君は明日死ぬのだろう

捨て犬

文字の大きさ
上 下
3 / 3

2

しおりを挟む





神は自らに似たものとして人間をお創りになられた。
そしてその者たちを地上へ遣わし安寧と見守ることを約束した。



神官アルベルトと巫女シズクは神殿で最も厳かで立派なつくりをした主神。女神像の前まで歩いてきた。
そして一日のはじめとなる巫女の祈りをシズクに課す。
シズクはアルベルトの教えた通り、祭壇の前まで来ると女神ラフィアを仰ぎその前に膝をつく。
そして静かに目を閉じると祈りを始めた。

「祈りの言葉ですか?はじめはなんでもよろしいのです。大切なのは女神神への偽らない心こそが大切です。あなたなりの言葉でご挨拶とこの国の平和でも祈ってください」

最初からこの世界の知識もない人間に難しい祝詞などを覚えさせようなどとはアルベルトは考えなかった。
無理矢理にこちらの世界に引き寄せてこちら都合の勝手なお願いで巫女になっていただいている自覚がアルベルトにもあった。そのため、できうる限りの配慮を。そのくらいの心配りはアルベルトにもあった。

アルベルトの言葉に、何を考えているのか一拍遅れて理解したのかシズクがうなずいたのを覚えている。

彼女は召喚された時、泣いていた。
アルベルトも召喚者としてその場にいた。そのシズクの姿を実際に目にしたものとして
思うところがないわけではない。異世界に対してただ素直に優れた場所から来た。とも思えなかった。

「私が言うことで無理だと思うことは素直に申告してください。貴方は私たちに恩恵をもたらしてくれる存在。代わりのいない尊い人です。私もできうる限り貴方に寄り添いたいと思います。」

アルベルトなりに真摯に巫女となる少女に語り掛けた。
元居た世界が不幸だったのならこちらの世界でアルベルトたちが導けばいい。
神官らしく過去にも傷ついてきた者たちを見てきたアルベルトは少女に自分の着ていたローブをかけた。


「神官さま、祈りが終わりました。」

瞑想していたシズクが胸の前で握っていた手を放し眼を開いてアルベルトを見上げた。
アルベルトはうなずいてその頭を撫でた。

「そうですか。きっと良い祈りができたのでしょう、ありがとうございます。では次にまいりましょう。」

アルベルトの撫でる手に少しうれしそうに顔をほころばせた少女に
この世界に呼んだものとしてアルベルトは責任を持っている。彼女の庇護者として
全力でサポートしていくことを決意している。
まずは知の庇護者たる神殿で自分のできうる限りのこの国常識、生きるために必要なことを
アルベルト自身が彼女に教えるつもりでいる。

「ここは広い分、冷えますので次は暖かい部屋で歴史と聖女の力についての座学にしましょう。」

シズクについてくれている侍女にはあらかじめ紅茶とお茶請けとなるお菓子の準備も頼んでいる。
アルベルトはシズクの歩調に合わせて少しゆっくりとした足取りで歩を進めた。







しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

【完結保証】嘘で繋がった婚約なら、今すぐ解消いたしましょう

ネコ
恋愛
小侯爵家の娘リュディアーヌは、昔から体が弱い。しかし婚約者の侯爵テオドールは「君を守る」と誓ってくれた……と信じていた。ところが、実際は健康体の女性との縁談が来るまでの“仮婚約”だったと知り、リュディアーヌは意を決して自ら婚約破棄を申し出る。その後、リュディアーヌの病弱は実は特異な魔力によるものと判明。身体を克服する術を見つけ、自由に動けるようになると、彼女の周りには真の味方が増えていく。偽りの縁に縛られる理由など、もうどこにもない。

処理中です...