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第2章 疱瘡の神
閑話,神さまたちのハロウィン②
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翌日――。
詩は早朝から型抜きクッキーを焼いていた。お菓子は既製品で済ませようと思っていたけれど、せっかく早起きしたこともあって気が変わったのだ。
コーヒーカップの形のクッキー2枚とキャンディとマシュマロ。それをショップカードと一緒に小袋に詰めてモールで留める。
そんな地道な作業を続けていると、すぐに店を開ける時間が近付いてきた。
「クッキーですか? いい香り!」
CLOSEDの札の下がったドアを押し、出勤してきたソンミンが目を輝かす。
「おはよ、ミンくん。張り切って作っちゃった。数は作れなかったけど……」
形が欠けてしまったひとつを渡そうとする。
すると、差しだした指先にソンミンの顔が近付いてきて、ぱくんとクッキーを食べてしまった。
「……うっま!」
「そう? よかった」
「てんちょーの指が」
「指は……非売品かな」
ソンミンの笑顔を前に、詩もちょっと照れる。
「数も、これだけあれば十分でしょう! 配布係のふたりがどれだけ役に立つかもわかりませんしね……」
彼はそう続けた。
それからしばらくして、ヴァンパイア姿の祓戸がひょっこりやってきた。
「トリックオアトリート!」
神が悪魔の仮装なんておかしい、なんて言っていたくせに、さっそくなりきっている。
それにしても現われた瞬間すでに仮装が完了しているのは、神さま仕様なんだろうか。
長い髪にひざ下まであるマント、マウスピースの牙がよく似合っていた。
「はい、お菓子! 頑張って配ってきてね」
強奪されるべきお菓子の代わりに、詩は配布用のお菓子を渡す。
かごいっぱいのそれを受け取り、祓戸はなんとも言えない顔をした。
「そうか……。店のお菓子がなくなんねーと、詩にはイタズラできねーのか」
「そうなるね」
詩は笑う。
「店長にイタズラですって!? そんなことをしようとしたら、即刻通報しますから覚悟していてくださいね?」
ソンミンが真顔で腰に手を当てた。
「だいたいあなたは今日ここのバイトなんですから、お客様をトリートすべき立場です! なんでイタズラしようとしてるんですか」
「そういう祭りじゃねーのかよ」
「イタズラが許されるのは子どもくらいです」
「そうかよ……」
祓戸がつまらなそうな顔をした。
「じゃあ、子どもでもトリートしてくるか」
「……あ、ところで疱瘡の神は?」
お菓子のかごを手に出ていこうとするヴァンパイアに聞くと、彼は肩をすくめた。
「さあ。あいつは来ねーだろ」
「ええ……あれだけ言ったのに、空気読まなさすぎでしょう!」
ソンミンが舌打ちする。
「でもまあ、こっちで勝手に話を進めただけで、彼自身、来るとは言ってなかったしね」
詩はとても乗り気には見えなかった、疱瘡の神の顔を思い出す。
「それはまあ……」
「あんなヤツを当てにするのは、お前くらいだぞミンすけ」
「リーダーって呼んでください。今日はバイトリーダーなんで」
にやにやする祓戸に、ソンミンが真顔で返した。
(それにしても、本当に来ないのかな、疱瘡さん……)
詩はなんだかそのことが気にかかる。
そこで開店時間を知らせるアラームが鳴り、混沌としたまま店のハロウィンが始まった。
詩は早朝から型抜きクッキーを焼いていた。お菓子は既製品で済ませようと思っていたけれど、せっかく早起きしたこともあって気が変わったのだ。
コーヒーカップの形のクッキー2枚とキャンディとマシュマロ。それをショップカードと一緒に小袋に詰めてモールで留める。
そんな地道な作業を続けていると、すぐに店を開ける時間が近付いてきた。
「クッキーですか? いい香り!」
CLOSEDの札の下がったドアを押し、出勤してきたソンミンが目を輝かす。
「おはよ、ミンくん。張り切って作っちゃった。数は作れなかったけど……」
形が欠けてしまったひとつを渡そうとする。
すると、差しだした指先にソンミンの顔が近付いてきて、ぱくんとクッキーを食べてしまった。
「……うっま!」
「そう? よかった」
「てんちょーの指が」
「指は……非売品かな」
ソンミンの笑顔を前に、詩もちょっと照れる。
「数も、これだけあれば十分でしょう! 配布係のふたりがどれだけ役に立つかもわかりませんしね……」
彼はそう続けた。
それからしばらくして、ヴァンパイア姿の祓戸がひょっこりやってきた。
「トリックオアトリート!」
神が悪魔の仮装なんておかしい、なんて言っていたくせに、さっそくなりきっている。
それにしても現われた瞬間すでに仮装が完了しているのは、神さま仕様なんだろうか。
長い髪にひざ下まであるマント、マウスピースの牙がよく似合っていた。
「はい、お菓子! 頑張って配ってきてね」
強奪されるべきお菓子の代わりに、詩は配布用のお菓子を渡す。
かごいっぱいのそれを受け取り、祓戸はなんとも言えない顔をした。
「そうか……。店のお菓子がなくなんねーと、詩にはイタズラできねーのか」
「そうなるね」
詩は笑う。
「店長にイタズラですって!? そんなことをしようとしたら、即刻通報しますから覚悟していてくださいね?」
ソンミンが真顔で腰に手を当てた。
「だいたいあなたは今日ここのバイトなんですから、お客様をトリートすべき立場です! なんでイタズラしようとしてるんですか」
「そういう祭りじゃねーのかよ」
「イタズラが許されるのは子どもくらいです」
「そうかよ……」
祓戸がつまらなそうな顔をした。
「じゃあ、子どもでもトリートしてくるか」
「……あ、ところで疱瘡の神は?」
お菓子のかごを手に出ていこうとするヴァンパイアに聞くと、彼は肩をすくめた。
「さあ。あいつは来ねーだろ」
「ええ……あれだけ言ったのに、空気読まなさすぎでしょう!」
ソンミンが舌打ちする。
「でもまあ、こっちで勝手に話を進めただけで、彼自身、来るとは言ってなかったしね」
詩はとても乗り気には見えなかった、疱瘡の神の顔を思い出す。
「それはまあ……」
「あんなヤツを当てにするのは、お前くらいだぞミンすけ」
「リーダーって呼んでください。今日はバイトリーダーなんで」
にやにやする祓戸に、ソンミンが真顔で返した。
(それにしても、本当に来ないのかな、疱瘡さん……)
詩はなんだかそのことが気にかかる。
そこで開店時間を知らせるアラームが鳴り、混沌としたまま店のハロウィンが始まった。
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