、こっちへ来い。」
王様は足元にしゃがんだケイトに頭をすりすりと擦り付けた。ゴロゴロと喉を鳴らしている。それは王様からの最上級の感謝表明だった。その様子を見た使用人達はギョッと驚き、たじろいだ。そんな時でも動じなかったのはアンドルーとケイト位。ケイトは動じてはいないものの、あまりにも嬉しくて王様を抱きしめてしまったので、それに関しては王様にやんわりと拒否されていた。その様子に気がついたアンドルーが笑いを堪えながら2人の元に寄っていって、興奮するケイトをふんわりと王様から引き離したのだった。
*****
王様は出された食事をペロリと平らげた夜、とても満足そうに目を細めた。
ケイトが現れてはや一年。今までも大きく困っていた訳ではなかったが、それでもケイトが示してくれた新しい可能性で生活が大きく改善した。トイレ砂に至っては、同じ特性を持つ別の獣族が噂を聞きつけて商談が始まっていると聞くし、その素材特性を活かしてトイレ以外にも素材としての販売をしてくれないかとの話もあるそうだ。ガータは長らく他国との交易は最小限だった。特に困る事はなかったし、王族も特に外の世界に興味はなかった。国は貧しくはなかったが、他国に誇れるほどに豊かな訳でもなかった。大地が肥沃であった事、国民がのんびりとしていた事に助けられていたのかもしれない。もし血気盛んな民族であったならば、この生活は保てていなかった可能性がある。他国との関係が最小限で済んでいるのはこの容姿に大いに感謝するべきところではあるが、そうであるとの前提を先代が一度内外に示した事でその後に続く私のような王が大きな行動を起こさずして今好きに暮らせているのだ。変わらない事もいい、だが、ケイトのように変わる事で皆をより幸せにする事もできる。今あるもので満足するのも大事だ。だけれども、それに甘んじる事なく、より良いものを民と求めていけるならそれも悪くないだろう。
今回ケイトが人の可能性を大きく広げた事も面白かった。今まで学ぶ事がメインだった国民がその知識を使って新しくモノや機会を生み出し始めた。家業でなければ何か商売をする事はなかったのに、ロロやキースの活躍を見て同じような若者達が自分たちにもできる事はないかとケイトを慕っていく事もあるらしい。診療所で表情の固かったスカイまでもうまく巻き込んで見事に雰囲気を柔らかくした。今では診察の時でもよく笑う顔を見る。
伝説のケイトは物怖じせずチャレンジする事を指針としているかのように、今日も何か新しい事はできないかと大きな目をくりくりとさせて、弾けるような笑顔で周囲をその渦に巻き込んでいく。立場的に人を動かすだけでも問題はないのに、自ら進んでどの工程にも入っていき、率先して行動を起こす。そして責任を取るような問題になれば、矢面に立とうとする。そこまでする必要はないのだが、性分なのだろう。
面白い奴だ。心の底でどこかちゃんと信じる事ができていなかった自分の国に伝わる伝説もそう悪くはないと、改めてそう信じられた事もまた王様の心をホッとさせ、じんわりと温かくさせるのだった。
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