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58,玩具*
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「白石類、1996年生まれ、ってーと25歳か? だいぶ若く見えるんだな」
男が、類の財布から抜き取った身分証を見ている。
「けど、実家が東京じゃ獣人なわけないよな。この写真も、どう見ても人間だし」
「返してください!」
男が鼻先まで持ってきた身分証に、類が噛みつこうとした。
けれども身分証はそのまま鼻先をかすめていき、男のバッグにしまわれる。
不安定な体勢をしていた類は、そのままシーツに倒れ込んだ。
「くっ!」
跳ねるスプリングを頬に感じる。
類は今、両手両脚を縛られ、ラブホテルのベッドの上に転がされていた。
目の前にいる男は知らない男だ。
彼はボクサーパンツ1枚で、類は全裸だった。
いったい何があったのか……。
夜のビーチからここまでの記憶は曖昧だった。たぶん薬を嗅がされて、意識を失ったところを車に乗せられた。
「あなたの望みはなんなんですか。ぼくが人間だってことを暴露しても、たいした話題にならないでしょ」
「わかってないなあ、類チャンは」
男が類の首筋に鼻先を押しつける。
「んーっ、とろけるようないい香り! 俺サマ人間チャンが大好物なんだよ。おまえみたいな可愛いのに、首輪はめるのが夢だったわけ」
男の舌が、類の首筋を舐め上げた。
「とはいえ、おまえはにっくきホワイトベアークリームの御曹司でもあるんだよな。薬漬けにして飼い殺しにするのと、手足バラバラにして送り返すのと、どっちがいいかねえ?」
「ひっ、あなた何言って……」
毛に覆われた男の顔を、類は愕然と見上げた。
「なあ類チャン、おまえはどっちがいいと思う?」
「そんなの、どっちもイヤに決まってます!」
「その顔いいねえ!」
男が類の髪をつかんで引き上げる。
「いたっ!」
それから目の前でまぶしいフラッシュが光った。
「えっ、写真?」
「そ。これは身代金要求のために送らせてもらうな」
男がスマホの画面をちらりと見せた。
液晶画面の中では裸にされ手足を縛り上げられた類が、絶望的な顔をしている。
「やめてよそんなっ!」
類は慌てた。
「そんなもの送りつけたら、じいちゃんが心臓麻痺で死んじゃうよ!」
「なるほどな。白石正太郎にひと泡ふかせられるなら万々歳だ」
(え……この人、じいちゃんとホワイトベアークリームに、何か恨みを抱いてる?)
祖父やホワイトベアークリーム社に、獣人たちに恨まれるような何かがあるだろうか。類にはまったく思い浮かばなかった。
「あなた……誰なんですか?」
類はひざ立ちになって聞く。
「俺の顔に見覚えは?」
「…………」
「ふうん、だったら『白熊乳業』は?」
「……えっ?」
確か、ホワイトベアークリーム社の社名変更前がその名前だった。
「ふうん、さすがにそっちは知ってたか。白熊乳業は俺のものになるはずだったんだ。それをおまえのじいさんが俺の親父から、二束三文で買い叩いていったんだよ。俺はそのこと許してねえからな!」
ひざ立ちになっていた類を、男が突き飛ばした。
(この人が白熊乳業の関係者? じいちゃんが買い叩いたって本当に?)
信じられない。けれども以前聞いた虎牙の話とも、その話は符合した。
――もともとの会社……確かその頃はナントカ乳業だったか。潰れかけのアイスクリームメーカーだったらしい。今の社長はそこを買い上げて、会社を大きくしたって話だ。
「だとしても、ベアマンバーをヒットさせて会社を維持してきたのはじいちゃんや、今いるみんなの努力だ」
「ベアマンバー? あれだってもともとウチがライセンス契約するはずだったんだ。それを横から白石正太郎が奪っていった!」
男が吐き捨てた。
「だいたい人間風情が、俺たち獣人に指図するなんて生意気だ! 思い知らせてやる!」
「――わっ!」
頬に平手打ちを食らわされ、類はベッドの上に倒れ込んだ。
「くうっ……」
まだ薬の影響下にあるのか、頭がぐらぐらする。
すぐには体を起こすことができなかった。
「なんだ、一発でお終いか?」
男がのぞき込んでくる。
彼の手が類の太ももにかかった。
「ヒッ……」
「ははっ、そんな顔すんなよ。おまえ、尻で楽しむのキライじゃないだろ? 話はいろいろと聞いてる」
「え、いろいろって……?」
「いろいろ調べさせてもらったさ」
男の指先が、類の足の付け根をなでていく。
「ちょっと調べれば、まあ、あることないこと耳に入ってくる。あんたが男好きで、あの会社に相手がいるとかな」
「!?」
「ははっ、いい反応。おまえさんの正体がズル賢い“人間”だって話より、そっちの方がネタになる。ホワイトベアークリームの御曹司は男狂いで、会社で男漁りし放題。社長の孫じゃ誰も逆らえない。パワハラ、セクハラは当たり前、か」
「……っ、違う! そんなんじゃない!」
否定しながらも類は青くなっていた。あることないことしゃべられたら、ホワイトベアークリームのイメージは地に落ちる。食品メーカーにとって致命的だ。
類は自分のせいで、会社がそんなことになるのは耐えられない。
「ウソだ……お願い、変なこと言わないで……」
「ふふ。ウワサがウソかホントか、おまえのエロい尻が教えてくれるんじゃないのか?」
(……え?)
男にすがろうとする類の後ろに、冷たく硬いものが押しつけられた。
「何、するの……?」
薄暗い部屋にかすかなモーター音が響き始める。
「俺のでふさいでやろうかとも思ったが、お楽しみはあとの方がいい。先にコイツでおまえの尻の具合を確かめてやる」
「や、やぁっ……」
玩具らしきものの先端が小刻みに震え、類の粘膜を刺激した。
「ははっ、すげーもの欲しそうにしてるぞ? 尻の穴、ヒクヒク言ってる」
類は手足を縛られたまま、うつぶせに押さえつけられてしまって身動きが取れない。
暴れれば逆に玩具を体内に誘い込んでしまいそうだ。
「いいのか? イヤならもっとイヤがれよ。その方がこっちも燃える」
(……っ、ぼくはどうしたら……?)
類は歯を食いしばった。
しかしそんな抵抗も空しく男が押しつける力を強めると、玩具はするっと類の体内に侵入してくる。
「ああんっ」
粘膜が硬い玩具を迎え入れる感触。
ぞくぞくしたものが全身を突き抜けた。
男が、類の財布から抜き取った身分証を見ている。
「けど、実家が東京じゃ獣人なわけないよな。この写真も、どう見ても人間だし」
「返してください!」
男が鼻先まで持ってきた身分証に、類が噛みつこうとした。
けれども身分証はそのまま鼻先をかすめていき、男のバッグにしまわれる。
不安定な体勢をしていた類は、そのままシーツに倒れ込んだ。
「くっ!」
跳ねるスプリングを頬に感じる。
類は今、両手両脚を縛られ、ラブホテルのベッドの上に転がされていた。
目の前にいる男は知らない男だ。
彼はボクサーパンツ1枚で、類は全裸だった。
いったい何があったのか……。
夜のビーチからここまでの記憶は曖昧だった。たぶん薬を嗅がされて、意識を失ったところを車に乗せられた。
「あなたの望みはなんなんですか。ぼくが人間だってことを暴露しても、たいした話題にならないでしょ」
「わかってないなあ、類チャンは」
男が類の首筋に鼻先を押しつける。
「んーっ、とろけるようないい香り! 俺サマ人間チャンが大好物なんだよ。おまえみたいな可愛いのに、首輪はめるのが夢だったわけ」
男の舌が、類の首筋を舐め上げた。
「とはいえ、おまえはにっくきホワイトベアークリームの御曹司でもあるんだよな。薬漬けにして飼い殺しにするのと、手足バラバラにして送り返すのと、どっちがいいかねえ?」
「ひっ、あなた何言って……」
毛に覆われた男の顔を、類は愕然と見上げた。
「なあ類チャン、おまえはどっちがいいと思う?」
「そんなの、どっちもイヤに決まってます!」
「その顔いいねえ!」
男が類の髪をつかんで引き上げる。
「いたっ!」
それから目の前でまぶしいフラッシュが光った。
「えっ、写真?」
「そ。これは身代金要求のために送らせてもらうな」
男がスマホの画面をちらりと見せた。
液晶画面の中では裸にされ手足を縛り上げられた類が、絶望的な顔をしている。
「やめてよそんなっ!」
類は慌てた。
「そんなもの送りつけたら、じいちゃんが心臓麻痺で死んじゃうよ!」
「なるほどな。白石正太郎にひと泡ふかせられるなら万々歳だ」
(え……この人、じいちゃんとホワイトベアークリームに、何か恨みを抱いてる?)
祖父やホワイトベアークリーム社に、獣人たちに恨まれるような何かがあるだろうか。類にはまったく思い浮かばなかった。
「あなた……誰なんですか?」
類はひざ立ちになって聞く。
「俺の顔に見覚えは?」
「…………」
「ふうん、だったら『白熊乳業』は?」
「……えっ?」
確か、ホワイトベアークリーム社の社名変更前がその名前だった。
「ふうん、さすがにそっちは知ってたか。白熊乳業は俺のものになるはずだったんだ。それをおまえのじいさんが俺の親父から、二束三文で買い叩いていったんだよ。俺はそのこと許してねえからな!」
ひざ立ちになっていた類を、男が突き飛ばした。
(この人が白熊乳業の関係者? じいちゃんが買い叩いたって本当に?)
信じられない。けれども以前聞いた虎牙の話とも、その話は符合した。
――もともとの会社……確かその頃はナントカ乳業だったか。潰れかけのアイスクリームメーカーだったらしい。今の社長はそこを買い上げて、会社を大きくしたって話だ。
「だとしても、ベアマンバーをヒットさせて会社を維持してきたのはじいちゃんや、今いるみんなの努力だ」
「ベアマンバー? あれだってもともとウチがライセンス契約するはずだったんだ。それを横から白石正太郎が奪っていった!」
男が吐き捨てた。
「だいたい人間風情が、俺たち獣人に指図するなんて生意気だ! 思い知らせてやる!」
「――わっ!」
頬に平手打ちを食らわされ、類はベッドの上に倒れ込んだ。
「くうっ……」
まだ薬の影響下にあるのか、頭がぐらぐらする。
すぐには体を起こすことができなかった。
「なんだ、一発でお終いか?」
男がのぞき込んでくる。
彼の手が類の太ももにかかった。
「ヒッ……」
「ははっ、そんな顔すんなよ。おまえ、尻で楽しむのキライじゃないだろ? 話はいろいろと聞いてる」
「え、いろいろって……?」
「いろいろ調べさせてもらったさ」
男の指先が、類の足の付け根をなでていく。
「ちょっと調べれば、まあ、あることないこと耳に入ってくる。あんたが男好きで、あの会社に相手がいるとかな」
「!?」
「ははっ、いい反応。おまえさんの正体がズル賢い“人間”だって話より、そっちの方がネタになる。ホワイトベアークリームの御曹司は男狂いで、会社で男漁りし放題。社長の孫じゃ誰も逆らえない。パワハラ、セクハラは当たり前、か」
「……っ、違う! そんなんじゃない!」
否定しながらも類は青くなっていた。あることないことしゃべられたら、ホワイトベアークリームのイメージは地に落ちる。食品メーカーにとって致命的だ。
類は自分のせいで、会社がそんなことになるのは耐えられない。
「ウソだ……お願い、変なこと言わないで……」
「ふふ。ウワサがウソかホントか、おまえのエロい尻が教えてくれるんじゃないのか?」
(……え?)
男にすがろうとする類の後ろに、冷たく硬いものが押しつけられた。
「何、するの……?」
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「や、やぁっ……」
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暴れれば逆に玩具を体内に誘い込んでしまいそうだ。
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しかしそんな抵抗も空しく男が押しつける力を強めると、玩具はするっと類の体内に侵入してくる。
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