52 / 63
50,お願い! 工場長
しおりを挟む
――翌朝。
「あの! ぼくにお手伝いできることはありませんか? 力仕事でもなんでもいいんで、やらせてください!」
類は工場の入り口で、朝礼をしていた工場長に申し出た。
すると工場長だけでなく、そこに並んでいた従業員たちが、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「えーとその……」
(ああ……ほらやっぱり、これはナイって雰囲気だよ、冬夜……)
類は心の中で、焚きつけてきた冬夜に苦情を言った。
「類さんがやるべきことは工場の仕事じゃなくて、もっと違うことだと思うけど……」
工場長が黙っているので、従業員のひとりが申し訳なさそうに口を開いた。
「でもぼく、工場の仕事についても知りたいし、今日はたまたま時間があるので……」
たまたまというのはもちろんウソで、このために時間を調整してきている。 つまりすべては工場長に近づくための口実だった。
それなのに、朝礼は類を無視して呆気なく終わってしまう。
「えー、では解散!」
「って待ってください、工場長ー!」
涙目になる類を置いて、工場長もみんなも続々と作業エリアに入っていってしまった。
そちらへは衛生服がなければ入れない。
(うう……。初めからこうなるとは思ってたけど、心が折れそう……)
類はアクリル板越しに、それぞれの持ち場へ散っていく彼らを眺めるしかなかった。
この工場には複数の製造ラインがあり、それぞれのラインで日々割り当てられたものを製造している。
(試作用に空けてもらってたラインってどこなんだろ?)
見ているうちにすべてのラインが動き始め、類は少し、その光景に凹んだ。
そんな時、大きな釜のようなミキサーに原材料を投入していた従業員が、アクリル板越しに拳を握るようなジェスチャーをする。
(え……?)
何度か話したことがある、鹿型獣人の青年だった。確かな前は竹田さんだったか。
(あれはもしかして、ぼくにガンバレって言ってる?)
思わずアクリル板に貼り付いてパチパチまばたきしていると、彼は類に親指を立ててみせた。
(ああっ。やっぱりそうなんだ!)
ここに味方は誰もいないと思っていたのに、類はひとりじゃなかったんだ。そのことにとても励まされる。
(うん、そうだね。めげずにまた顔を出そう!)
類はそう心に決めて一旦工場を離れた。
それから数日。
「あ、類さん!」
仕事の合間に工場へ顔を出そうとしていると、外のベンチから声をかけられる。
鹿型獣人の竹田さんだ。
「竹田さん。休憩中ですか?」
「うん。昼メシ食って戻ってきて、今はちょっと時間潰し」
彼はベンチで炭酸飲料を飲みながら、スマホをいじっていたようだった。
「ご一緒してもいいですか?」
「もちろん、座ってください!」
彼が類のために荷物をよけてくれる。
「工場長に会いに来たんですよね?」
「うん、なんとか話を聞いてもらいたくて」
「あれから状況は変わらず?」
「そもそも話せてないんだ。ぼく、工場長に嫌われてるのかも……」
そんなことを言っても仕方がないのに、類はつい弱音を吐いてしまった。
竹田さんは驚いたようにまばたきする。
「いやいや! あの人は誰に対してもああですよ。類さんだけじゃないです!」
「え、そうなんですか?」
「ぼくなんて1回原材料を間違えて“明日から来なくていい”って言われましたからね。あれは会社にとってもエライ大損害だったんですが……」
「そんなことがあったんだ?」
その時のショックを思い出してしまったのか、竹田さんはなんだか青い顔をしていた。
「はい……。工場のラインを動かすっていうのは、ぼくなんかには責任が重いです」
(そっか……)
工場長はラムレーズンがダメだと言っていたけれど、試作のアイスを簡単に作ってもらえないのには、それなりに理由があることなんだろうなと思った。
そんな時、駐車場の方で行われている、配送トラックへの積み込み作業が目に留まる。
「あれって……?」
「どうしました? 類さん」
「なんか様子が変じゃない?」
よく見ると、パレットに積んだアイスの段ボールがバラバラに崩れてしまっているようだ。
「大変だ、手伝いに行こう!」
さっと立ち上がった竹田さんを追いかけて、類もトラックに駆け寄った。
「あの! ぼくにお手伝いできることはありませんか? 力仕事でもなんでもいいんで、やらせてください!」
類は工場の入り口で、朝礼をしていた工場長に申し出た。
すると工場長だけでなく、そこに並んでいた従業員たちが、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「えーとその……」
(ああ……ほらやっぱり、これはナイって雰囲気だよ、冬夜……)
類は心の中で、焚きつけてきた冬夜に苦情を言った。
「類さんがやるべきことは工場の仕事じゃなくて、もっと違うことだと思うけど……」
工場長が黙っているので、従業員のひとりが申し訳なさそうに口を開いた。
「でもぼく、工場の仕事についても知りたいし、今日はたまたま時間があるので……」
たまたまというのはもちろんウソで、このために時間を調整してきている。 つまりすべては工場長に近づくための口実だった。
それなのに、朝礼は類を無視して呆気なく終わってしまう。
「えー、では解散!」
「って待ってください、工場長ー!」
涙目になる類を置いて、工場長もみんなも続々と作業エリアに入っていってしまった。
そちらへは衛生服がなければ入れない。
(うう……。初めからこうなるとは思ってたけど、心が折れそう……)
類はアクリル板越しに、それぞれの持ち場へ散っていく彼らを眺めるしかなかった。
この工場には複数の製造ラインがあり、それぞれのラインで日々割り当てられたものを製造している。
(試作用に空けてもらってたラインってどこなんだろ?)
見ているうちにすべてのラインが動き始め、類は少し、その光景に凹んだ。
そんな時、大きな釜のようなミキサーに原材料を投入していた従業員が、アクリル板越しに拳を握るようなジェスチャーをする。
(え……?)
何度か話したことがある、鹿型獣人の青年だった。確かな前は竹田さんだったか。
(あれはもしかして、ぼくにガンバレって言ってる?)
思わずアクリル板に貼り付いてパチパチまばたきしていると、彼は類に親指を立ててみせた。
(ああっ。やっぱりそうなんだ!)
ここに味方は誰もいないと思っていたのに、類はひとりじゃなかったんだ。そのことにとても励まされる。
(うん、そうだね。めげずにまた顔を出そう!)
類はそう心に決めて一旦工場を離れた。
それから数日。
「あ、類さん!」
仕事の合間に工場へ顔を出そうとしていると、外のベンチから声をかけられる。
鹿型獣人の竹田さんだ。
「竹田さん。休憩中ですか?」
「うん。昼メシ食って戻ってきて、今はちょっと時間潰し」
彼はベンチで炭酸飲料を飲みながら、スマホをいじっていたようだった。
「ご一緒してもいいですか?」
「もちろん、座ってください!」
彼が類のために荷物をよけてくれる。
「工場長に会いに来たんですよね?」
「うん、なんとか話を聞いてもらいたくて」
「あれから状況は変わらず?」
「そもそも話せてないんだ。ぼく、工場長に嫌われてるのかも……」
そんなことを言っても仕方がないのに、類はつい弱音を吐いてしまった。
竹田さんは驚いたようにまばたきする。
「いやいや! あの人は誰に対してもああですよ。類さんだけじゃないです!」
「え、そうなんですか?」
「ぼくなんて1回原材料を間違えて“明日から来なくていい”って言われましたからね。あれは会社にとってもエライ大損害だったんですが……」
「そんなことがあったんだ?」
その時のショックを思い出してしまったのか、竹田さんはなんだか青い顔をしていた。
「はい……。工場のラインを動かすっていうのは、ぼくなんかには責任が重いです」
(そっか……)
工場長はラムレーズンがダメだと言っていたけれど、試作のアイスを簡単に作ってもらえないのには、それなりに理由があることなんだろうなと思った。
そんな時、駐車場の方で行われている、配送トラックへの積み込み作業が目に留まる。
「あれって……?」
「どうしました? 類さん」
「なんか様子が変じゃない?」
よく見ると、パレットに積んだアイスの段ボールがバラバラに崩れてしまっているようだ。
「大変だ、手伝いに行こう!」
さっと立ち上がった竹田さんを追いかけて、類もトラックに駆け寄った。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
俺の小学生時代に童貞を奪ったえっちなお兄さんに再会してしまいました
湊戸アサギリ
BL
今年の一月にピクシブにアップしたものを。
男子小学生×隣のエロお兄さんで直接的ではありませんが性描写があります。念の為R15になります。成長してから小学生時代に出会ったお兄さんと再会してしまうところで幕な内容になっています
※成人男性が小学生に手を出しています
2023.6.18
表紙をAIイラストに変更しました
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
優等生の弟に引きこもりのダメ兄の俺が毎日レイプされている
匿名希望ショタ
BL
優等生の弟に引きこもりのダメ兄が毎日レイプされる。
いじめで引きこもりになってしまった兄は義父の海外出張により弟とマンションで二人暮しを始めることになる。中学1年生から3年外に触れてなかった兄は外の変化に驚きつつも弟との二人暮しが平和に進んでいく...はずだった。
超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。
篠崎笙
BL
斎藤一は平均的日本人顔、ごく普通の高校生だったが、神の戯れで超絶美形だらけの異世界に送られてしまった。その世界でイチは「カワイイ」存在として扱われてしまう。”夏の国”で保護され、国王から寵愛を受け、想いを通じ合ったが、春、冬、秋の国へと飛ばされ、それぞれの王から寵愛を受けることに……。
※子供は出来ますが、妊娠・出産シーンはありません。自然発生。
※複数の攻めと関係あります。(3Pとかはなく、個別イベント)
※「黒の王とスキーに行く」は最後まではしませんが、ザラーム×アブヤドな話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる