獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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56,犬型獣人の白石さん

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「あっ、そこの美女たち、今向こうのビーチでアイス配ってるから。食べに来てよ。子どもたちも、ビーチでアイス配ってるぞ! 友達連れて来な!」

 ホワイトボードの車輪を転がしビーチに向かう途中。冬夜は会う人ごとに声をかける。

「兄さん姉さん、どこ行くんだ? え、買い物? その前にアイス食べてかない?」

 通る車にまで笑顔でアピールをしていた。
 そのおかげか、類たちが到着する前に、ベアマンカーの周囲にはそこそこの人だかりができている。

(あれっ、さっきは2、3人しか来てなかったのに!)

「なんか、冬夜が人連れてきてくれたみたいだな?」

 類を見つけて虎牙が言った。

「うん、道すがらいろんな人に声かけてくれて」

 類はラッピングカーの前の見やすい位置にホワイトボードを置くと、虎牙に説明する。
 話題の冬夜はさっそく“美女”たちに囲まれていた。

「そうか、さすが冬夜だな」

 虎牙も感心している。

「うん、あのコミュ力はすごいよね。見習いたいけど……ぼくには一生ムリだなあ……」

「っと、その時、オイラ思いついたんだ!」

 類たちが見守る前で、冬夜はこの新商品プロジェクトがいかにドラマチックなものだったか、まるで自分が担当したかのように語っていた。

「よくあんな流ちょうに、適当なセリフが出てくるよなあ……」

 虎牙が苦笑いになる。

「とはいえ、まるっきりウソでもない感じ」

 どうも冬夜は、類から聞いた話を脚色して話しているようだった。

「ほんとすごい……」
「あいつは口から生まれてきたんだろ。まあ、適材適所でテキトーに任せておけばいい」

 虎牙は苦笑いのまま、ラッピングカーの方へ戻っていった。

 ところがしばらくして、類は笑えない状況に直面する。

「あー、類っち悪い! 今回の新商品のこと、適当に吹聴してたらテレビの取材が来ちまったよ」
「……は!?」

 冬夜の後ろで、すでにテレビカメラが回っていた。

「どうもー! テレビ新集です。新商品の件、少しだけお話をうかがえますか?」
「テレ……え? ちょっと、待っ……」
「まあよかったじゃん! 宣伝になってさ」

 冬夜が類の肩を叩く。

「いや待って? 誰が対応するの?」
「誰って、類っちしかいないだろ。公共の電波で、オイラの適当すぎる話を流すわけにはいかねーし」
「えええ!?」
「ガンバレ担当者!」

 気づいた時には類は、RECランプが光るカメラの前に立っていた。
 猫型獣人の女性キャスターが類にマイクを向ける。

「ずいぶんお若い方がプロジェクトリーダーなんですね。お名前うかがえますか?」
「し、白石……類……です……」
「白石さんですね。では犬型獣人の白石さんにお話を聞いてまいります!」

 類の犬耳カチューシャを見て彼女が言った。

(ぼく、犬型獣人……)

 類はどうしたものか迷いながらカメラを見つめる。
 このVTRが実際に使われて、それを人間の知り合いが見たらびっくりするだろう。でもここで、人間だと訂正するのも話がややこしい。

(なんでこうなった!?)

 結局類は“犬型獣人の白石さん”として取材を受けることになった。

「入社してどれくらいですか?」
「まだ何カ月もたっていなくて、ただのバイトで……」
「それでプロジェクトリーダーに? すごいですね」
「これにはちょっとした事情が……」

 しどろもどろになりながら取材に答える類の耳に、虎牙と冬夜の抑えた声が届く。

「類っち、ガッチガチに緊張してんなー……」
「そう思うなら助けてやれよ……」
「類っちの見せ場をオイラがジャマするわけにはいかないだろー。それに類っちのあのたどたどしさは、逆にウケると思うぞ? 母性本能くすぐる」
「まあ、それはわかる」

(えー、虎牙さんまで冬夜に言いくるめられないでよ……)

 とにかく、誰も助けてくれないらしい。類は腹をくくった。
 こうなったら人前に出るのが苦手だなんて言っていられない。このチャンスを活かさなければ。

「ぼくのことよりシングルベアーの話をさせてください!」

 類は自らラッピングカーの方へカメラを誘導する。

「シングルベアーっていうのがこのアイスの名前なんですが “ひとり時間を楽しむためのアイス”という意味であえて“シングル”と名付けていて。あっ、大人のひとり時間を意識したアイスは我が社では初めてなんです!」
「なるほど、大人向けのアイスってことですね?」
「はい。大人の方に楽しんでいただけるものは、子どもも楽しませられると思っています!」

 類は胸を張った。
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