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第2章 疱瘡の神
4,濡れた支配者
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結局、詩の熱が1日で下がりきることはなく、祓戸が貼ってくれた臨時休業の張り紙は翌日も使われることになった。
「ミンくんごめんね。休みはこっちの都合だからバイト代は補償するよ」
「そういう心配は要りませんって。ちょうどテスト前だから時間は有効に使えてますし。それより店長、体大丈夫なんですか? 顔見てないから心配だなあ……」
2日連続、スマホ越しにソンミンの声を聞く朝だ。
「そうだ、動画か写真送ってください!」
「ええっ?」
向こうからの想定外の要求に、詩は思わず聞き返す。
「店長の顔見たら安心します! っていうか顔みたい」
「んー」
姿見に映る自分はパジャマ姿で髪もぼさぼさ。今は人に見せられる姿じゃなかった。
「それは今度ね」
「えー……」
さらっと交わすとソンミンがブーイングの声をあげる。
電話越しのそんなやり取りに、詩はちょっと笑ってしまった。
「それよりミンくん、そろそろ学校に行く時間でしょ?」
「本当だ、行ってきます!」
元気な声を聞いてから終話ボタンをタップし、詩はバタンと横になった。
電話では明るくふるまうものの、体調は芳しくない。
神棚のご飯は一昨日のもののまま、すっかり干からびていた。
(病院行きたいけど、無理だよなあ……)
立って動く元気がない。
「祓戸~……」
心細さから彼の名前を口にするが、神は都合よく現れてはくれなかった。
そして詩は眠りに落ちていく――。
「お前……、警戒心がなさすぎだ。人間なんて弱い生き物なのに……」
誰かがささやき、詩の背中に忍び寄った。
(ああ、またこの夢だ……)
後ろから腰に触れられる。
逃げようにも薄暗い店の中、詩は背後の何者かとカウンターの間に挟まれていた。
(ああ……)
ひんやりした気配に背中から抱きすくめられる。
真冬でもないのに、肺の中にまで冷気が忍び込んできた。ここは冷蔵庫の中みたいだ。
「僕を……どうするつもり……?」
震えながら聞くと背後の気配が答える。
「お前に興味がある」
「興味……?」
「腹の中がどうなっているのか知りたいんだよなあ」
腰の後ろから体内に、何かが入り込んでくるのを感じた。
「やだ、ああっ……!」
めりめりとこじ開ける音がする。
「んうっ……」
強引な手に腹わたを探られていた。
「やめて……そんなとこ……何も面白いものはないから……」
「んふっ」
後ろの気配が笑った。
「それが案外楽しいよ。ほら」
ねちねちと濡れた摩擦音。
「もっとぐちゃぐちゃにしてやろうか」
腹の中で彼の指がバラバラに動き、内臓を強引にかき回した。
「ああ、う……痛い」
「痛みも快感だろう? ニンゲンは他人に支配されるのが好きなんだ」
「……っ、そんなわけない! 人には個人の尊厳がある」
振り向くと、夜の闇のような瞳と目が合った。
「そういうお題目も尊いけどな。弱い生き物は大きなものに寄っかかって流されて、米粒みたいにくっつき合って同化するのが好きなんだ。人にはいろんな性質がある、ちゃんと見た方がいいぞ?」
他人の臓物を無遠慮にかき回しながら、こいつはなんの話をしているのか。
理解に苦しむ。
「なあ、そろそろよくなってきただろ?」
さっきまでとは違うささやき声で言われた。
「ああっ」
痛みは引かない。けどなんだか……。
全身が熱くなってきた。
「何これ?」
冷たかった彼の手が馴染んで、まるで自分のもののように思える。
「お前が俺とひとつになってきた証拠だな」
濡れた支配者は笑った――。
「ミンくんごめんね。休みはこっちの都合だからバイト代は補償するよ」
「そういう心配は要りませんって。ちょうどテスト前だから時間は有効に使えてますし。それより店長、体大丈夫なんですか? 顔見てないから心配だなあ……」
2日連続、スマホ越しにソンミンの声を聞く朝だ。
「そうだ、動画か写真送ってください!」
「ええっ?」
向こうからの想定外の要求に、詩は思わず聞き返す。
「店長の顔見たら安心します! っていうか顔みたい」
「んー」
姿見に映る自分はパジャマ姿で髪もぼさぼさ。今は人に見せられる姿じゃなかった。
「それは今度ね」
「えー……」
さらっと交わすとソンミンがブーイングの声をあげる。
電話越しのそんなやり取りに、詩はちょっと笑ってしまった。
「それよりミンくん、そろそろ学校に行く時間でしょ?」
「本当だ、行ってきます!」
元気な声を聞いてから終話ボタンをタップし、詩はバタンと横になった。
電話では明るくふるまうものの、体調は芳しくない。
神棚のご飯は一昨日のもののまま、すっかり干からびていた。
(病院行きたいけど、無理だよなあ……)
立って動く元気がない。
「祓戸~……」
心細さから彼の名前を口にするが、神は都合よく現れてはくれなかった。
そして詩は眠りに落ちていく――。
「お前……、警戒心がなさすぎだ。人間なんて弱い生き物なのに……」
誰かがささやき、詩の背中に忍び寄った。
(ああ、またこの夢だ……)
後ろから腰に触れられる。
逃げようにも薄暗い店の中、詩は背後の何者かとカウンターの間に挟まれていた。
(ああ……)
ひんやりした気配に背中から抱きすくめられる。
真冬でもないのに、肺の中にまで冷気が忍び込んできた。ここは冷蔵庫の中みたいだ。
「僕を……どうするつもり……?」
震えながら聞くと背後の気配が答える。
「お前に興味がある」
「興味……?」
「腹の中がどうなっているのか知りたいんだよなあ」
腰の後ろから体内に、何かが入り込んでくるのを感じた。
「やだ、ああっ……!」
めりめりとこじ開ける音がする。
「んうっ……」
強引な手に腹わたを探られていた。
「やめて……そんなとこ……何も面白いものはないから……」
「んふっ」
後ろの気配が笑った。
「それが案外楽しいよ。ほら」
ねちねちと濡れた摩擦音。
「もっとぐちゃぐちゃにしてやろうか」
腹の中で彼の指がバラバラに動き、内臓を強引にかき回した。
「ああ、う……痛い」
「痛みも快感だろう? ニンゲンは他人に支配されるのが好きなんだ」
「……っ、そんなわけない! 人には個人の尊厳がある」
振り向くと、夜の闇のような瞳と目が合った。
「そういうお題目も尊いけどな。弱い生き物は大きなものに寄っかかって流されて、米粒みたいにくっつき合って同化するのが好きなんだ。人にはいろんな性質がある、ちゃんと見た方がいいぞ?」
他人の臓物を無遠慮にかき回しながら、こいつはなんの話をしているのか。
理解に苦しむ。
「なあ、そろそろよくなってきただろ?」
さっきまでとは違うささやき声で言われた。
「ああっ」
痛みは引かない。けどなんだか……。
全身が熱くなってきた。
「何これ?」
冷たかった彼の手が馴染んで、まるで自分のもののように思える。
「お前が俺とひとつになってきた証拠だな」
濡れた支配者は笑った――。
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