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第3章 少名毘古那の神
11,カレシ登場
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(禍津日神って……)
以前、レビューサイトに悪評を書き込んだ人の口から現われた神だ。
その時は人の形になって祓戸と戦い、また黒い霧になって消えてしまったけれど……。
今回は地下から噴き出す黒い霧の量が、あの時とは比較にならない。
霧はすでに駐車場の一帯を包み込んでいた。
――こいつに触れると災いがうつる。
以前聞いた祓戸の言葉がよみがえる。
(これっ、かなりマズいんじゃ!?)
「少名毘古那さん!?」
黒い霧の中に突っ込んでいく少名毘古那の背中が見えた。
「危ないからオニーサンは離れてて!」
「でもっ……」
見ているだけでいいんだろうか。
その時、駐車場のフェンスにしがみついている男の子の姿が目に映った。
また地面が揺れる。
(危ない!)
詩はコートを飛び出し、男の子に駆け寄った。
「大丈夫!? 僕につかまって!」
手を伸ばすと、彼は詩の手をつかんでくれる。
「ここは危ないからあっちに行こう!」
テニスコートの受け付けがある建物を目で示した。
けれども揺れが続いていて、すぐにはその場を動けない。
(どうしよう……)
男の子の手を励ますように強く握りながら、胸には不安が募った。
そんな時、聞き覚えのある声に呼ばれる。
「詩! よかった、そこにいたのか」
「祓戸……!?」
彼がアスファルトを踏みしめながら駆けてきて、詩の肩を支えた。
「来てくれたんだ……」
顔を見ただけでほっとする。
「祓戸、この子を頼む。逃げ遅れたみたいでここにいたんだ」
「わかった」
「君、このお兄さんと一緒に行けば大丈夫だからね?」
男の子に頷きかけ、祓戸の手に託した。
ここから建物までは少し距離があるけれど、彼と一緒なら危険は回避できるだろう。
祓戸の神は、災いを祓う神なのだから……。
「けど詩は……」
彼は不安そうにする。
「僕もすぐ追いかけるよ」
「わかった、無事でいろよな!」
祓戸は男の子を抱きかかえ、ひらりと着物のすそを翻した。
詩はもう一度、黒い霧の立ちこめる駐車場に目を向ける。
(他に逃げ遅れた人は……。少名毘古那さんは大丈夫なのかな……?)
断続的に揺れが続く中、黒い霧はさっきより濃くなっている。
霧の中で、小石が散らばるような音がしていた。
そこで――。
(あっ!)
少名毘古那が飛来する霧のかたまりの尻尾をつかみ、次々と地面に叩きつけているのが見えた。
「僕の楽しいデートをぶちこわしておいて、タダで済むとは思わないでよねっ!」
地面に叩きつけた黒い固まりを踏みつぶす。
彼の前では禍津日神も、虫ケラか何かのようだった。
ただ、虫というのは往々にして数が多い。
「おいっ、いったい何匹いるんだよ! いい加減にしろー!!」
少名毘古那が空に向かって叫んだ時――。
また大きく大地が揺れて、地割れが呼吸するように大きく口を開けた。
そして中から、のっそりと巨大な生き物が姿を現わす。
「……邪魔して悪かったな……」
(え――!?)
天を仰ぐような大男だった。
手には一振りの大剣、顔には立派なひげをたくわえている。
「大国主……」
少名毘古那が、彼を見上げて立ち尽くしていた。
(ええっ、あれが少名毘古那さんのカレ……!?)
その登場の仕方もさることながら、詩はサイズ感の違いにしびれてしまった。
「大国主。最近姿を見せないと思ったら、いったい何やってるの?」
少名毘古那が真上に向かって語りかける。
「見ての通り、掃除の最中だ」
彼が大剣をふるうと、その風圧で黒い霧が一掃されていく。
同時に大きく地面が揺れる。
「最近地下が騒がしくてな。地上に災いが及ぶ前に、きれいに掃除してやろうかと」
「あんたが地下で暴れたら、それだけで地上に被害が及ぶんだけど……」
駐車場にできた大穴を覗き込み、少名毘古那が呆れ顔をしてみせた。
以前、レビューサイトに悪評を書き込んだ人の口から現われた神だ。
その時は人の形になって祓戸と戦い、また黒い霧になって消えてしまったけれど……。
今回は地下から噴き出す黒い霧の量が、あの時とは比較にならない。
霧はすでに駐車場の一帯を包み込んでいた。
――こいつに触れると災いがうつる。
以前聞いた祓戸の言葉がよみがえる。
(これっ、かなりマズいんじゃ!?)
「少名毘古那さん!?」
黒い霧の中に突っ込んでいく少名毘古那の背中が見えた。
「危ないからオニーサンは離れてて!」
「でもっ……」
見ているだけでいいんだろうか。
その時、駐車場のフェンスにしがみついている男の子の姿が目に映った。
また地面が揺れる。
(危ない!)
詩はコートを飛び出し、男の子に駆け寄った。
「大丈夫!? 僕につかまって!」
手を伸ばすと、彼は詩の手をつかんでくれる。
「ここは危ないからあっちに行こう!」
テニスコートの受け付けがある建物を目で示した。
けれども揺れが続いていて、すぐにはその場を動けない。
(どうしよう……)
男の子の手を励ますように強く握りながら、胸には不安が募った。
そんな時、聞き覚えのある声に呼ばれる。
「詩! よかった、そこにいたのか」
「祓戸……!?」
彼がアスファルトを踏みしめながら駆けてきて、詩の肩を支えた。
「来てくれたんだ……」
顔を見ただけでほっとする。
「祓戸、この子を頼む。逃げ遅れたみたいでここにいたんだ」
「わかった」
「君、このお兄さんと一緒に行けば大丈夫だからね?」
男の子に頷きかけ、祓戸の手に託した。
ここから建物までは少し距離があるけれど、彼と一緒なら危険は回避できるだろう。
祓戸の神は、災いを祓う神なのだから……。
「けど詩は……」
彼は不安そうにする。
「僕もすぐ追いかけるよ」
「わかった、無事でいろよな!」
祓戸は男の子を抱きかかえ、ひらりと着物のすそを翻した。
詩はもう一度、黒い霧の立ちこめる駐車場に目を向ける。
(他に逃げ遅れた人は……。少名毘古那さんは大丈夫なのかな……?)
断続的に揺れが続く中、黒い霧はさっきより濃くなっている。
霧の中で、小石が散らばるような音がしていた。
そこで――。
(あっ!)
少名毘古那が飛来する霧のかたまりの尻尾をつかみ、次々と地面に叩きつけているのが見えた。
「僕の楽しいデートをぶちこわしておいて、タダで済むとは思わないでよねっ!」
地面に叩きつけた黒い固まりを踏みつぶす。
彼の前では禍津日神も、虫ケラか何かのようだった。
ただ、虫というのは往々にして数が多い。
「おいっ、いったい何匹いるんだよ! いい加減にしろー!!」
少名毘古那が空に向かって叫んだ時――。
また大きく大地が揺れて、地割れが呼吸するように大きく口を開けた。
そして中から、のっそりと巨大な生き物が姿を現わす。
「……邪魔して悪かったな……」
(え――!?)
天を仰ぐような大男だった。
手には一振りの大剣、顔には立派なひげをたくわえている。
「大国主……」
少名毘古那が、彼を見上げて立ち尽くしていた。
(ええっ、あれが少名毘古那さんのカレ……!?)
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彼が大剣をふるうと、その風圧で黒い霧が一掃されていく。
同時に大きく地面が揺れる。
「最近地下が騒がしくてな。地上に災いが及ぶ前に、きれいに掃除してやろうかと」
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