獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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51,死ぬほど腰に来る

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 アイスが詰まった段ボールを、両手で抱えて持ち上げる。
 日頃、力仕事をしない類は、持ち上げるだけで腕の筋肉がプルプルした。

「類さん、それで最後だよね?」
「はい、これで……!」

 トラックの荷台で待つ竹田さんにパスをして、類は両手をひざにつく。

「は~……」
「え、類さん? 大丈夫?」
「うん、大丈夫……これくらいなんでもないよ……」

 平気な顔をしてみせようとしたけれど、息切れしてしまってダメだった。

 それからふたりで、無事に会社の敷地を出ていく出荷用のトラックを見送った。

「あー、もう、運動不足で恥ずかしい」
「えええ、普通だよ。あれ普通に重いもん!」

 竹田さんが笑ってくれた。
 そんな優しい彼を見て、類は打ち明ける。

「でもぼく、この前工場長に言ったばかりじゃないですか。『力仕事でもなんでもやります!』って。力なんて全然ないのに、できる気になっちゃって。そんな細腕で何ができるのって、工場長は見抜いてたのかも……。それ思うと恥ずかしい……」

 ため息をつき、両手で顔を覆った。
 思えば冬夜は細いのに、筋肉に覆われた体をしている。あんなテキトーで面倒くさがりやな性格だけれども、ちゃんと力仕事を手伝うし、それで鍛えているからだ。

「また荷物の積み込み、手伝わせてもらおう」

 類は自分にうなずく。

「そしたら出荷するアイスの箱をパレットに並べる方の作業があるから、それ手伝ってよ」
「え、いいの?」

 類は自分より背の高い竹田さんを仰ぎ見た。
 彼は小さく笑って言う。

「いいよ。その辺の作業はぼくが管理してるから。ただし死ぬほど腰に来るんで、覚悟しといてくださいね!」
「はい!」

(よかった、これでちょっとはぼくも工場に貢献できるかも!?)

 それから類は、時間がある時はその作業を手伝わせてもらうようになった。

 *

「類、腰どうかした?」

 トイレ掃除に精を出していると、そこへ来た虎牙部長から聞かれた。

「えっ、なんで……」

 類はドキッとして彼を振り向く。

「腰んとこの湿布、前屈みになった時に見えた」
「あー、えーと……これ……。工場の方で、積み込み作業を手伝ってて……」

 今竹田さんの言う『死ぬほど腰に来る』を体感しているところである。

「んんっ? なんで類が積み込み作業なんかしてるんだ?」
「それは……ちょっと話が長くなるんですが……」

 冬夜からのアドバイスを受け工場長を口説くために、お手伝い作戦を決行中だと虎牙に伝えた。
 すると彼は、類の腰の後ろにそっと指先で触れてくる。

「そうだったのか。あのレシピを通すために、類がここまで頑張ってるとは知らなかった」

 指先で腰のラインをなでられるとくすぐったい。

「で、なんで言わなかった?」
「なんでって……」

 じっと見つめてくる虎牙を、類は上目使いに見返した。

「それは、恥ずかしかったから……。ぼく、虎牙さんや冬夜みたいにマッチョじゃないし」
「そんで腰痛めたって言うのが恥ずかしかった?」
「というか、ちゃんと鍛えたいなって思ってるんです」
「ええ……? なんだそれ、可愛いな!」

 心配そうだった彼が、ふっと口元を緩めて笑った。

「俺は類のこの細い腰、好きだよ。初め折れそうで怖いなって思ったけど、見た目より全然しなやかで貪欲……!」

(えっ、それはベッドでのこと言ってる?)

 腰に触れてくる意味深な手にドキドキする。

「あー、つい想像した」

 彼が目を逸らした。

「ええ? 勝手に想像しないでください」
「悪い」
「ぼくも想像しちゃうから……」

 洗面台に映るふたりの顔は、どちらもほんのり赤かった。

「でもなあ、この腰じゃなあ……」

 湿布をポンと叩いて虎牙の手は離れていく。

「当分お預けだな」
「そ、それは治ったらしてくれるってことですか?」

(いや、ぼくは会社で何を!)

 類はますます赤面する。

「類、もしかしてアイス食った?」
「いえ……しらふです……」
「ははっ。しらふでそういうこと言ってくれるんだな」

 笑い声とともに、頭の上にキスが降ってきた。
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