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40,冬夜のしっぽが止まるとき
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(冬夜、本当に来るのかな?)
類は半信半疑のまま、寮へ続く道を歩いていた。
帰り道の途中までは帝の車に乗せてもらっていたが、買い物のため近所のスーパーで下ろしてもらって、そのあとはひとりだった。
両手には買い物袋とトイレットペーパー。買い物袋にはスーパーで見つくろったアイスがいくつか入っている。
――類も前よりアイスのことに詳しくなったと思うからさ。これからの時代、どんなのが売れるのか考えてみろよ。
虎牙にああ言われて以来、類は新しいアイスを見つけては毎日家で試していた。
(でっかいあんみつアイス2個も買っちゃったけど、きっと冬夜も食べるよね?)
“あんみつアイス”というのもレアだけれど、地元メーカーの製品ということで興味を持ったのだ。
それから寮に到着し、階段を昇ろうとしていると、後ろから声をかけられる。
「類っちー!」
片手に買い物袋を提げた冬夜が手を振っていた。
「さっき上まで行ってピンポンしたけど、おまえいなかったからさー。スーパー行ってアイス買ってきたんだよ!」
「えっ?」
「戻ってなかったらどうしようかと思った」
なんと彼の掲げる買い物袋にも、美味しそうなフルーツシャーベットがいくつも入っている。
「実を言うとぼくも……」
類も、さっき買ったあんみつアイスを袋から出して見せた。
「おお、すげえ!」
そばまで来た冬夜が目を輝かせた。
「今夜はアイスパーティーだなー!」
「昼にも食べたのにね……」
「いいじゃんアイスうまいんだし! オイラは朝昼晩アイスでも構わない!」
「三食アイスかあ。ふふっ、冬夜のそういうところいいよね」
微笑ましく思いながら、類は彼を301号室に招き入れた。
冬夜と変な空気になることを心配していたけれど、どうも今はそんな感じでもなさそうだ。
それから類はコーヒーを入れ、冬夜とふたり、ローテーブルで“アイスパーティー”を始めた。
「そうそう、ここのあんみつアイスはアタリだぞ!」
冬夜が教える。
「ホントに? ぼく、あんみつアイスって初めてなんだけど」
買ってきたあんみつアイスはバニラアイスの上にフルーツや求肥のお餅、それに練乳と黒蜜がかかったもののようだった。
「あんみつアイスは新集名物なんだよ。アイスクリームメーカーだけじゃなくて、市内の和菓子屋や洋菓子店でも作ってて」
「そうだったんだ?」
「とはいえ最近はレーズンサンドや生プリンの方が流行ってて、あんみつアイスは下火なんだけどな」
「そっか。そういうのと比べると、持ち帰りに不便なアイスは不利だよね……」
類はあんみつアイスにスプーンを入れながら、考えを巡らせる。
「あ、美味しい」
「だろー? 逆にアイスは、冷凍しとけば日持ちするってところが強みだからさ。状況によっては今後、あんみつアイスが盛り返すかもしれない」
冬夜はそんなふうに分析した。
「じゃあ、課題はお土産用のあんみつアイスの配送ってことかな?」
「そうそう、送料が高くつかなければ」
「最近はいろんな配送サービスがあるしね。アイスを配送するベアマンカーみたいのがあれば……」
「ああ~! そうだな。けどあれは、主にサンプリングのためのものらしい」
類もそれは知っていた。
(あんみつアイスに、ベアマンバーのラッピングカー。何か新商品に活かせないのかな……)
今は何も浮かばない。類は浮かんだ単語だけを、頭のメモに書き留めた。
「オイラの買ってきたフルーツシャーベットも食べてくれよ。これも地元のフルーツを使っててさ」
冬夜に勧められ、フルーツ型の容器に入ったシャーベットにもスプーンを入れる。
「何これ、うま!」
「ひひひ。さすがにご贈答用のやつだからなー。ウマくて当然! B級品を地元のスーパーに卸してるんだよ。これはそれ」
「へえ、冬夜はなんでも知ってるね」
「地元長いからさ」
そう言いつつ営業マンとして、しっかり情報収集しているんだろう。
類はアイスを食べながら、彼の話をあれこれ聞かせてもらった。
(今日は冬夜のおかげでいろいろ知れてよかったな……)
気づけば窓の外の空はすっかり夜の色だ。
疲労からか、少し頭がフワフワする。
「類っち、眠いのか? さっきから、なんかトロンとしてる」
冬夜がテーブルの向こうから、類の顔をのぞき込んできた。
「……あれっ?」
「なに……?」
「いやっ、類っちおまえ……」
冬夜はぽかんと口を開け、類の顔を食い入るように見つめる。
「なんで発情してんの……!?」
「発情? なんでぼくが……」
ふたりきりの部屋で、見つめ合う冬夜の目が泳ぐ。
「え、何? どういうこと? 急に黙んないでよ!」
いつもならパタパタと騒がしく動く、冬夜の尻尾が止まっていた。
彼が後ろに腕を突く。
その分、見つめ合っていた顔と顔の距離が離れ……。
(……あっ)
類は思わず追いかけて、ローテーブルの向こう側まで行っていた。
「る、類……?? 近い近い!」
「とう、や……」
彼の瞳の中をのぞき込む。
頬をつかみ、反らされかけた視線を自分の方へ向けた。
冬夜が赤い顔でまばたきする。
「お、オイラ的に大歓迎だけど、でも……たぶん上下逆!」
「逆って何?」
「だからっ。オイラ組み敷かれる方は経験ないし……」
彼が類の尻の下からどこうとした。
(何……冬夜がおびえてる?)
話がうまく理解できないのは、類の頭が働いていないからなのか。
不思議に思って部屋を見回した時、テーブルの上にあるアイスのカップが目に映る。
(え……?)
嫌な予感がした。
(え、まさかっ、もしかして……!?)
原材料表示の小さな文字を見つめる。
「これっ、確か……」
「えっ、どうした類っち?」
「これ……」
小さな文字に焦点が合い、嫌な予感が現実になった。
「あのね、冬夜。冬夜が言うとおり、ぼく、発情してるのかも……」
そこに記されているのはどうも、例の類には合わない獣人向けの添加物らしかった。
類は半信半疑のまま、寮へ続く道を歩いていた。
帰り道の途中までは帝の車に乗せてもらっていたが、買い物のため近所のスーパーで下ろしてもらって、そのあとはひとりだった。
両手には買い物袋とトイレットペーパー。買い物袋にはスーパーで見つくろったアイスがいくつか入っている。
――類も前よりアイスのことに詳しくなったと思うからさ。これからの時代、どんなのが売れるのか考えてみろよ。
虎牙にああ言われて以来、類は新しいアイスを見つけては毎日家で試していた。
(でっかいあんみつアイス2個も買っちゃったけど、きっと冬夜も食べるよね?)
“あんみつアイス”というのもレアだけれど、地元メーカーの製品ということで興味を持ったのだ。
それから寮に到着し、階段を昇ろうとしていると、後ろから声をかけられる。
「類っちー!」
片手に買い物袋を提げた冬夜が手を振っていた。
「さっき上まで行ってピンポンしたけど、おまえいなかったからさー。スーパー行ってアイス買ってきたんだよ!」
「えっ?」
「戻ってなかったらどうしようかと思った」
なんと彼の掲げる買い物袋にも、美味しそうなフルーツシャーベットがいくつも入っている。
「実を言うとぼくも……」
類も、さっき買ったあんみつアイスを袋から出して見せた。
「おお、すげえ!」
そばまで来た冬夜が目を輝かせた。
「今夜はアイスパーティーだなー!」
「昼にも食べたのにね……」
「いいじゃんアイスうまいんだし! オイラは朝昼晩アイスでも構わない!」
「三食アイスかあ。ふふっ、冬夜のそういうところいいよね」
微笑ましく思いながら、類は彼を301号室に招き入れた。
冬夜と変な空気になることを心配していたけれど、どうも今はそんな感じでもなさそうだ。
それから類はコーヒーを入れ、冬夜とふたり、ローテーブルで“アイスパーティー”を始めた。
「そうそう、ここのあんみつアイスはアタリだぞ!」
冬夜が教える。
「ホントに? ぼく、あんみつアイスって初めてなんだけど」
買ってきたあんみつアイスはバニラアイスの上にフルーツや求肥のお餅、それに練乳と黒蜜がかかったもののようだった。
「あんみつアイスは新集名物なんだよ。アイスクリームメーカーだけじゃなくて、市内の和菓子屋や洋菓子店でも作ってて」
「そうだったんだ?」
「とはいえ最近はレーズンサンドや生プリンの方が流行ってて、あんみつアイスは下火なんだけどな」
「そっか。そういうのと比べると、持ち帰りに不便なアイスは不利だよね……」
類はあんみつアイスにスプーンを入れながら、考えを巡らせる。
「あ、美味しい」
「だろー? 逆にアイスは、冷凍しとけば日持ちするってところが強みだからさ。状況によっては今後、あんみつアイスが盛り返すかもしれない」
冬夜はそんなふうに分析した。
「じゃあ、課題はお土産用のあんみつアイスの配送ってことかな?」
「そうそう、送料が高くつかなければ」
「最近はいろんな配送サービスがあるしね。アイスを配送するベアマンカーみたいのがあれば……」
「ああ~! そうだな。けどあれは、主にサンプリングのためのものらしい」
類もそれは知っていた。
(あんみつアイスに、ベアマンバーのラッピングカー。何か新商品に活かせないのかな……)
今は何も浮かばない。類は浮かんだ単語だけを、頭のメモに書き留めた。
「オイラの買ってきたフルーツシャーベットも食べてくれよ。これも地元のフルーツを使っててさ」
冬夜に勧められ、フルーツ型の容器に入ったシャーベットにもスプーンを入れる。
「何これ、うま!」
「ひひひ。さすがにご贈答用のやつだからなー。ウマくて当然! B級品を地元のスーパーに卸してるんだよ。これはそれ」
「へえ、冬夜はなんでも知ってるね」
「地元長いからさ」
そう言いつつ営業マンとして、しっかり情報収集しているんだろう。
類はアイスを食べながら、彼の話をあれこれ聞かせてもらった。
(今日は冬夜のおかげでいろいろ知れてよかったな……)
気づけば窓の外の空はすっかり夜の色だ。
疲労からか、少し頭がフワフワする。
「類っち、眠いのか? さっきから、なんかトロンとしてる」
冬夜がテーブルの向こうから、類の顔をのぞき込んできた。
「……あれっ?」
「なに……?」
「いやっ、類っちおまえ……」
冬夜はぽかんと口を開け、類の顔を食い入るように見つめる。
「なんで発情してんの……!?」
「発情? なんでぼくが……」
ふたりきりの部屋で、見つめ合う冬夜の目が泳ぐ。
「え、何? どういうこと? 急に黙んないでよ!」
いつもならパタパタと騒がしく動く、冬夜の尻尾が止まっていた。
彼が後ろに腕を突く。
その分、見つめ合っていた顔と顔の距離が離れ……。
(……あっ)
類は思わず追いかけて、ローテーブルの向こう側まで行っていた。
「る、類……?? 近い近い!」
「とう、や……」
彼の瞳の中をのぞき込む。
頬をつかみ、反らされかけた視線を自分の方へ向けた。
冬夜が赤い顔でまばたきする。
「お、オイラ的に大歓迎だけど、でも……たぶん上下逆!」
「逆って何?」
「だからっ。オイラ組み敷かれる方は経験ないし……」
彼が類の尻の下からどこうとした。
(何……冬夜がおびえてる?)
話がうまく理解できないのは、類の頭が働いていないからなのか。
不思議に思って部屋を見回した時、テーブルの上にあるアイスのカップが目に映る。
(え……?)
嫌な予感がした。
(え、まさかっ、もしかして……!?)
原材料表示の小さな文字を見つめる。
「これっ、確か……」
「えっ、どうした類っち?」
「これ……」
小さな文字に焦点が合い、嫌な予感が現実になった。
「あのね、冬夜。冬夜が言うとおり、ぼく、発情してるのかも……」
そこに記されているのはどうも、例の類には合わない獣人向けの添加物らしかった。
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