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第3章 少名毘古那の神
1,ひと桁多い!?
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「一、十、百、千、万、十万、百万……あれっ? 一、十、百、千、万、十万、百万……」
その日立花詩は店のバックヤードで売り上げを確認し、何度も首を傾げていた。
今は日曜日の午前中。店は開いているが、昼時にさしかかるまでは比較的暇な時間帯だ。
「どうしました、てんちょー! また独り言漏れてますよ?」
店番のソンミンが、のれんをぺろっとめくってバックヤードを覗いた。
「ミンくん……、昨日の売り上げなんだけど、どうもひと桁多いんだよね」
詩はもう一度桁数を確認しながら答える。
「多いって、レジの中のお金と伝票の金額が合わないんですか?」
「いや、それは昨日のレジ締めの時に確認してて……」
「じゃあ何が問題なんです?」
「さすがに売り上げが多すぎると思って」
「儲かってるならいいじゃないですかー」
「だってひと桁多いんだよ? 1日の売り上げ、過去最高……」
詩としては信じられないことだった。
一方でソンミンは目をキラキラと輝かせる。
「マジですか!? すげー……、よかったですね店長!!」
「けど、何かの間違いじゃないかな?」
「伝票とお金が合ってるんでしょ? だったら間違いないですよ!」
「そうかなあ……」
詩はますます首を傾けた。
「昨日は目が回るほど忙しかったですもんね! ハロウィンで配った店長お手製のクッキーのおかげじゃないですか? それに祓戸の神もちゃんと働いてたなら普段より人手も多かったんだし……あ、それよりイケメンふたりを目当てに通ってくるお客さんが増えたのかも!?」
ソンミンは冗談だか本気だかよくわからないようなことを言っている。
「みんなが頑張ってくれたから?」
「店長を筆頭にね!」
「うーん……」
釈然としないまま一旦帳簿をしまった。
確かに売り上げが上がるのはいいことだ。それが普段の努力の成果ならもちろんうれしい。
けれど、どうも現実を素直に受け止められない。何かがおかしい、直感がそう告げていた。
*
「祓戸ってさ、祓いを司る神なんだよね?」
コーヒーを飲みにひょっこり現われた彼に聞いてみる。
「そうだけど、どうしたんだ?」
「商売繁盛の能力がついてきたとか……」
「バカ言え。俺にそんなことができるわけないだろう」
詩の予想はバッサリ切って捨てられた。
今度は祓戸の方が聞いてくる。
「ミンすけが浮かれてる件か?」
「そう。昨日の売り上げが過去最高で……」
ふたりの視線の先では、ソンミンが鼻歌交じりに客のコーヒーを淹れていた。
「念のため確認だけど、疱瘡さんも商売繁盛の力はないよね?」
「当たり前だ」
「だとしたら、なんなんだろう……」
ますます謎は深まるばかりだった。
顎をなでながら祓戸が言う。
「商売繁盛っつったら、布田天神じゃ少名毘古那の神なんだが……」
「すくなびこな?」
「ああ。布田天神の主神だ。どうしようもなくひねくれたガキんちょなんだが、神としての能力は認めざるを得ないな」
「へえ……」
そこで詩はあることを思い出した。
「……ああっ! そうだ」
「なんだよ、急にデカい声出して」
「実はこの前、疱瘡さんのお社に行った時、ついでにお参りしたんだ」
「えっ、少名毘古那のヤツに手を合わせたのか!?」
祓戸が音を立ててカップを置いた。
その日立花詩は店のバックヤードで売り上げを確認し、何度も首を傾げていた。
今は日曜日の午前中。店は開いているが、昼時にさしかかるまでは比較的暇な時間帯だ。
「どうしました、てんちょー! また独り言漏れてますよ?」
店番のソンミンが、のれんをぺろっとめくってバックヤードを覗いた。
「ミンくん……、昨日の売り上げなんだけど、どうもひと桁多いんだよね」
詩はもう一度桁数を確認しながら答える。
「多いって、レジの中のお金と伝票の金額が合わないんですか?」
「いや、それは昨日のレジ締めの時に確認してて……」
「じゃあ何が問題なんです?」
「さすがに売り上げが多すぎると思って」
「儲かってるならいいじゃないですかー」
「だってひと桁多いんだよ? 1日の売り上げ、過去最高……」
詩としては信じられないことだった。
一方でソンミンは目をキラキラと輝かせる。
「マジですか!? すげー……、よかったですね店長!!」
「けど、何かの間違いじゃないかな?」
「伝票とお金が合ってるんでしょ? だったら間違いないですよ!」
「そうかなあ……」
詩はますます首を傾けた。
「昨日は目が回るほど忙しかったですもんね! ハロウィンで配った店長お手製のクッキーのおかげじゃないですか? それに祓戸の神もちゃんと働いてたなら普段より人手も多かったんだし……あ、それよりイケメンふたりを目当てに通ってくるお客さんが増えたのかも!?」
ソンミンは冗談だか本気だかよくわからないようなことを言っている。
「みんなが頑張ってくれたから?」
「店長を筆頭にね!」
「うーん……」
釈然としないまま一旦帳簿をしまった。
確かに売り上げが上がるのはいいことだ。それが普段の努力の成果ならもちろんうれしい。
けれど、どうも現実を素直に受け止められない。何かがおかしい、直感がそう告げていた。
*
「祓戸ってさ、祓いを司る神なんだよね?」
コーヒーを飲みにひょっこり現われた彼に聞いてみる。
「そうだけど、どうしたんだ?」
「商売繁盛の能力がついてきたとか……」
「バカ言え。俺にそんなことができるわけないだろう」
詩の予想はバッサリ切って捨てられた。
今度は祓戸の方が聞いてくる。
「ミンすけが浮かれてる件か?」
「そう。昨日の売り上げが過去最高で……」
ふたりの視線の先では、ソンミンが鼻歌交じりに客のコーヒーを淹れていた。
「念のため確認だけど、疱瘡さんも商売繁盛の力はないよね?」
「当たり前だ」
「だとしたら、なんなんだろう……」
ますます謎は深まるばかりだった。
顎をなでながら祓戸が言う。
「商売繁盛っつったら、布田天神じゃ少名毘古那の神なんだが……」
「すくなびこな?」
「ああ。布田天神の主神だ。どうしようもなくひねくれたガキんちょなんだが、神としての能力は認めざるを得ないな」
「へえ……」
そこで詩はあることを思い出した。
「……ああっ! そうだ」
「なんだよ、急にデカい声出して」
「実はこの前、疱瘡さんのお社に行った時、ついでにお参りしたんだ」
「えっ、少名毘古那のヤツに手を合わせたのか!?」
祓戸が音を立ててカップを置いた。
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