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46,塩プリン
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「やっほー、アニキ、来てやったぞ♪」
玄関を開けた虎牙の首に、冬夜が抱きつく。
その脇を素通りして、帝が部屋の中まで入ってきた。
「アリバイ作りに私を呼び出すなんて、いい度胸ですね」
部屋の奥にいた類を見て、彼は銀縁眼鏡を押し上げた。
「アリバイっていうか……。帝さん、ぼく一人じゃ虎牙さんの家に行かせなかったでしょ」
「では、類さんの発案ですか?」
「ううん、ぼくじゃなくて……」
類は、冬夜に抱きつかれている虎牙を見る。
「なるほど。悪知恵の働く大人だ」
帝も呆れ顔で彼を見た。
「で、今日はなんの会ですか?」
「なんだろ。男4人で映画鑑賞でもする?」
ようやく冬夜の腕を逃れてきた虎牙が、部屋の棚からアクション映画のソフトを見繕った。
「なんでもいいから類さんと一緒にいたいんですね。いい年して、高校生か何かですか」
「今夜は類と一緒にいる必要があるんだよ。飲みの誘いを断るのに、類の名前を使ったから」
(あれ? じゃあ、山井さんに言った『類とイイコト』は、『ぼくと映画』ってことになる……?)
当然向こうももっと色っぽいことを想像しているだろう。類だってめちゃくちゃ期待したし……。
さっき噛んだり舐めたりされた首筋が熱くなる。
「あ、類っち、ちょっとアレな匂いがする」
虎牙から離れた冬夜が、今度は類の首に抱きついてきた。
「さてはアニキとやらしいことしてた?」
「……!?」
「悪いな、ジャマして。それとも1回戦目が終わったとこ? いや、まだ終わってないか。セーエキの匂いしないし」
「冬夜、一回口閉じよっか! それと鼻も!」
類は慌てて帝を見た。冬夜の余計な発言のせいで、帝にキレられたくはない。
「待て待て、オイラを殺す気かー!? 口も鼻も閉じたら息できない」
「それもそうだね、ごめん」
「オイラも類っちのえっちな穴なら、いくらでもふさいでやるんだけどな。でも類っちはアニキのがいいのかー、そうかそうかー」
「やっぱり口ふさごっか!」
類は冬夜の上唇と下唇を、指でまとめてつかんだ。
そうこうしている間に虎牙はデッキに映画のソフトを入れて、帝はテーブルで手土産の箱を広げていた。
「帝さん、なんですかそれ?」
類は思わず目を引き寄せられる。瓶入りのプリンか何かみたいだ。
「塩プリン、塩をかけて食べるそうです。美味しいと聞いたので買ってみました」
「へええ、知らなかった」
「その箱、アイスかと思った」
虎牙がテレビの前から振り返る。
「確かに某社のテイクアウトボックスに似てますね」
帝がプラスチックスプーンの数を数えながら言った。
類は塩プリンの丸っこい瓶を手に取りながら考える。
「でも手土産だったらケーキとか、ちょっといいスイーツの方が普通かも……」
「そうだよなー。ちょっといいスイーツには敵わないよな。コンビニでも買えるし!」
冬夜も塩プリンの瓶を嬉しそうに眺めた。
「アイス屋がそういうなよ」
虎牙が苦笑いを浮かべる。
「とはいえ、ここ2、30年でアイスクリームの売り上げが減った分は、コンビニスイーツに食われてるっぽいしな。街の洋菓子屋がどんどん減ってく現状からいっても、コンビニスイーツの一人勝ちだもんな。なんとかしたいよな」
「売り上げ減の要因は、主に少子化では?」
帝が口を挟む。
「当然それもあるだろうが、俺たちが頑張って、少子化をどうこうできるわけじゃないしな」
我らが開発部長は何か言いたげだ。が、その先は思案顔で口をへの字に曲げるだけだった。
(虎牙さんは何を考えてるんだろう?)
類は仕事の顔になった虎牙の横顔を見つめる。
そのうちにテレビ画面には映画の本編が流れ始めた。宇宙を舞台にした有名なアクション映画だ。人間だけでなく、このシリーズでは主要キャラとして犬型獣人やアンドロイドも活躍している。
「あっ。このシリーズ、オイラ子どもの頃から大好きだ!」
冬夜の目が輝いた。
帝は淡々と言う。
「私もこのシリーズについては、一般常識として一通り履修しています」
「シリーズ通して見てるなら、それはもう十分ファンだろ」
虎牙がツッコんだ。
そうしてみんなの視線が映画に吸い寄せられる中、類の思考はさっきの話題から離れられずにいた。
(もしかして虎牙さんは、コンビニスイーツに勝とうって考えてる?)
だったら答えは……。
――これからの時代、どんなのが売れるのか考えてみろよ。
あの時の問いの答えにも、きっと繋がる。
「そうだ。大人がワクワクするようなアイスクリームを作ろう」
「……えっ?」
虎牙が、冬夜が振り向く。
「唐突ですね」
帝も類を振り向いた。
冬夜が言う。
「よくわかんねーけど面白そうだな! 類っちの作るアイスで、オイラもワクワクしたい」
「うん、ぼく自身もワクワクしたい!」
口に入れた塩プリンが、独特の刺激を脳に運んだ。
大人を満足させられる品質とアイデアを。そうだ、それならきっと、子どもだって好きになってくれる。
何かいいヒラメキが、降りてきてくれそうな予感がした――。
玄関を開けた虎牙の首に、冬夜が抱きつく。
その脇を素通りして、帝が部屋の中まで入ってきた。
「アリバイ作りに私を呼び出すなんて、いい度胸ですね」
部屋の奥にいた類を見て、彼は銀縁眼鏡を押し上げた。
「アリバイっていうか……。帝さん、ぼく一人じゃ虎牙さんの家に行かせなかったでしょ」
「では、類さんの発案ですか?」
「ううん、ぼくじゃなくて……」
類は、冬夜に抱きつかれている虎牙を見る。
「なるほど。悪知恵の働く大人だ」
帝も呆れ顔で彼を見た。
「で、今日はなんの会ですか?」
「なんだろ。男4人で映画鑑賞でもする?」
ようやく冬夜の腕を逃れてきた虎牙が、部屋の棚からアクション映画のソフトを見繕った。
「なんでもいいから類さんと一緒にいたいんですね。いい年して、高校生か何かですか」
「今夜は類と一緒にいる必要があるんだよ。飲みの誘いを断るのに、類の名前を使ったから」
(あれ? じゃあ、山井さんに言った『類とイイコト』は、『ぼくと映画』ってことになる……?)
当然向こうももっと色っぽいことを想像しているだろう。類だってめちゃくちゃ期待したし……。
さっき噛んだり舐めたりされた首筋が熱くなる。
「あ、類っち、ちょっとアレな匂いがする」
虎牙から離れた冬夜が、今度は類の首に抱きついてきた。
「さてはアニキとやらしいことしてた?」
「……!?」
「悪いな、ジャマして。それとも1回戦目が終わったとこ? いや、まだ終わってないか。セーエキの匂いしないし」
「冬夜、一回口閉じよっか! それと鼻も!」
類は慌てて帝を見た。冬夜の余計な発言のせいで、帝にキレられたくはない。
「待て待て、オイラを殺す気かー!? 口も鼻も閉じたら息できない」
「それもそうだね、ごめん」
「オイラも類っちのえっちな穴なら、いくらでもふさいでやるんだけどな。でも類っちはアニキのがいいのかー、そうかそうかー」
「やっぱり口ふさごっか!」
類は冬夜の上唇と下唇を、指でまとめてつかんだ。
そうこうしている間に虎牙はデッキに映画のソフトを入れて、帝はテーブルで手土産の箱を広げていた。
「帝さん、なんですかそれ?」
類は思わず目を引き寄せられる。瓶入りのプリンか何かみたいだ。
「塩プリン、塩をかけて食べるそうです。美味しいと聞いたので買ってみました」
「へええ、知らなかった」
「その箱、アイスかと思った」
虎牙がテレビの前から振り返る。
「確かに某社のテイクアウトボックスに似てますね」
帝がプラスチックスプーンの数を数えながら言った。
類は塩プリンの丸っこい瓶を手に取りながら考える。
「でも手土産だったらケーキとか、ちょっといいスイーツの方が普通かも……」
「そうだよなー。ちょっといいスイーツには敵わないよな。コンビニでも買えるし!」
冬夜も塩プリンの瓶を嬉しそうに眺めた。
「アイス屋がそういうなよ」
虎牙が苦笑いを浮かべる。
「とはいえ、ここ2、30年でアイスクリームの売り上げが減った分は、コンビニスイーツに食われてるっぽいしな。街の洋菓子屋がどんどん減ってく現状からいっても、コンビニスイーツの一人勝ちだもんな。なんとかしたいよな」
「売り上げ減の要因は、主に少子化では?」
帝が口を挟む。
「当然それもあるだろうが、俺たちが頑張って、少子化をどうこうできるわけじゃないしな」
我らが開発部長は何か言いたげだ。が、その先は思案顔で口をへの字に曲げるだけだった。
(虎牙さんは何を考えてるんだろう?)
類は仕事の顔になった虎牙の横顔を見つめる。
そのうちにテレビ画面には映画の本編が流れ始めた。宇宙を舞台にした有名なアクション映画だ。人間だけでなく、このシリーズでは主要キャラとして犬型獣人やアンドロイドも活躍している。
「あっ。このシリーズ、オイラ子どもの頃から大好きだ!」
冬夜の目が輝いた。
帝は淡々と言う。
「私もこのシリーズについては、一般常識として一通り履修しています」
「シリーズ通して見てるなら、それはもう十分ファンだろ」
虎牙がツッコんだ。
そうしてみんなの視線が映画に吸い寄せられる中、類の思考はさっきの話題から離れられずにいた。
(もしかして虎牙さんは、コンビニスイーツに勝とうって考えてる?)
だったら答えは……。
――これからの時代、どんなのが売れるのか考えてみろよ。
あの時の問いの答えにも、きっと繋がる。
「そうだ。大人がワクワクするようなアイスクリームを作ろう」
「……えっ?」
虎牙が、冬夜が振り向く。
「唐突ですね」
帝も類を振り向いた。
冬夜が言う。
「よくわかんねーけど面白そうだな! 類っちの作るアイスで、オイラもワクワクしたい」
「うん、ぼく自身もワクワクしたい!」
口に入れた塩プリンが、独特の刺激を脳に運んだ。
大人を満足させられる品質とアイデアを。そうだ、それならきっと、子どもだって好きになってくれる。
何かいいヒラメキが、降りてきてくれそうな予感がした――。
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