珈琲ガレット調布店 不器用な神さまたちの戯れ

谷村にじゅうえん

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第4章 疱瘡の乱

6,これからは俺たちの時代だ

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「それで、詩はどうやってあいつを探すつもりなんだよ?」

 ネオンの下を、足の向く方向へ進みながら祓戸が聞く。

「当てがあるわけじゃないんだ。とりあえず駅前広場と公園と、それからこの辺りのにぎやかなところを回ってみたい」
「にぎやか?」

 詩の言葉を繰り返し、祓戸は不思議そうに首をひねった。
 詩は小さく頷いてみせる。

「疱瘡さんは、にぎやかすぎるところは苦手みたいだけど、でもいつも人のいるところにいるんだ。遠巻きに見てるっていうか」
「あれ? そう言われてみるとそうだな……。あいつは人が嫌いだと思ってたが」
「あのひとは人が嫌いなんじゃなくて、むしろ好きなんだよ。寂しいのが苦手」
「マジか。それは気づかなかった……!」

 祓戸は長い腕を頭の後ろにやって感心している。

「もしかしたら今も遠くから、僕たちのことを見てるかも?」
「うわあ……そう言われると、なんかそんな気がしてきた! あの根暗やろう、詩に散々心配かけて何やってるんだか!」
「あくまで僕の想像だけどね」

 想像で責められても可哀想だと思い、詩はそう付け加えた。

(それにしても……)

 さっきから詩は街の様子が気になっていた。
 このところの“自粛生活”で、しばらく夜外出する機会がなかったけれど、店の周囲を歩いてみると、開いている店が目に見えて減っている。
 街ゆく人もまばらだ。

「なんていうか……街がさびれてしまったみたいで寂しいね」

 つぶやくと、祓戸もそれに同意する。

「そうだな。店の明かりが減って、街が前より暗く見えるよな」
「こんな調布の街は、僕が知る限り初めてだよ……」
「少名毘古那が仕事にならないって怒るのもわかるよな」

 そんなことを言い合いながら歩いていると、店から2本先の通りで閉店を知らせる張り紙を見つけた。

「ここの定食屋さんも閉まっちゃったんだ……」
「詩の知ってる店?」
「ランチで何度もお世話になったよ」

 忙しい店のランチタイムのあと、ソンミンに店を任せて遅めのランチに行くのは詩の小さな楽しみだったのに。

「なんか、現実を思い知らされた感じ。もうかってないのはうちだけじゃなかったんんだ……」

 この分だと、街中まちじゅうがシャッター街になってしまう日も遠くなさそうだ。

「元気出せ詩~!」

 祓戸がばんばん背中を叩いて慰めた。

「疱瘡のやつをとっ捕まえて病の神どもをしめ出せば、また前みたいに明るい街になるって!」
「そうだね……。けど祓戸、僕たちの目的は疱瘡さんを捕まえることじゃないからね?」
「探しに行くなら一緒だろ?」

 そんな時だった。

「っとあそこ! 病の神だ!」

 祓戸が道の先を指さし、駆けていく。

「……えっ、病の神?」

 前に家の屋根で見た、ネズミに似た生き物だった。
 確か風邪の神だったか、せきの神だったか……。
 見ていると、道の端を駆けるそれを祓戸がむんずとつかんで持ち上げる。

(やっぱりネズミにしか見えないなあ……)

「お前、疱瘡の神を知ってるよな? あいつの居場所を知らないか?」

 ネズミに似たそれがジッと鳴いた。

「おいっ、生意気言ってんじゃねーぞ! ひねり潰すぞ!?」

 祓戸が逆さりにして脅すと、それはまたジッと鳴いて空に消えてしまった。

(本当にネズミじゃなかった!)

「ねえ、病の神はなんて?」
「“これからは俺たちの時代だぜ”って言って消えた」
「なにそれ……」

 二人は顔を見合わせる。

「けど今の感じじゃ、あいつは疱瘡のやつの動向を知ってたな。その辺にいる病の神を片っ端からとっ捕まえて吐かせれば、疱瘡の居場所がわかるんじゃないのか?」
「いいね、この際それでいこう!」

 祓戸の言葉に、詩も二つ返事で返した。
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