珈琲ガレット調布店 不器用な神さまたちの戯れ

谷村にじゅうえん

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第3章 少名毘古那の神

4,イザナミの呪い

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「猫とねずみか……」

 祓戸が腰の剣に手をかけた。

「猫も相手をなめてると、ねずみに噛みつかれることがあるから気をつけな」

 そこで歩行者信号が赤になり、車のクラクションが響く。

「待って、こんなところで!」

 詩はとっさに祓戸の腕をつかんだ。

「行こう! 車来てるから!」
「……え?」
「早く!」

 そのまま腕を引っ張って、詩は元いた歩道へ逆戻りする。
 ちょうどもう片方の腕には少名毘古那の神が絡みついていて、2人を引きずっていくことになった。
 歩道の縁石へ2人を引き上げてから、思わずため息をつく。

「はぁ、もう……あんなところでケンカなんて、死にたいの?」
「あのさ……お前、神が車にかれて死ぬとでも思ってんのか? 死はイザナミが人に与えた呪いだ。俺たちにはかかっていない」

 祓戸が説明した。

「え……?」

 言われてみるとそうかもしれない。けどあんなところでケンカなんて、やっぱり周りに迷惑だ。

「でも僕が曳かれそうだった!」

 それだけ言うと、祓戸は今気づいたみたいな顔をする。

「そうだな、悪かった……」
「え、で、ケンカはお終い?」

 少名毘古那の神は、つまらなそうにその場にしゃがみ込んでしまった。

「ケンカしたかったの?」

 詩が聞くと、彼は悪びれもせずに言う。

「別に? 暇つぶしにはなるかなーって思ったけど」
「暇なんだ……」
「オニーサンが遊んでくれないから」
「おいっ」

 少名毘古那の意味深な視線に気づいたのか、祓戸が彼のつま先を軽く蹴った。

「俺への嫌がらせで詩にちょっかい出すのはよせ。お前には大国主おおくにぬしがいるだろう」
「大国主?」

 詩が聞き返す。

「こいつのコレ」

 祓戸が親指を立てた。

「世間では兄弟神ってことになってるが、何千年前からの恋仲だよな?」
「お前にはカンケーない」

 少名毘古那が被せ気味に言う。

「祓戸はデリカシーがないからイヤだ」
「何、お前あいつとケンカでもしてんの?」
「だから関係ないって言ってる!」
「お前な、人のことには首突っ込んでくるくせに……」

 祓戸があきれ顔をしてみせた。

「僕はオニーサンがいい」

 少名毘古那が続ける。

「このオニーサンのエロい顔が見たい」
「おまっ!」
「待って待って!」

 祓戸が少名毘古那の胸ぐらをつかみかけたので、詩があわてて割って入った。

「お前はどっちの味方なんだよ?」

 祓戸がふくれた顔をする。

「どっちの味方とかない。ケンカ反対」
「それよりイイコトしよう? オニーサン」

 ケンカをふせぐためには、まず彼の口をふさがなければならないようだ。

「その話はふたりの時にしようか」

 詩は笑顔を作った。
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