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救出
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「何者だ?」
部屋が広い上視界が良くないため、気配で相手の位置を探ろうと斎藤は声を発した。
直後、前方で何かが動く気配がした。
「そこか。」
太刀を握っていない手で置いていた明かりを掴み、
見当をつけた場所を照らす。
眼前にさらされたそれに、斎藤は驚愕した。
「加恵。」
裾が割けた着物を纏い、縄で羽交い締めにされた
無惨な想い人が横たわっている。
明かりを手放して側に駆け寄るや否や斎藤は加恵を縛る縄を切り捨て、その身を抱き起こした。
一瞥したところ深い傷は無さそうだが、
縛られていた手首と足首にはうっすらと血が滲んでいて痛々しい。
「さ、斎藤さん?」
「増枝屋と長州が関係あると聞いてな。
まあ、それは名目で。」
そう言いながら斎藤は太刀を鞘に収めると、
加恵をおんぶした。
抱っこでも良かったが、それでは梯子を登れない。
「本当のところーーあんたを、助けに。」
「えっ。」
驚く加恵を他所に、斎藤は来た道を引き返し始めた。
先ず加恵を外へと連れ出し、手当てをするべきだと
考えたからである。
「あ、あの………私、1人で歩けますから。」
「怪我している身で何を言う。」
「しかし、私といる所を人に見られると困るのでは?」
加恵は前に言った言葉を律儀にも順守しようとして
いた。
(自業自得だな。)
あの時は加恵に危険を及ぼすまいと斎藤はあえて
意に反したことを言ったものの、
それが今となっては両者を隔てる厄介な壁となって
いるようだ。
内心苦笑しつつ、斎藤は口を開いた。
誤解を解くには思いを正直に告げる他ない。
「あんたが俺のせいで何かあったらかと思うと、
気がかりだったーー前のことは忘れてくれ。」
返事は帰ってこない。今更何を言っているのだろうかと思われたか。
梯子の近くまで来た時、斎藤さん、と加恵が小声で
呼んだ。
「詰まる所、貴方は私のことをどう思っているんですか?」
「好き、だと言ったら。」
そこまで言って斎藤は顔が火照ってきたのを感じた。
互いに顔が見えない体勢であったことは幸いだ。
「初めて会った時から、ずっと焦がれていた。」
普段は寡黙な斎藤であったが、間ができて気まずく
なるのを避けようと無意識のうちに口を動かしていた。
加恵、と続けようとしたときあの、と呟きながら
加恵が斎藤の羽織を握り締めた。
「私も、私も斎藤さんのことがその、好き……です。」
斎藤は一瞬、息をするのを忘れた。
「真か?」
「はい。」
なんということだろうか。
両思いだなんてこんなに幸せな思いをしていいのか。
斎藤と加恵が脱出した後、屯所の救援らと地下蔵に
ある箱を押収した。
予想通り中には武器弾薬や長州とのやり取りをしていたと見られる書簡が見つかり、蔵山は御用となった。
また三番隊の隊士が屋根裏で捕まえた男らも
睨んでいた通り長州浪士だった。
部屋が広い上視界が良くないため、気配で相手の位置を探ろうと斎藤は声を発した。
直後、前方で何かが動く気配がした。
「そこか。」
太刀を握っていない手で置いていた明かりを掴み、
見当をつけた場所を照らす。
眼前にさらされたそれに、斎藤は驚愕した。
「加恵。」
裾が割けた着物を纏い、縄で羽交い締めにされた
無惨な想い人が横たわっている。
明かりを手放して側に駆け寄るや否や斎藤は加恵を縛る縄を切り捨て、その身を抱き起こした。
一瞥したところ深い傷は無さそうだが、
縛られていた手首と足首にはうっすらと血が滲んでいて痛々しい。
「さ、斎藤さん?」
「増枝屋と長州が関係あると聞いてな。
まあ、それは名目で。」
そう言いながら斎藤は太刀を鞘に収めると、
加恵をおんぶした。
抱っこでも良かったが、それでは梯子を登れない。
「本当のところーーあんたを、助けに。」
「えっ。」
驚く加恵を他所に、斎藤は来た道を引き返し始めた。
先ず加恵を外へと連れ出し、手当てをするべきだと
考えたからである。
「あ、あの………私、1人で歩けますから。」
「怪我している身で何を言う。」
「しかし、私といる所を人に見られると困るのでは?」
加恵は前に言った言葉を律儀にも順守しようとして
いた。
(自業自得だな。)
あの時は加恵に危険を及ぼすまいと斎藤はあえて
意に反したことを言ったものの、
それが今となっては両者を隔てる厄介な壁となって
いるようだ。
内心苦笑しつつ、斎藤は口を開いた。
誤解を解くには思いを正直に告げる他ない。
「あんたが俺のせいで何かあったらかと思うと、
気がかりだったーー前のことは忘れてくれ。」
返事は帰ってこない。今更何を言っているのだろうかと思われたか。
梯子の近くまで来た時、斎藤さん、と加恵が小声で
呼んだ。
「詰まる所、貴方は私のことをどう思っているんですか?」
「好き、だと言ったら。」
そこまで言って斎藤は顔が火照ってきたのを感じた。
互いに顔が見えない体勢であったことは幸いだ。
「初めて会った時から、ずっと焦がれていた。」
普段は寡黙な斎藤であったが、間ができて気まずく
なるのを避けようと無意識のうちに口を動かしていた。
加恵、と続けようとしたときあの、と呟きながら
加恵が斎藤の羽織を握り締めた。
「私も、私も斎藤さんのことがその、好き……です。」
斎藤は一瞬、息をするのを忘れた。
「真か?」
「はい。」
なんということだろうか。
両思いだなんてこんなに幸せな思いをしていいのか。
斎藤と加恵が脱出した後、屯所の救援らと地下蔵に
ある箱を押収した。
予想通り中には武器弾薬や長州とのやり取りをしていたと見られる書簡が見つかり、蔵山は御用となった。
また三番隊の隊士が屋根裏で捕まえた男らも
睨んでいた通り長州浪士だった。
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