君は明日死ぬのだろう

捨て犬

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神官アルベルトは頭痛がする頭を押さえつつ目的の場所へ足早に歩いていた。
アルベルトは若き神職の期待のホープであり、もともとの生まれに加えその卓越した容姿もあって
今まで挫折らしい挫折をしたことがない。大変恵まれた男だった。
母譲りの優しい顔立ちので美しく傾国と呼ばれた母に劣らない美貌。黒髪に完璧なアイスブルーは
一見冷たくも見える印象なのにその彼自身の腹黒さなど覆い隠すように旨くとりつくろわれた
柔和な表情は微笑みの神官と綽名されるほど神々しく信者もといファンの婦女子に人気である。
これまで壁らしい壁を感じたことのない彼は今うっすら自分のふがいなさと任された仕事の重さに
感じたことのないプレッシャーと絶望を抱いていた。

困難無理ゲー、逃げ出したいと

「アルベルトです。入室失礼します」

目的の部屋の前まで到着したアルベルトは中の主の確認もせずに速やかに入室した。
そして部屋の住人が女性だということも弁えた上で一切の遠慮もなくドアの先の寝室まで早足で進んでいく。
それに迷いはない。

バンッ

寝室のドアをアルベルトは開けた。そして肺にいっぱいの空気を吸い込むと勢い良くしゃべりだした。

「部屋を散らかしたら、掃除は自分でしてください。そしてまだ自殺はだめです!」
「(ほぇ)」

ベットに膝をついて座っていた小柄な少女がアルベルトの大声に振り替える。
その女性のひざ元にはおおよそ確認したくない代物がごろりと並び、案の定アルベルトが頭を抱えていた事態になっていた。あんたねぇ…毎朝、毎朝。心の中でアルベルトの悪態が始まるが
そんな彼の心情など一ミリも汲んだ様子のないぼけた顔がアルベルトを見上げる。

容姿は中の上くらいか。愛嬌のある顔といえば愛嬌があるかわいい顔なのだろう。
それよりも丸顔で童顔による幼さのほうが上にくる、異世界よりこの世界に降臨してくださった
まさに彼女が待望の聖女様である。
だが、その性格にはやや、いやかなり問題を抱えていた。

それがアルベルトの近々での最も胃の痛い胃痛の原因であり頭痛の種だった。

「どうして死ぬのだめなの?」

そんなことも説明しないといけないのか?!
聖女はこの世界の宝!死なれたらこの国は滅亡するかもしれないんだよ!!

本人に面と向かって言えない言葉をアルベルトは心の中で叫ぶ。
ああ、神様。なんなんですかこいつは?

朝っぱらから自分のベッドに自殺セットなるロープや毒殺用の暗器を並べる女を
心よりアルベルトは抹殺したいと思った。

あ、殺しちゃヤベッ


「シズク様、お着替えを。聖女教育のお時間です。」



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