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第2章 疱瘡の神
1,たぶん神さま
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(卵にパセリ、ついでにチーズとクレイジーソルトも買っておこう……)
スマホの買い物メモを見ながら、詩はお昼の通りを歩いていく。
今は珈琲ガレット調布店も営業中の時間だが、詩は店をソンミンに任せ、足りなくなった食材を買いに出ていた。
この辺りには安売りスーパーから高級店まで食料品を売る店が多くあり、買い出しには困らない。
(クレイジーソルトはどこが一番安いんだっけ?)
つらつらと考えながら歩いていると、駅前広場にいくつかある円形のベンチに、1カ所だけ人のいないところを見つけた。
昼間の人通りが多い時間帯、この辺りのベンチは取り合いのはずだが……。
「……?」
気になってしまい、歩きながらも凝視する。
するとそこにはあばた顔の若い男が、発泡酒の缶と一緒に転がっていた。みんなは彼を避け、このベンチには座らないんだろう。祓戸とどこか似通った雰囲気のある和装男子だった。
「あの、大丈夫ですか?」
詩は彼の様子が気になり声をかける。
刃物のような切れ長の瞳がこっちを向いた。
「ご気分が悪いんじゃ……」
そう続けると、男は横になったまま詩を見つめ、ほんの数ミリ口の端を持ち上げた。
「お前、俺が怖くないのか?」
「え……?」
「変なヤツ」
客観的に“変なヤツ”は自分より彼の方じゃないだろうか。詩は頭の隅でそう思う。
「ご気分が悪くないならいいんです。それじゃあ、お休み中のところ失礼しました」
行こうとする詩を、男の声が追いかけた。
「おい!」
「はい……」
詩は振り向く。
「お前誰だ?」
男が頬杖をついた格好になって問いかけた。
「誰って……」
ただの通りすがりの買い物客だ。詩はそう答えようとして思い直す。
「この近くで珈琲ショップをやっています。機会があったら寄ってください」
エプロンのポケットからショップカードを出してベンチに置いた。
「変なヤツ」
再び男が言う。
「けど、変なヤツは嫌いじゃない」
その口調は思いのほかしっかりしていた。酔っ払いかと思ったけれど、たぶん違う。彼は……おそらく神さまだ。
だらしなく横たわるその人にどういうわけか凜とした空気を感じ、詩はもう一度そのあばた顔を見つめた。
スマホの買い物メモを見ながら、詩はお昼の通りを歩いていく。
今は珈琲ガレット調布店も営業中の時間だが、詩は店をソンミンに任せ、足りなくなった食材を買いに出ていた。
この辺りには安売りスーパーから高級店まで食料品を売る店が多くあり、買い出しには困らない。
(クレイジーソルトはどこが一番安いんだっけ?)
つらつらと考えながら歩いていると、駅前広場にいくつかある円形のベンチに、1カ所だけ人のいないところを見つけた。
昼間の人通りが多い時間帯、この辺りのベンチは取り合いのはずだが……。
「……?」
気になってしまい、歩きながらも凝視する。
するとそこにはあばた顔の若い男が、発泡酒の缶と一緒に転がっていた。みんなは彼を避け、このベンチには座らないんだろう。祓戸とどこか似通った雰囲気のある和装男子だった。
「あの、大丈夫ですか?」
詩は彼の様子が気になり声をかける。
刃物のような切れ長の瞳がこっちを向いた。
「ご気分が悪いんじゃ……」
そう続けると、男は横になったまま詩を見つめ、ほんの数ミリ口の端を持ち上げた。
「お前、俺が怖くないのか?」
「え……?」
「変なヤツ」
客観的に“変なヤツ”は自分より彼の方じゃないだろうか。詩は頭の隅でそう思う。
「ご気分が悪くないならいいんです。それじゃあ、お休み中のところ失礼しました」
行こうとする詩を、男の声が追いかけた。
「おい!」
「はい……」
詩は振り向く。
「お前誰だ?」
男が頬杖をついた格好になって問いかけた。
「誰って……」
ただの通りすがりの買い物客だ。詩はそう答えようとして思い直す。
「この近くで珈琲ショップをやっています。機会があったら寄ってください」
エプロンのポケットからショップカードを出してベンチに置いた。
「変なヤツ」
再び男が言う。
「けど、変なヤツは嫌いじゃない」
その口調は思いのほかしっかりしていた。酔っ払いかと思ったけれど、たぶん違う。彼は……おそらく神さまだ。
だらしなく横たわるその人にどういうわけか凜とした空気を感じ、詩はもう一度そのあばた顔を見つめた。
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