獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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42,歯型

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 どこかでドアのブザーが鳴っている。

 まただ。

(ん~……)

「類さん? まだ寝てるんですか? 朝ですよ!」

(帝さんの声だ……。ってことは、この部屋の?)

「いないんですか? 開けますよ?」

 玄関の鍵が開く硬い金属音がした。帝は寮のマスターキーを持っている。

(起きなきゃ……!)

「類さん」

 目を開けると、ちょうど帝が部屋へ入ってきたところだった。

「ん……。帝さん、おはよ……」

 類はベッドの上で重い体を引き起こす。
 帝の目が類のいるベッドを捉え、そして眼鏡の奥の瞳が見開かれた。

「…………!? これはどういうことですか?」

 彼の顔には明らかな動揺の色が浮かんでいた。

「え……何が?」

 部屋を散らかしすぎただろうか。そう思って、類も身を起こしつつ周囲を見回す。すると……。

「……のわっ!? 冬夜!?」
「んー、類っち……おはよ……」

 同じベッドで冬夜が大きく伸びをする。
 冬夜も類自身も、一糸まとわぬ姿だった。

(そうだ! 昨日冬夜とアイスパーティして、それからいろいろあって寝落ちして……)

“いろいろ”はつまり性行為的な何かと、一緒にシャワーを浴びたことなのだが……。
 あのあと解散すればよかったものの、アイスの効果が抜けきらない類はそのまま寝落ちしてしまったのだ。

(うわあぁ……これはマズすぎる……)

 よりにもよって、帝に現場を押さえられてしまうなんて。

「ゴホン!」

 彼が咳払いした。
 類は反射的に背筋を伸ばし、恐る恐る帝を見る。空気が重い……。

 言い訳が思いつかない類より先に、声をあげたのは冬夜だった。

「あー……帝サン、おはようございます……。じゃあ、オイラはこの辺で。類っちまたなー!」

 彼は文字通り、尻尾を丸めて逃げるらしい。その辺に散らばっていた衣類を適当に丸め、全裸の前を隠しながら帝の脇をすり抜ける。

「犬束さん」
「ひっ!」
「逃げても無駄です。あとで事情聴取にうかがいます」
「はひ!」

 帝ににらまれ、冬夜は小走りに逃げていった。
 残された類はベッドの上に正座し、仁王立ちの帝と対峙する。

「さて、類さん」
「は、はい……」
「説明していただきましょうか」
「……何から説明すればいいのやら……」
「最近は精力的にお仕事されていたようなので、私もつい、安心してしまいましたが……」

 帝の手が伸びてきて、類の耳たぶをひねり上げた。

「いたい! いたい! いたい!」
「どうしようもない人ですね! 虎牙部長だけでは飽き足らず、あんな若いツバメにまで手を出すなんて」
「え、ツバメっていうか犬……?」

 類は思わず余計な口を挟んでしまう。けど“若いツバメ”というのは年下の愛人を表わす言葉だっただろうか。

「はあっ!? 何か言いましたか!?」
「い、いいえ!!」

 案の定、火に油を注ぐ結果になってしまった。

「関係を持ったことは認めるんですね?」
「ええっ……?」

 今度は正面から顔をのぞき込まれ、類は息を呑みながらも考え込む。

「そうじゃなくて、昨日ぼくが獣人用のアイス食べ過ぎたせいでフワフワしちゃって……。冬夜とはその、緊急避難的なアレで……だからお互い下心があったわけじゃなくて……」
「なるほど……」

 帝の視線がテーブルの上にあるアイスの残骸に向けられた。
 けれどもその視線はすぐに類の方へ戻ってくる。

「つまり、結論としては関係を持ったということですね?」
「えーっと、んんっ? そうなっちゃう?」

 はて“関係”とは、セックスの定義とはどんなだっただろうか。
 斜め上に視線を泳がせる類に、帝が渋い顔で言った。

「では聞き方を変えましょう。一方または両方が相手の性器に触れましたか」

 そういう聞き方をされればばっちり“黒”だった。

「触れ……ました……はい……」

 類はまた小さくなって下を向いた。
 帝がこれ見よがしなため息をつく。

「アイスは当分禁止しましょう」
「は……!? でもぼく、アイスクリームメーカーで働いてるんだよ?」

 類としては青天の霹靂だった。

「社内公募のアイデアの選定もあるし、そのあとは商品化に向けた試作も始めなきゃならない」
「………………」

 帝はもの言いたげな目で見つめる。

「そうじゃなくてもぼく、アイスのこと知らなすぎたから。今はいろいろ食べてみて、知識でちゃんとみんなに追いつきたいし。とにかく勉強したいんだ! だから、困る」
「アナタにそんな気持ちがあったんですね」
「え……」

 ドキリとした。確かに、少し前の類なら考えられないことだった。こんなにアイスに一生懸命になるなんて……。

「……ぼく……ぼくは……」

 戸惑う類を見つめながら、帝がそっと手を引き寄せた。
 引き上げられた手の甲に、唇が押しつけられる。

「類さん……」
「帝さん……?」
「お気持ちはわかりました。ですが……」

 キッと上目遣いににらまれる。

「アイスは駄目です!」
「ひぁんっ!?」

 小指に、指輪みたいな歯型をつけられてしまった。
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